日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

リヴァトン館 ケイト・モートン

2017-03-02 | book

何も考えず物語に没頭したい、そんな心境で読みたいと手にした「リヴァトン館」。
600ページの長編小説で、細かな描写が淡々と綴られていくのに
途中で止められないほど文章の構成が魅力的だ。
そして多くの伏線によって、起こりうる出来事の予感を感じさせる展開も素晴しい。



老人福祉施設で暮らす98歳のグレイスにリヴァトン館で起きた出来事を映画にしたいと依頼があり、
そこから彼女が封印してきたリヴァトン館の真実が明かされていく。

物語は20世紀初頭のイギリス。
グレイスの母がそうであったようにグレイスもリヴァトン館に侍女として働くことになった。
ハンナと4歳下の妹エメリンの姉妹を中心に貴族階級の一家の日常が描かれる。
古めかしい因習の中でハンナは自由を渇望していた。
ある日グレイスがふと立ち寄った秘書学校で、外出していたハンナと偶然出会ったことで
ふたりの「秘密」を共有したハンナとグレイス。
しかしこの「秘密」が後に大きな悲劇を生むことになってしまう。

時間軸を現在と過去に交錯させて物語は進み
グレイスが永い間自分の胸に閉じ込めてきた1924年のあの悲劇がよみがえる。
暗い湖に打ちあげられる花火の下で起こった出来事が。

ハンナがやっとみつけた自由。
しかしエメリンが求めた愛もまたハンナと同じものだった。
ハンナは自由を捨て、妹を選んだことによって手に出来るはずだった自由を失ってしまう。
ほんの小さな「ゲーム」と「秘密」の食い違いによって…。

物語は戦争をはさみ、リヴァトン家に働く厳格で秩序正しい使用人の描写や
献身的に仕えたグレイスの出生の秘密なども織りまぜ、
華やかさと誇りにみちた貴族の崩壊がゆっくりと進んでいくのが痛ましい。
哀感と重厚さが残る小説だった。

訳 栗原百代 ランダムハウス講談社

最新の画像もっと見る

コメントを投稿