晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『プリズンホテル 春』

2012-10-22 | 日本人作家 あ
6日間の海外旅行でしたので、この本は家に置いていきました。
というわけで、4巻目の「春」を読み終わりました。

極道小説で売れっ子作家の木戸孝之介は、このたび、半分”遊び”で
書いた恋愛小説と、”本業”の極道小説の2作品が、栄誉ある「日本文芸大賞」
にノミネートされます。

これには、義母の富江も大喜び。電話口で「もう思い残すことはない」と
意味深な発言がひっかかり、孝之介は急いで家に。
テーブルの上に「ちょっと旅に出ます」という手紙が。そして、孝之介の
亡父の位牌も富江がどこかに持っていったのです。

「日本文芸大賞」の受賞の瞬間を待つため、編集者一同もいっしょにプリズン
ホテルへ。

話は変わって、警察(裁判所?)のミスで、50年も刑務所にいた小俣弥一
という男が、出所します。
この弥一、孝之介の叔父でヤクザの仲蔵親分からすれば(極道の世界でいうと)
オジキにあたります。つまり、仲蔵のオヤジである、故・八代目関東桜会組長の
兄弟分という、仲蔵が若かりし頃に世話になった、有名な博徒。

弥一は競馬場に行って、かつての名博徒のカンは衰えていなかったようで、
大当たり。そこに、「楠堀留(くすぼりとどめ)」という、名前からして
くすぶっているような男が弥一と出会います。
楠堀は会社を経営していて、近日中にまとまった金を用意できないと倒産
という状態で、一攫千金を求めてギャンブルに。しかし結果は悲惨。

そこで、現代の金銭感覚からズレまくってる弥一老人の持ってる大金を、
なんとかして「欲しい」と思った楠堀は、弥一のあとを着いて行きます。

弥一の向かう先は、仲蔵の経営しているというプリズンホテル。

またまた話は変わり、娘を子役スターにするべく努力している親子連れ。
母親もかつては女優でしたがパッとせず。夢を娘に託します。
この親子も、プリズンホテルに宿泊することに。

さて、プリズンホテルの支配人の息子は、仲蔵の舎弟のもとで鍛えられ
ようやく更生し、地元の学校に編入します。
そこで信頼できる先生に出会います。先生が趣味で小説を書いていること
を知り、支配人の息子は、ホテルによく泊まりに来る木戸孝之介を紹介
させてあげようとします。

弥一がホテルに来て、仲蔵も従業員も大慌て。そこで、なんだかんだあって
ホテル内で賭博が開帳されることに・・・

孝之介は受賞できるのか。そして富江はどこに消えたのか・・・

もう、最後は涙、涙。はじめからおわりまでずっとドタバタでしたが、
締めるところはキュッと締めて、気がついたら感動作品になっているという
マジック。正直「(いい意味で)ずるいよ」という感想。

どうでもいい部分ですが、孝之介が編集者から日本文芸大賞ノミネートを
聞いたとき、
「もし万が一冗談もしくは誤報であった場合は、たちどころに両社から全
著作を引き揚げ、カッパノベルズに売り渡す」
というセリフに爆笑。



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浅田次郎 『プリズンホテル 冬』

2012-10-20 | 日本人作家 あ
「夏」からはじまって全4巻、「冬」は3巻目になります。

おおざっぱに説明しますと、極道小説が人気の売れっ子作家、木戸孝之介
は、幼い頃に母に出て行かれます。父が再婚した富江には一度も母と呼ばす
名前を呼び捨て、ばかりか暴言、暴力。恋人の清子にも暴言暴力。
孝之介の叔父はヤクザの仲蔵親分。その仲蔵がホテル経営に乗り出します。
そのホテルは”任侠団体専用”、誰が呼んだか「プリズンホテル」。
プリズンホテルの番頭と女将は夫婦で、じつは女将は孝之介の実の母。

叔父を「一家の恥」と嫌う孝之介ですが、なんだかんだいってこのホテルに
宿泊しに来るのです。

そして、季節は冬。孝之介は、クビ寸前という編集者から逃れるために、プリ
ズンホテルへ。

話は変わって、とある病院の救急センターに勤務する看護婦長、阿部は、その
仕事ぶりから、いつしか「血まみれのマリア」と呼ばれます。その阿部が、心
の休息にしていたファミレスの、お気に入りの店員が、救急センターに運ばれて
くるのです。なんと深夜勤務のときに、強盗に銃で撃たれて・・・

もう嫌になった阿部は、どこか人里離れた温泉に行こうと決めます。それが、どう
間違ったのか、予約した宿は、プリズンホテル。

そこで阿部は、久しぶりに”元同僚”に出会います。その医師、平岡はかつて患者に
安楽死をさせたのです。

孝之介に原稿を書いてもらうため、会社ではもう後のない編集者、みどりは、どうにか
して、孝之介の宿泊先を突き止めて、プリズンホテルへ。

さらに、武藤嶽男という世界的に有名な登山家と、自殺志願の少年も、プリズンホテル
へとやって来るのです。

「血まみれのマリア」は、どう間違ったのか従業員(仲蔵の舎弟たち)から、どこぞの
大物の姐さんと勘違いされたり、ちょうどこの頃、従業員たちのあいだで登山ブームに
なっていて、そんな折、登山会の有名人、武藤がホテルに来たので、大騒ぎ。

救急センターの看護婦、安楽死事件の医師、何度も死にそうになった登山家。
彼らの思う「命とは、生きるとは、死ぬとは」に、胸が熱くなります。

富江と亡くなった父との関係が、この巻で孝之介の知るところとなります。
自分を哀れんで、あるいは父を哀れんで富江は後添いになったと思っていたのですが
孝之介は何を知ったのか・・・

ドタバタからしんみりまでの緩急のバランスが、好きです。まあそれを「雑多」と評価
されなくもないのですが、小説なんて、面白いものの勝ちですよね。


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浅田次郎 『プリズンホテル 秋』

2012-10-18 | 日本人作家 あ
さて、先週の旅に帯同させた『プリズンホテル』ですが、文庫でサブタイトルに
春夏秋冬がついて全4巻。夏からはじまって、これが2番目。

ざっと紹介しますと、極道小説で人気の売れっ子作家、木戸孝之介は、幼い頃に
母が男と一緒に出て行ってしまい、その男とは叔父でヤクザの仲蔵の舎弟。
そのせいか、女性に対する愛情表現が異常で、父が再婚した義母の富江には名前で
呼び捨て、暴言暴力。しかも交際している女性の清子にも暴言暴力。

さて、叔父の仲蔵親分は、このたびリゾートホテルを開業したというのです。
そのホテルは、世間の目が厳しくなってきている”任侠団体”専用。
そうとは知らずに、日本有数のホテルチェーンから来た支配人とシェフ。
誰が呼んだか、「プリズンホテル」。

前作「夏」で、プリズンホテルに泊まりにきた孝之介と清子。そこで、番頭の奥さん
でホテルの女将が、子供のころに別れたきりの、実の母だったことを知ります。

で、「秋」ですが、ふたたび訪れることになる孝之介。今度は清子のひとり娘の美加
もいっしょに行くことに。

まあ、それはいいのですが、支配人は頭を抱えます。というのも”任侠団体”の大曽根
一家が宿泊する日に、あろうことか警察署の慰安旅行がカブってしまっています。

警察、教師、医者の団体旅行は、普段がお堅い職業だけにハメのはずし方が尋常じゃない
と、ホテル側は警戒(ヤクザより始末に負えない)。

それだけではなく、マネージャーと地方まわりをしている元アイドル。自称「大学教授」
という怪しい男、さらに、「極道エレジー」で有名なベテラン歌手、などなど。

ベテラン歌手の真野みすずは仲蔵とは昔なにかあったらしい素振り。

冒頭に、仲蔵の親分、桜会の八代目総長の葬式のシーンがあり、取材でたずねた孝之介が
仲蔵にいろいろ質問するのですが、そこに真野みすずが絡んでくるのですが・・・

今回もドタバタでしっちゃかめっちゃかになるのですが、最後の方に、幸之助が家に電話
をかけて富江と会話します。孝之介の横にはホテルの女将である実の母。
そこで、孝之介が母に、富江と話せというのです。孝之介のセリフに、涙が止まりません
でした。

『プリズンホテル』が書かれた直前か直後、名作「蒼穹の昴」が出版されて、直木賞候補
になったときの審査員の「話があちこちに飛んでわかりづらかった」という評価がありま
した。
たしかに、浅田次郎の作品にはそういう特徴がありますが、だからといって、それほど
「わかりづらさ」は感じたことがありません(直木賞の審査員の方を否定するわけでも
ありません)。
評価は絶対ではないので、極論をいえば「人による」のですが、この「話が飛ぶ」のが
面白いといいますか、寄席のようにさまざまな演目があったり、遊園地のようにいろいろ
な乗り物があったり、具体的にどれか”ひとつ”をあげろ、ではなく、総合して「ああ、
楽しかった」というのが、浅田次郎の作品の醍醐味。
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浅田次郎 『プリズンホテル 夏』

2012-10-17 | 日本人作家 あ
先週、ちょっと所用で海外に行っておりました。
そんなわけで、ずっと更新しなかったのでありますが、持参して、
飛行機の中や宿泊先で読んでいたのが『プリズンホテル』。

浅田次郎の小説の中には、不意打ちみたいに泣かされる作品があって、
この作品でも、案の定やられました。

いちおう、ジャンル的には「極道小説」ということで、それのどこが
泣けるの?ということですが、主人公は極道ではなく、極道小説を書く
売れっ子作家です。で、叔父が極道、そかも超大物という設定。

作家の木戸孝之介は、幼い頃、母親が男と一緒に出ていってしまい、
それが彼の人格を歪めてしまい、女性に対する愛情表現が異常で、
母が出て行ったあとに父と再婚した、工場で働いていた富江という義母
に、暴言を放ったり暴力を振るいます。

そればかりか、「百人の男がいれば百人が振り返る」ほどの美人、清子
という恋人にも暴言や暴力。この清子、世の不幸を背負って生きている
薄幸の女で、現在ムショ務めのヤクザとの間に子どもがいます。

孝之介の父は小さな町工場でメリヤスを作っていて、そんな父が亡くなって、
葬式に亡父の弟で、大物ヤクザの仲蔵親分も参列します。
父からは生前「仲蔵とは付き合うな」と耳にタコができるほど聞かされていて
いたのですが、その孝之介はといえば、自身の叔父の”職業”であるヤクザを
モデルにした極道小説で売れっ子作家となっているのです。

さて、その仲蔵が、なんとリゾートホテルの経営に乗り出したというのです。
しばらくシャバとお別れの人や、長いあいだ”ムショ暮らし”してきた人に
癒しの空間を提供する、というご立派なコンセプト。

”任侠団体専用”のホテル、誰が呼んだか、「プリズンホテル」・・・

仲蔵は総会屋の大物でもあり、日本有数のホテルチェーン、クラウンホテルから
シェフと支配人を連れてきます。
支配人は、かつてボヤ事件があった責任を背負わされ、日本全国の僻地を転々と
させられて、とうとう行き着いた先がプリズンホテル。
シェフも似た境遇で、食中毒騒ぎの責任を負わされて、ここプリズンホテルに
飛ばされてきたのでした。

しかし、番頭やその他従業員は仲蔵の舎弟、構成員で、仲居は外国から来た出稼ぎ。
新支配人の花沢は面食らい、シェフの服部は、昔気質の料理長とぶつかり・・・

そんなホテルに、仲蔵親分の甥っ子である孝之介と、清子が泊まりに来ます。
さらに、老夫婦、一家心中しようとしている家族も泊まりに・・・

そしてこのホテルの女将は、なんと孝之介の実の母だったのです・・・

文庫で「春夏秋冬」の全4巻、読み始めたらとまりません。
おかげで、飛行機では眠らずにずっと読み続けて、旅先に着いたときにはフラフラ
でした。

浅田次郎の初期の傑作「きんぴか」という、まあこれも極道が出てきててんやわんやの
大騒ぎという作品があるのですが、「きんぴか」の面白いエッセンスを引き継ぎつつ、
こちらもまたお得意の家族の愛を描いて泣かせるエッセンスもあり、笑い泣きは必至。


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宮部みゆき 『おまえさん』

2012-10-08 | 日本人作家 ま
ここ最近、時代小説が面白いなあということで、特に山本一力に
ハマって読んでおります。
そういえば、同じ深川を舞台にした時代小説といえば、宮部みゆき。

『おまえさん』は、深川の同心、「ぼんくら」平四郎と、美少年の
甥っ子、弓之助と、その他”おでこ”や政五郎、煮売り屋のお徳など
が登場するシリーズの第3作。

深川で、斬り殺された謎の男。四十歳くらいで、財布から何まで抜かれ
て身元不明。この男の身元を探る平四郎と政五郎。

それからすぐ、今度は「痒み止め」の薬「王疹膏(おうしんこう)」で繁盛
している薬屋、瓶屋の主人、新兵衛が家の中で斬り殺されているところを
家族が発見。

さて、同じ深川の、間島信之輔の親戚で、おじいさんの”ご隠居”源右衛門
は、いっしょに検分に立ち会い、先日の身元不明の男と、新兵衛の斬り口
が同じだ、と判断します。

新兵衛の奥さん佐多枝は再婚で、隣に住んでいた医者の未亡人でした。娘の史乃は
前の奥さんとの子どもで、佐多枝とはそれまであまり仲は良くなかったのですが、
史乃は床に臥せってしまった義母の看病をしています。

新しい瓶屋の当主になる史乃は、若くてとても美人。調べに入った間島の彼女に
向ける視線が、被害者家族の参考人としてではないな、と平四郎は心配に。

瓶屋には、男の子くらいならすっぽり入るくらい大きな「瓶様」という瓶があり、
これを神様のように崇め拝みます。

捜査を続けていくうちに件の身元不明の死体の正体がわかります。
久助という薬研(今で言う薬剤師)で、なんと、瓶屋の新兵衛とは、かつて
大黒屋という薬問屋で、同じ時期に薬研として奉公していたというのです。

ところで、大繁盛している「王疹膏」ですが、瓶屋の看板には(大黒屋)の文字
があるのに、その大黒屋では販売していません。これはどういうことか。

この連続殺人は、薬にまつわる何かが関わっているのか、と考えていたところに、
大川(隅田川)上流で夜鷹の水死体が発見。背中にはばっくりと斬り口が。
源右衛門は、斬り口を見るや、久助と新兵衛の下手人と同じだと言い切り・・・

平四郎や政五郎の奥さん、殺された源兵衛の後妻と娘、”おでこ”の母、殺された
夜鷹の知り合い、煮売り屋のお徳などなど、この小説は「女性」が要所要所のキー
となっています。
タイトルが「おまえさん」ということで、一般的に女性が慕う、愛しい男にかける
言葉ですが、これは誰が誰に対しての「おまえさん」なのか・・・

富札(宝くじ)で人生が狂ってしまった男の話、”おでこ”の産みの親の話、
さらに弓之助の実家の「家庭の問題」や、間島の家での源右衛門の処遇に関する
話など、横道にそれたエピソードかと思いきや、これらの話が連続殺人の解決の
糸口になったりならなかったりして、複雑な展開にならないギリギリの按配で、
ここらあたりは宮部みゆきという優れた”差配人”の本領発揮ですね。

コメント (2)
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パトリシア・コーンウェル 『審問』

2012-10-05 | 海外作家 カ
なんだかんだで、この「検屍官ケイ」シリーズを11作まで読み終えました。
しかしすでに20作くらい出てる(今年も最新作が出た?らしい)ので、道のり
はまだまだ遠いですね。

この作品『審問』は、前作の続きとなっていて、ちょっとおさらいしますと、
アメリカ、バージニア州検屍局長のケイ・スカーペッタの恋人でFBI心理
分析官のベントンが、キャリーという悪の権化に殺され、ケイの姪ルーシー、
リッチモンド警察の警部でケイの”相棒”マリーノらはキャリーを追い詰め、
最終的にキャリーの乗ったヘリコプターは海上で爆発。

さてこれで事件は一段落と思いきや、ヨーロッパから来た貨物船の木箱の中
から腐乱死体が。箱の内部には「狼男」という謎のメッセージが。
新しく赴任したリッチモンド警察の女性副署長のブレイは、どういうわけか
ケイとマリーノを陥れようと画策します。ところがそのブレイが”狼男”に
よって惨殺されるのです。

殺人現場に残された謎の毛を調べていくうちに、シャンドンという男の名前が
浮上、フランスのインターポールへ向かうケイとマリーノですが、ケイはインター
ポール職員のタリーと一夜をともに。

ジャンは奇形児として生まれて、闇のビジネス界の大物の家では隠されて育て
られます。全身を毛で覆われているジャンは”狼男”と名乗るようになって、
どういった方法か、アメリカへ渡ってきます。
そしてとうとう、ケイの家に侵入してきて、駆けつけたルーシーはシャンドンを
撃とうとします。それを止めさせるケイ・・・

で、ここからが『審問』となります。

いわゆる「PTSD」になったケイは、精神科医のアナ博士の家に住むことに
します。
数年前にニューヨークで起きた女性の殺人事件が、シャンドンの犯行ではないか
というこちで、ニューヨークの女性検事、バーガーがシャンドンの身柄をニュー
ヨークへ移送。
そうこうしているうちに、なんとバージニア州検察が、ケイをブレイ副署長殺害の
容疑にかけようとしているという話になっていて、ケイは誰も彼も信じられなく
なります。

さらに、マリーノの息子(別れた妻が引き取った)で弁護士のロッキーが、シャンドン
の弁護を担当するという衝撃のニュース。

もう検屍局長を辞めよう、と思うケイ。

そこに、姪のルーシーが、ATF(アルコール、たばこ、火器局)のエージェントを
やめて、元同僚とニューヨークで新しい仕事を始めるということを聞きます。
その仕事とは、私立の捜査機関「ラスト・プリシンクト(最終管区)」で、ケイも
誘われますが、とりあえずは検屍局長として残った仕事をやることに。

そんな最中、次々と起こる殺人。うらぶれたモーテルで殺された男は不可解な死に方
をしていて、このモーテルには、前にシャンドンが来ていた可能性が・・・

ベントンの残したファイルを探して、読み始めるケイ。なんとそこには、「ラスト・
プリシンクト」の文字が。そして、ベントンは生前ブレイに会っていたのです・・・

いろんな情報が押し寄せてきて、しっかり頭の中で整理しながら読み進んでいかない
と、うっかり置いてけぼりになってしまいそうな、かなり話が複雑にこんがらがって
いますが、最終的に「そうだったのか!」と合点がいきます。

さて、検屍局長をやめることになるケイですが、長年”連れ添ってきた”マリーノは
「あんたがやめたら俺はどうなるんだ?モルグへいっても、あんたがいると思うから、
あのいやったらしい場所へいくんだぞ、先生。あんたがあそこで唯一の救いなんだ。
ほんとだよ」
と、言葉を詰まらせ、泣く寸前で語ります。初対面のときは、あからさまに女性蔑視
だったマリーノ。ジーンときます。
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山本一力 『研ぎ師太吉』

2012-10-02 | 日本人作家 や
山本一力の作品を読んで知った、江戸時代の職業というのは少なくなく、
たとえば(損料屋)という、今でいえば家具レンタルで、まあひょっと
したら落語とかにも出てくるのかもしれませんね。

そして、今回読んだ中に出てくる(研ぎ師)という職業も、今では金物屋
とか包丁専門店でお願いする包丁研ぎですが、江戸時代では刀研ぎと包丁
研ぎは区分けされていたそうで、(研ぎ師)は刀剣の専門で、庶民という
よりは武家に近いですね。

主人公の太吉という研ぎ師は、刀研ぎ名人といわれた楯岡龍斉に弟子入り
して、その後、武家屋敷に奉公にあがります。太平の世の中で刀研ぎを家
に置いておく必要など特にないのですが、そこは”見栄”で、といっても
刀ではなく、家にある包丁やハサミ、草刈り鎌などを研いでいたそうです。

で、太吉は、とある武家屋敷で、実直な性格で可愛がられます。そこで
女中の香織といい仲になるのですが、じつは香織は名家のお嬢様で、研ぎ
職人と結婚させるわけにはいかないということで太吉は暇を出されます。

そして太吉は、独立して箱崎の裏店で包丁研ぎの店を構えますが、その裏店
が取り壊されることになってしまい、深川に越してくることに。

山本作品にたびたび登場する深川の料亭「江戸屋」の板前は太吉の腕を高く
買い、クチコミで評判は上がっていきます。

ある日、若い女性が太吉の店におとずれます。死んだ父の包丁を研いでほしい
というのですが、話を聞けば、料理人だった父は、殺されたというのです。

かおりは、父を殺した犯人の目星はついているといって、包丁を預けて店を
出ます。”かおり”という名前に、かつて武家屋敷の奉公時代に恋の成就と
ならなかった香織を思い出し・・・

そんな太吉はまだ独身で、食事はもっぱら外で食べるのですが、近くの「七福」
という名の一膳飯屋に、ほぼ毎日通っています。
この日の夜も七福に行くと、いつもと様子の違う太吉を、主人の娘で店の給仕を
しているおすみが心配します。

おすみと太吉はどうなるのか、という話はさておき、数日後、太吉の店にいきなり
番所から来たという4人の男がやってきて、「かおりという娘をしっているか」と
聞いてきます。
なんと、かおりが料理人の利吉という男を殺した容疑で番所に入れられているという
のです・・・

男に引っ立てられて番所に向かう太吉、そこで定町廻同心と会って話を聞きます。
捕らえているかおりという娘を犯人とは思えないという同心。

さっそく太吉は、利吉を殺した真犯人を探すことに。かつて奉公していた武家屋敷
に出向いて、ご内儀に会って、あるお願いをして、さらに、野菜売りの元締め、
”青菜の泰蔵”のもとへ。

この”青菜の泰蔵”に、例の利吉殺しの一件を話して、犯人探しの協力をしてもらう
ことに。

実直で、仕事の腕も確かで、そうやって人からの信頼を得て、太吉を知る人は、太吉の
頼みを二つ返事で引き受け、それがやがて真犯人に行き着いて・・・

「この人に嘘やお追従は通用しない」
という、現代の日本では絶滅危惧種となった職人、商人、お役人が出てきて、なんとも
気持ちよくなりますね。

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