炎と水の物語 2013 Apprehensio ad Ignis et Aquarius.

広大な宇宙を旅する地球。私たちは今、どの辺にいるのでしょう. 

森の異変を告げるイワツバメ. Delichon urbica.

2007-01-28 | エコロジー
 イワツバメはもともと、山の奥深くの岩壁や洞窟などに巣をかけ、人里近くには生息していなかったという。それが70年代以降、イワツバメは都市に進出し、駅や学校、橋、倉庫、ビルなどの壁に集団で巣を掛けるようになった。こうしたイワツバメの生態の大きな変化の裏には、最近の熊やサルの人里への出没と同じ構造が、背景にあるのではないだろうか。観光客の視界からは見えにくい山の奥で、いったい何が起きているのだろう。

 イワツバメに詳しい野鳥の会の方のHPでは、昭和60年代の日光市内では、数千羽単位のイワツバメが営巣し、実写の映画にもなったという。映画のあら筋は次のとうり。
 「ある山の小学校には、もう20年以上も前から、巣をつくりにくるイワツバメの大群がやって来る。小学生たちは大喜びだが、ツバメの数が増すにつれて、校舎がフンで汚されるのだけは困りものだった。ツバメを愛する先生と生徒たちは、毎日放課後校舎の清掃を励行するが、ある時、来校した町の役員の肩にフンが落ち・・・」
       東映 『 五千羽のイワツバメ 』 1959年 より.

 映画の説明では、イワツバメの数が、だんだん増えたとある。何が原因で、当時の日光の市内に、これほどたくさんのイワツバメが押し寄せたのだろう。数千羽単位の営巣地が複数あったというのは、たいへんな数に思える。
イワツバメは、本来、山奥の岩壁や洞窟で子育てをし、巣立ち後は、餌の豊富な森林に移り、森の中で集団生活をするという。 (*下記リンク参照) 
 筆者の当地でも、新緑のブナ林 上空に、たくさんのイワツバメが飛び交う姿を見ることが出来る。かなり広い森だが、せいぜい数百羽程度だと思う。当時の日光市内に、数千羽単位の営巣地が複数あったというのは、異様だ。何らかの自然の異変を伝えてはいないだろうか。本来、彼らは清浄な森の虫を捕って暮らしていたはずである。
 
 そこで、日光や、先ごろ問題となった芦ノ湖周辺の森林の様子を、最新の国土地理院の二万五千分の一の地形図で見てみよう。五年に一度の航空写真の撮影の度に、地形と植生、構造物のデータも更新されている。
 
 日光市は、中禅寺湖から流れる大谷川の渓谷に沿った東西に細長い街だ。地形図を見ると、市街地の北側、南側の山々は、ほとんど針葉樹林が占めている。ゴルフ場や、別荘分譲地もたくさん見える。華厳の滝周辺に広葉樹があり、ここが現在残っている、数少ない天然のイワツバメの営巣地だそうだ。日光は紅葉の名所であり、こうした観光用に残された広葉樹の周りに、山奥で森を奪われたイワツバメが、殺到したのではないではないだろうか。野鳥会の専門家は、調査しないそうだ。なぜだろうか。不思議でならない。

・ 日光市北部 >>>
・ 日光市南部 >>>
・ 華厳の滝周辺 >>> ( 国土地理院地図閲覧サービス
 戦時中からの山間部での森林の大伐採によって、餌場や生活の場を失ったイワツバメが大挙、カエデなどの広葉樹の残る日光市周辺に押し寄せたとは、考えられないだろうか。山奥深く暮らしていた熊や猿たちが、里に降りてきたのと、同じ構図ではなかろうか。なお、現在の日光市内でのイワツバメは減少し、市街地全体でも、せいぜい一千羽たらずとのことである。どこに行ってしまったのだろうか。google map の航空写真で見ると、山々の伐採の様子が解る。

 芦ノ湖の方は、どうだろう。 
芦ノ湖東側の駒ケ岳周辺に、わずかに広葉樹があるだけで、湖畔は、ほとんど針葉樹かゴルフ場と化している。芦ノ湖の西側の植生は、広大な針葉樹林と化している。芦ノ湖北側の仙石原は、バブル期の置き土産か、ゴルフ場、別荘地開発で、森が消えているのが判る。( 水中には、異国の魚達が住みつき、湖上には原色の「 海賊船 」浮かんでいる。現代の日本人の美意識であろうか。)
・ 芦ノ湖東部 >>>    
・ 芦ノ湖北部(仙石原)~西部>>> ( 国土地理院地図閲覧サービス

 ともあれこれでは、小鳥が餌を獲れる森はほとんどないだろう。イワツバメは、しかたなしに、蝿や蚊、アブ、蛾などの飛翔昆虫の多い湖畔の水辺へ移動し、連れ込みホテルなどの壁に巣を掛けたのではないだろうか。湖畔の例のホテルに巣を掛けたイワツバメも、日光の小学校に、実際に巣を掛けた五千羽のイワツバメも、必死に、何かを伝えようとしていたのかもしれない。現在、イワツバメは都心にまで進出しているのだという。


- 参考HP -
* Oiseaux .net 。(フランスの野鳥観察のHPですが、イワツバメ. Delichon urbica.は、ユーラシア大陸、アフリカに広く生息している。)
Habitat : Elle niche en colonies dans les villes et villages, mais aussi sur les parois rocheuses des régions inhabitées. En dehors de la période de reproduction, les hirondelles de fenêtre se rassemblent en dortoir dans les arbres, et non dans les roselières comme l'hirondelle rustique.
 イワツバメは巣立ち後、木立の中で(dans les arbres)集団で夜を過ごし、普通の燕は、川原の芦原( roselières)などに宿をとるなどとある。
(この部分は、コメントを頂きました、てつ人さんのご教示で、改訂いたしました。ありがとうございます。)
・( 掲載画像は記事に関係ありません。ドイツ、バヴァ-リア地方の樅。早くから森林が失われた、ヨーロッパのイワツバメ Delichon urbica は、英語でハウス マーチンと呼ばれ、その生態の変化を窺わせます。)
・ 参考書 日本野鳥協会 『 フィールドガイド 日本の野鳥 』 高野伸二著 1988年


-拙ブログ-
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