rosemary days

アロマテラピー、ハーブを中心にフィトテラピーあれこれ。自然療法全域とフィットネスについて。

『冬虫夏草』~ワタコフジの風呂とハマゴウの枕

2020-03-28 23:45:20 | 物語の中の植物と香り
だいぶご無沙汰していました。だいぶ間隔があいてしまいましたが、梨木香歩さんの『冬虫夏草』からのエピソードです。

綿貫征四郎は愛犬ゴローを探す旅の途中で、イワナの夫婦が経営する宿に行くことができます。旅の途中で出会った河童の少年が教えてくれました。この物語は河童とかムジナとかイワナが人間の姿でまことしやかに登場するのです。イワナのおかみさんはネズミを捕まえてその場で食べたりしますが、お客にはちゃんと人間の食べるものを拵えてくれます。夕食の前に征四郎は風呂に案内されます。

風呂は、小屋の並びにあった。露店の五右衛門風呂だ。踏み台に乗り、中を覗く。湯の中に晒し木綿の袋が浮いていた。湯の中の踏み板を沈ませながら、その湯が思いもかけぬ芳香を漂わせていたのに驚く。
―この匂いは。
釜の下で火加減を見ていた牛蔵は、
―布袋の中に、ワタコフジの蔓を、細かく切ったものが入っています。イワナ亭主が、山歩きの折々に見つけて採ってくるらしいです。風呂の中に入れると、いい匂いがして、疲れが取れると云っています。(p280)


河童の少年=牛蔵は客でもあると同時に、この宿の手伝いもやっています。いい匂いのお風呂の後の夕食はキジ鍋、翌朝の朝食も焼き魚に梅干し、菜っ葉の漬物、茸の味噌汁など滋養のありそうなものを出してくれました。なかなかのおもてなしです。

ワタコフジについて調べてみましたが、検索しても引っかかりません。もしかしてその地方特有の呼び方で、一般的な名前は違うのかもしれません。フジの仲間であるでしょうから、優雅な香りはしたでしょう。

寝室に戻るといつの間にか布団が敷いてありました。

―この枕。
牛蔵が枕を手に、しゃらしゃらと云わせた。
―中はハマゴウの実です。海辺で、採ってきたんだ。これもまた、香のような匂いでしょう。浜香。(p284)


征四郎は、その香りが松の精油を思わせ、それを敷いて寝ると遠くで潮騒の音が聞こえてくるような気がしました。寝苦しい暑い夏の夜には良さそうですね。

タイトルの写真は、ぺてさんによる写真ACからの写真です。

ハマゴウはここでは浜香と表記されていますが、植物系のサイトを見ると浜栲と書かれています。ユーカリに似た香りがして、漢方では蔓荊子(マンケイシ)と呼ばれる生薬で鎮痛、鎮静、消炎作用があると言われています。海辺に這うように生えるので、浜這と表記することもあるようです。本来海辺の植物ですが、何故か琵琶湖の沿岸にも生えているようです。そういえば、この物語は京都や滋賀、琵琶湖の周辺が部隊でした。




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