欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

遠い輝きにささやく言葉

2011-08-01 | poem



見送りに来てくれてありがとう。
みんなで送れないのが残念ね。
駅の舎内に鐘の音が響き、列車が入ってくる。
ホームに立っているふたり。
忘れ物はない?
ないと思うけど、あればまた連絡する・・。
楽しい生活が送れるといいわね。
不安はあるけど、がんばってみるから・・。
誰だってそうよ。最初はつらいことも多いけど、そのうち楽しいことを見つけやすくなるわ。
孫がおばあちゃんの腕をつかむ。
しっかりやってきなさい。お星様はどこにいてもあなたを見守ってくれるから。
孫はうなずき。
おばあちゃんと一緒にいられないのが淋しい・・。
あら、あなた時計は?
いらない。携帯もあるし、どこにでも時間はわかるから。
おばあちゃんがコートのポケットに手を入れて、小さな黒い時計をとりだす。
持っていきなさい。わたしからのお守り。
いいわ。なんだか悲しくなっちゃうから。
車掌が発車をつげる鐘をならす。
じゃあ、行ってくるから。
ふたりは抱き合い。
心配いらない。素敵な生活があなたを待っているから。
ありがとう。
孫は列車に乗り込み、座席の方へ。そして、窓をあけて。
やっぱり時計持っていくわ。むこうで大切につけるから。
おばあちゃんは時計を渡して。
むかしおじいちゃんと一緒のものを持っていたのよ。
遠くに行く時はいつもお互いに身につけていたものなの。
これでおじいちゃんといつもつながっていたのよ。
そんな大切なもの、いいの?
だから、これはお守りになるの。
むこうに行ってもまた連絡する。
いろいろあるかもしれないけれど、お星様はいつも輝いているわ。気持ちはどこにいても通じ合えるから。
うん、がんばってくる。
そう、その調子。いい女になりなさい。
車掌のかけ声がホームに響き、列車が動きはじめる。
孫はうつむいて、黒い時計をにぎりしめている。
しばらくすると、窓の向こうに目をやってみる。褐色の空にいくつかの輝きを見て。
これからはよろしくお願いしますと笑みをつくってみた。
すると、気持ちがふっと軽くなって、おばあちゃんのささやく声がいつまでも耳の中に響いていた。


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2 Comments

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繋がるもの (夕美)
2011-08-13 07:06:08
おばあちゃんが差し出した小さな黒い時計は、
懐中時計だったのでしょうか?
何となく懐中時計ようなイメージが湧きました

お守りがあるだけで、人は辛い出来ごとも乗り切れる時があるのですよね
心が入ったものは、心と同じですね
あぁ、そうですね (makoto)
2011-08-15 04:59:40
懐中時計ですかぁ。
この書いている時はそんなことは思わなかったですが、言われてみるとそんな時計がお似合いかもしれませんね。
なににしても、人の心は日常に大きな作用を生み出しているものですから、注意深いうかがっていると思わぬ発見があり、思わぬ人生の転機になるかもしれませんね

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