安倍晋三首相が7月10日投開票の参院選に向けた街頭演説で、憲法改正への言及を避け続けている。国民の賛否が割れる改憲に焦点を当てれば、選挙戦が不利になるとの懸念があるとみられる。首相は2014年12月の前回衆院選でも経済政策「アベノミクス」を前面に掲げ、同年7月に閣議決定した集団的自衛権の行使容認が争点化することを避ける姿勢が目立った。首相が参院選後に再び改憲への動きを加速させるとみる野党は「争点隠しだ」と批判を強めている。

 「この選挙の最大の争点は経済政策だ。私たちはアベノミクスのギアを2段も3段も上げていく」。首相は14日、岩手、宮城両県で街頭演説。有効求人倍率が全都道府県で1倍を超えたことなど3年間の経済政策の成果を訴えることに大半の時間を割き、「野党は批判ばかりで何も生み出すことはできない」と指摘する一方、悲願の憲法改正にはひと言も触れなかった。

 首相は今年1月以降、改憲への意欲を示してきた。1月のNHK番組で「責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と述べて参院選で国会発議に必要な「3分の2以上」の改憲勢力結集を目指す考えを表明。3月の参院予算委では、18年9月までの自民党総裁任期を念頭に「私の在任中に(改憲を)成し遂げたい」と踏み込んだ。

 ここへきて改憲に触れない背景には、自民党内の「改憲を訴えても票にならない」(参院幹部)との強い懸念がある。党の公約も「経済最優先」を掲げる一方で、改憲については「衆参両院の憲法審査会で議論を進め、各党との連携を図り、国民の合意形成に努める」と末尾で触れた程度。党選対幹部は「一般の人は経済政策にしか関心がない」と改憲を正面から問うことには否定的だ。

 14年の衆院選では、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更と、行使を可能にする安全保障関連法整備の是非も問われたが、首相は「アベノミクスを問う選挙だ」と争点を経済に絞る戦術に出た。

 首相は選挙期間中、集団的自衛権の行使容認の必要性を積極的に訴えることを避け、自民党の衆院選公約も「安全保障法制をすみやかに整備する」との一文を記述したのみ。それでも首相は、選挙に勝利した直後の記者会見で「(安保関連法は)しっかり公約に明記している。約束したことを実行するのは政権政党の使命だ」と強調。昨年9月、安保関連法は与党が採決を強行する形で成立した。

 民進党の岡田克也代表は14日、神奈川県内での街頭演説で「首相は前回衆院選でアベノミクスを問うと言ったが、選挙後には安全保障法制にエネルギーを注いだ」と批判。そしてこう声を張り上げた。「今回も(首相が)憲法改正は争点じゃないと言って、3分の2を取れば必ずやる。だまされるのはダメだ」(東京報道 平畑功一、津田祐慈)