会期はすでに終わったが
そごう美術館30周年と鈴木信太郎生誕120周年を記念して
美術館が所蔵している信太郎の絵80点を中心にして
10月にノーベル賞を受賞した大村智博士の鈴木信太郎コレクションも展示されていた。
フライヤーの絵は「象と見物人」(1930年)
奈良でサーカスを見た時の様子を描いた絵。
東京の西荻窪「こけし屋」と学芸大学駅前の「マッターホーン」などの洋菓子店の
包装紙が人気の鈴木信太郎の絵。
「マッターホーン」は何度も寄る店で馴染みが深いので
多くの作品を鑑賞できた貴重な展示会だった。
1895年(明治28)に八王子で生糸業と宿屋の仲介業を営む商家に生まれ、
幼い時に病のため足が不自由になった信太郎は車椅子や地に座して描いていた。
無心に絵筆を動かしたであろう気持ちが伝わるような絵から
そのまなざしが曇りのないきれいなものに感じたのは自分だけだろうか。
杖や車いすを用いる不自由な足にもかかわらず
長崎、奈良、伊豆や千葉などに旅をして絵を描いていた。
室内で長く過ごす彼にとって旅の風景は新鮮な環境であり
まだ知り得ぬ色彩や形とめぐりあえる未知を求めたのが旅だったのかも知れない。
「石垣の上の家」(1982年)
絵本に出てくるような可愛らしさ。
包装紙の絵を見るようで親近感をおぼえる少女の絵(制作年不詳)
今は無機質なビルが都会に限らず日本に増え続けていく時代。
でも時代が進もうと大正・昭和の初めのころの郷愁を感じさせる絵を
ずっと描き続けた鈴木信太郎の絵は
安らぎと失われたありし日の風景を与えてくれるようだった。