日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

詩人の血 ジャン・コクトー

2009-06-27 | Jean Cocteau

コクトーが映画製作を手がけた最初の作品 「詩人の血」 は ジャン・コクトーという詩人の内部を画像で見ることができる映画である。
コクトーの叙情は「目に見える自分の血と見えない血によって」(コクトー)視覚化された。1930年 製作

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詩人は多くの表現を持つ。
コクトーはそれを詩人の手についてしまった喋る唇にイメージした。
ふり払っても唇は手から離れない。詩人はメッセージを持ってるからだ。
彫像は女神となって詩人に啓示を与える。
     「鏡の中に入るのです」
詩人は鏡の中に飛び込み、異世界の断片に入ってゆく。


鏡の向こうはホテルの廊下。それぞれの部屋から詩人が見たものは、死と再生のカーボーイ、
阿片を吸う影、叱られた少女が天井へ逃げてゆく様、両性具有者が試みる絶望的な交感の果てに訪れる死の危険。
そして詩人に死の啓示が響いた。
少女が天井に張りつくシーンは自分を非難する世間から逃れたコクトーの心理のようでもあり、
手の届かない天井は彼が行った場所を意味するアレゴリーとも言える。

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雪合戦のシーンになり、「恐るべき子供たち」の描写と重なる。
メルヴィル監督による「恐るべき子供たち」の 映画製作はコクトーがこの作 品を書いた後であり、実験的に行った映像とも言えるだろう。
雪球が少年の運命を変える。胸に衝撃を受けた少年は血を流し地面に倒れてしまった。


そのまま劇場の舞台になり、礼服の詩人と彫像がトランプのゲームをしている。
ハートのエースがなければ詩人は彫像に負けてしまう。
詩人は死んだ少年の胸からエースの札を抜き取るが
黒人の守護天使によって少年に返されてしまった。
ゲームに負けた 詩人はピストルで自殺する。勝利した彫像は竪琴と地球儀を持って闇へ消えてゆく。


映画は、煙突が崩れ、倒れるまでの一瞬の夢の出来事である。
単純なトリック撮影でありながら技法を超えた表現の美しさは画像の光と影から流れでてくるようである。
そして彫像は女神であり、ギリシャ神話に存在する芸術をつかさどる9人のミューズと
詩人コクトーがいつも対峙していた心理を描いている。コクトーの血が作った「詩人の血」である。

   右の写真は詩人役のエンリケ・リベロにメイクをするジャン・コクトー


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