東京電力福島第一原発事故福島県浪江町から避難を強いられた後、自殺した男性の遺族3人が、東電に約8700万円の損害賠償を求めた訴訟で、福島地裁の潮見直之裁判長は30日、男性の自殺の主な原因を「事故に起因する様々なストレス」だったとし、東電に約2700万円の支払いを命じる判決を言い渡した。遺族側の弁護団によると、同原発の事故と自殺の因果関係を認めた判決は2例目という。

 訴えていたのは、五十崎喜一さん(当時67)の妻栄子さん(66)ら遺族3人。

 訴状などによると、喜一さんは、原発事故が起きた2011年3月12日、家族と一緒に避難を始め、翌日、自宅から約60キロ離れた福島県郡山市内の高校の体育館に避難した。避難所で喜一さんは「ほとんど眠れない」と話し、食欲が落ちていった。

 約1カ月後、同県二本松市のアパートに移り住んだが、6月半ばごろから体調が再び悪化し、しきりと「早く浪江に帰りたい」と言うようになったという。7月、同県飯舘村の川で遺体で見つかった。近くの橋の上から飛び降りたと見られている。

 自殺と原発事故との因果関係などが争われた裁判で、遺族側は「喜一さんは事故による避難でうつ病になり自殺した」と主張。東電側は「喜一さんの持病の糖尿病で不安とストレスが生じていたと考えられる」などと反論していた。

 原発事故の避難者の自殺をめぐっては、同県川俣町から避難を強いられ、一時帰宅中の11年7月に焼身自殺した女性(当時58)の遺族による損害賠償請求訴訟で、同地裁が昨年8月、事故と自殺の因果関係を認め、東電に約4900万円の賠償を命じた。東電は控訴を断念し、幹部が遺族に謝罪している。(小島泰生)