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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

「従軍慰安婦」=戦時性奴隷2 歴史学会16団体7000人が日本軍による「慰安婦」強制連行に関する声明発表

2015年05月26日 | 「従軍慰安婦」=戦時性奴隷

 

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 日本国内の歴史研究者で作る学会16の団体約6900人以上が、いわゆる従軍慰安婦の問題について問題を記憶にとどめ、過ちを繰り返さない姿勢が求められるとする声明を、2015年5月25日に発表しました。
 
 この声明は、「『慰安婦』問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」と名付けられています。
 
 国際的にもいわゆる「従軍慰安婦」=戦時性奴隷の問題が関心を集めるなか、歴史学や歴史教育に携わる研究者で作る学会などのうち、会員数が2000人を超える「歴史学研究会」や「日本史研究会」など合わせて16の団体が発表したものです。
 
 これは、主にアメリカの日本研究の学者ら187人(その後、450人以上に増加)が

「いかなる数に判断が落ち着いても、日本帝国とその戦場で女性たちが尊厳を奪われたという歴史の事実を変えることはできない」

「大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされた」

「今年は日本政府が言葉と行動で、過去の植民地支配と戦時における侵略の問題に立ち向かい、その指導力を見せる絶好の機会だ」

としたのに続くもので、安倍首相が八月に予定している戦後70年談話を牽制するものと言えます。

エズラ・ボーゲル、ジョン・ダワー氏ら日本研究家187人が安倍首相に「植民地支配と侵略に向き合え」

安倍首相が「植民地支配」と「侵略」を「痛切に反省」して「お詫び」しない戦後70年談話なんて有害無益

週刊 金曜日増刊 特別編集 従軍慰安婦問題 2014年 10/29号 [雑誌]
週刊金曜日編集部
週刊金曜日特別編集

歴史修正主義の蔓延する現在の状況では「本当のこと」を把握するのはたやすくありません。肝心の資料の解説がねじ曲げられたり、証言が過小評価されたりすることが多いからです。そこで、この問題の核心をわかりやすく解説する臨時増刊号を刊行します。『週刊金曜日』掲載記事のほか主要な資料を添付した、まさにまるごと一冊「従軍慰安婦」号です。

 

 

 
 さて、日本の歴史家らによる今回の声明では、「慰安婦」問題の背景には植民地支配や差別など不平等で不公正な構造が存在していたと指摘しています。そして、
 
「強制連行された慰安婦の存在はこれまでの多くの資料と研究によって実証されてきた」
 
「問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するのに等しい。今、求められているのは歴史研究や教育を通して問題を記憶にとどめ、過ちを繰り返さない姿勢だ」
 
と指摘しています。
 
 さらに、朝日新聞社が朝鮮人女性の強制連行を証言した故吉田清治氏に関する記事を取り消したことは、旧日本軍の同問題への関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話の根拠が崩れたことにはならないとも主張しています。
 
 歴史学研究会はこの記事の末尾にあるように、2014年10月、
 
「吉田証言の内容の真偽にかかわらず、日本軍が慰安婦の強制連行に深く関与し、実行したことは、揺るぎない事実である」
 
とする声明を発表し、その後、同団体は歴史科学協議会、日本史研究会、歴史教育者協議会など、声明の趣旨に賛同する団体と慰安婦問題の歪曲に共同で対応することにし、約半年にわたり関連団体の意見をまとめる作業を行ってきたそうで、その成果が今回のこの声明です。
 
慰安婦報道の「戦犯」と呼ばれた植村隆、市川速水、若宮啓文、本多勝一ら朝日関係者に徹底取材。報道の現場から問題の全真相をルポルタージュし、バッシングの背後にうごめく歴史修正主義をえぐり出す最新刊。闘うジャーナリストが、右派の跳梁に抗する画期的な一冊!
 
 
 

 そこで、昨年10月の歴史学研究会の声明を見てみましょう。
 
 まず、朝日新聞の謝罪・訂正事件については
 
「第一に、『朝日新聞』の「誤報」によって、「日本のイメージは大きく傷ついた。日本が国ぐるみで「性奴隷」にしたと、いわれなき中傷が世界で行われて いるのも事実だ」(10月3日の衆議院予算委員会)とする安倍首相の認識は、「慰安婦」の強制連行について、日本軍の関与を認めた河野談話を継承するという政策方針と矛盾している。

 また、すでに首相自身も認めているように、河野談話は吉田証言を根拠にして作成されたものでないことは明らかであり、今回の 『朝日新聞』の記事取り消しによって、河野談話の根拠が崩れたことにはならない。

 河野談話をかかげつつ、その実質を骨抜きにしようとする行為は、国内外の 人々を愚弄するものであり、加害の事実に真摯に向き合うことを求める東アジア諸国との緊張を、さらに高めるものと言わなければならない。」

としています。

元「従軍慰安婦」=戦時性奴隷の「私が証拠だ」は法律の世界では当然 金福童さんが特派員協会で会見

「従軍慰安婦」=戦時性奴隷制度1 朗報!北星学園大が元朝日新聞記者雇用継続を決める

従軍慰安婦資料集
吉見 義明 (編集)
大月書店

最初の資料発見者・吉見教授が、防衛庁所蔵資料に加えて、外務省・米軍・オーストラリア軍の資料をも合わせて集大成した話題の書。

 

 

 また、「慰安婦」連行の強制性の定義については

 「第二に、吉田証言の真偽にかかわらず、日本軍の関与のもとに強制連行された「慰安婦」が存在したことは明らかである。吉田証言の内容については、 1990 年代の段階ですでに歴史研究者の間で矛盾が指摘されており、日本軍が関与した「慰安婦」の強制連行の事例については、同証言以外の史料に基づく研究が幅広 く進められてきた。

 ここでいう強制連行は、安倍首相の言う「家に乗り込んでいって強引に連れて行った」(2006年10月6日、衆議院予算委員会)ケース (①)に限定されるべきものではない。甘言や詐欺、脅迫、人身売買をともなう、本人の意思に反した連行(②)も含めて、強制連行と見なすべきである。

 ①に ついては、インドネシアのスマランや中国の山西省における事例などがすでに明らかになっており、朝鮮半島でも被害者の証言が多数存在する。

 ②については、 朝鮮半島をはじめ、広域にわたって行われたことが明らかになっており、その暴力性について疑問をはさむ余地はない。これらの研究成果に照らすなら、吉田証 言の内容の真偽にかかわらず、日本軍が「慰安婦」の強制連行に深く関与し、実行したことは、揺るぎない事実である。」

としています。

 これについては私も再三書いてきたところです。

日本軍「従軍慰安婦」制度に対する誤解を解き、問題点をわかりやすく解説する


元日本軍「慰安婦」だった金学順さんが日本政府に謝罪と賠償を求めて名乗り出てから20年――「強制」ではなく「自由意志」だったとする声がいまだに多く聞かれるのはなぜだろうか。「慰安婦」制度が軍によってつくられたことを、様々な史料を用いながら説明するとともに、被害者の名誉と尊厳の回復の必要性を訴える。
 
 
 
 

  また、「従軍慰安婦」がまさに戦時性奴隷であった点について

「第三に、日本軍「慰安婦」問題で忘れてはならないのは、強制連行の事実だけではなく、「慰安婦」とされた女性たちが性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴 力を受けたことである。近年の歴史研究では、動員過程の強制性のみならず、動員された後、居住・外出・廃業のいずれの自由も与えられず、性の相手を拒否す る自由も与えられていない、まさしく性奴隷の状態に置かれていたことが明らかにされている。

 「慰安婦」の動員過程の強制性が問題であることはもちろんであ るが、性奴隷として人権を蹂躙された事実が問題であることが、重ねて強調されなければならない。強制連行に関わる一証言の信憑性の否定によって、問題全体 が否定されるようなことは断じてあってはならない。」

 としています。

日本人「慰安婦」―愛国心と人身売買と
西野 瑠美子 (編集), 小野沢 あかね (編集)
現代書館

 「売春婦」なら被害者ではないのか? 見過ごされてきた日本人「慰安婦」の被害を問う最新刊。

 

 

 「慰安婦」の問題は、日本の戦争責任・加害者責任の問題であると同時に、当然、女性の人権の問題でもあります。

 安倍政権は盛んに女性の社会進出を応援するというような美辞麗句を用いていますが、そうであるとするなら、「慰安婦」の問題を避けて通ることはできません。

 米議会での演説のように、言葉の綾の使い分けでしのぐのではなく、植民地支配と侵略、そして具体的な「慰安婦」問題などの旧日本軍の行為に対して正面から向き合って、謝罪すべきでしょう。

安倍首相の米議会での歴史に残る迷演説 そんなに好きなの?! 祖父岸首相・アメリカの山羊・TPP・軍事同盟

「慰安婦」問題を/から考える――軍事性暴力と日常世界
歴史学研究会 (編集), 日本史研究会 (編集)
岩波書店

今回声明を出すのにあたって中心となった歴史学研究会と日本史研究会が編集した最新刊。

1991年の金学順さんの告発から二〇余年、「慰安婦」の存在を否定し問題の矮小化をはかる動きが再び猖獗を極めている。強制性の有無をめぐる恣意的な議論に対し様々な角度から論駁するともに、「慰安婦」制度が戦時下の極限状況ではなく、日本や植民地における日常世界の中から作りだされたものであることを歴史的に検証する。

 

追記 声明文全文が手に入りました。

「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明

 『朝日新聞』による2014年8月の記事取り消しを契機として、日本軍「慰安婦」強制連行の事実が根拠を失ったかのような言動が、一部の政治家やメディアの間に見られる。われわれ日本の歴史学会・歴史教育者団体は、こうした不当な見解に対して、以下の3つの問題を指摘する。

 第一に、日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。したがって、記事の取り消しによって河野談話の根拠が崩れたことにはならない。強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含むものと理解されるべきである。

 第二に、「慰安婦」とされた女性は、性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴力を受けた。近年の歴史研究は、動員過程の強制性のみならず、動員された女性たちが、人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたことを明らかにしている。さらに、「慰安婦」制度と日常的な植民地支配・差別構造との連関も指摘されている。たとえ性売買の契約があったとしても、その背後には不平等で不公正な構造が存在したのであり、かかる政治的・社会的背景を捨象することは、問題の全体像から目を背けることに他ならない。

 第三に、一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。

 日本軍「慰安婦」問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい。また、こうした態度が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙することになる。今求められているのは、河野談話にもある、歴史研究・教育をとおして、かかる問題を記憶にとどめ、過ちをくり返さない姿勢である。

当該政治家やメディアに対し、過去の加害の事実、およびその被害者と真摯に向き合うことを、あらためて求める。

 

2015年5月25日

       歴史学関係16団体      

日本歴史学協会     

大阪歴史学会      

九州歴史科学研究会   

専修大学歴史学会    

総合女性史学会     

朝鮮史研究会幹事会   

東京学芸大学史学会   

東京歴史科学研究会   

名古屋歴史科学研究会  

日本史研究会      

日本史攷究会      

日本思想史研究会(京都)

福島大学史学会     

歴史科学協議会     

歴史学研究会      

歴史教育者協議会    

英語版

 

 

安倍首相にもネトウヨの方々にも、16団体6900人以上という数にだけでもビビってほしい。

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慰安婦問題で歴史学の16団体が声明

5月25日 20時36分 NHK

国内の歴史研究者で作る学会などのうち16の団体が、いわゆる従軍慰安婦の問題について問題を記憶にとどめ、過ちを繰り返さない姿勢が求められるとする声明を発表しました。
 
声明は、国の内外でいわゆる従軍慰安婦の問題が関心を集めるなか、歴史学や歴史教育に携わる研究者で作る学会などのうち、会員数が2000人を超える「歴史学研究会」や「日本史研究会」など合わせて16の団体が、25日、国会内で記者会見して発表しました。

声明では、問題の背景には植民地支配や差別など不平等で不公正な構造が存在していたと指摘しています。

そして、「問題に関し、事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するのに等しい。今、求められているのは歴史研究や教育を通して問題を記憶にとどめ、過ちを繰り返さない姿勢だ」と指摘しています。

声明を発表した団体の1つ、「歴史学研究会」の委員長を務める信州大学の久保亨教授は、「声明には数千人の歴史研究者の意志が反映されている。この声明を基に今後の議論が行われることを期待している」と述べました
 
 

慰安婦の強制連行は実証済み 日本の歴史16団体が声明

2015/05/25 17:30 聯合ニュース

【東京聯合ニュース】歴史学研究会など日本の歴史学関係16団体は25日、都内で「『慰安婦』問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」を発表し、慰安婦問題を歪曲(わいきょく)する行為を中止するよう求めた。

 声明は「強制連行された慰安婦の存在はこれまでの多くの資料と研究によって実証されてきた」と指摘。「事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアがとり続けるならば、それは日本が人権を尊重しないことを国際的に発信するに等しい」と強調した。

 また、朝日新聞社が朝鮮人女性の強制連行を証言した故吉田清治氏に関する記事を取り消したことは、旧日本軍の同問題への関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話の根拠が崩れたことにはならないと主張した。

 歴史学研究会の久保亨委員長によると、声明に参加した学者数は約6900人に上るという。声名は慰安婦問題の加害国である日本で活動する歴史学者らが意見を表明したもので、今後、日本国内の世論に及ぼす影響が注目される。

 歴史学研究会は昨年10月、「吉田証言の内容の真偽にかかわらず、日本軍が慰安婦の強制連行に深く関与し、実行したことは、揺るぎない事実である」とする声明を発表した。その後、同団体は歴史科学協議会、日本史研究会、歴史教育者協議会など、声明の趣旨に賛同する団体と慰安婦問題の歪曲に共同で対応することにし、約半年にわたり関連団体の意見をまとめる作業を行ってきた。

声明を発表する学者ら=25日、東京(聯合ニュース)

声明を発表する学者ら=25日、東京(聯合ニュース)



毎日新聞 2015年05月19日 21時49分(最終更新 05月20日 06時58分)

安全保障関連法案の閣議決定後、記者会見を開き法案について説明する安倍晋三首相=首相官邸で2015年5月14日午後6時26分、宮間俊樹撮影
安全保障関連法案の閣議決定後、記者会見を開き法案について説明する安倍晋三首相=首相官邸で2015年5月14日午後6時26分、宮間俊樹撮影

 ◇欧米の日本研究者ら187人が安倍政権に求めた声明

 欧米の日本研究者ら187人が、戦後70年を過去の植民地支配や侵略の過ちを清算する機会にするよう安倍政権に求めた声明に対し、さらに賛同者が270人増え、世界で457人が署名したことが19日、分かった。欧米では、安倍政権の歴史認識に対する懸念が高まっており、8月にも首相が表明する戦後70年談話を念頭においた欧米から日本への進言といえる。

 声明は「日本の歴史家を支持する声明」。19日に公開された新たな署名者にはオランダ人ジャーナリストのイアン・ブルマ氏などが含まれている。日本研究者を中心に、歴史学、人類学、政治学、文学などの研究者が幅広く参加し、賛同の輪も、米国や日本、スウェーデン、オーストラリアなど世界に広がる。4日に発表された声明には、マサチューセッツ工科大のジョン・ダワー名誉教授やハーバード大のエズラ・ボーゲル名誉教授など著名な日本研究者も賛同していた。

 米コネティカット大のアレクシス・ダデン教授は「比較的小さな研究界でこれだけの署名が集まることは画期的」と述べ、「特定の歴史について率直な議論を規制する日本の動き」に対して研究者間で懸念が拡大しているため、と説明した。

 米国では今年2月、日本政府が歴史教科書を出した米出版社に対して慰安婦関連の文書の訂正を要請したことで、「検閲」との批判の声があがった。

 また、米国では、歴史問題を巡って日韓の亀裂が深まり、東アジアの安全保障体制が揺らぐことへの懸念も強い。【國枝すみれ】

 ◇「日本の歴史家を支持する声明」の要旨

・日本の歴史家が正確で公正な歴史を求めることに賛意を表明

・「慰安婦」問題は日本、韓国、中国の民族主義的な暴言でゆがめられてきた

・「慰安婦」の身に起こったことを否定したり、過小評価したりすることはできない

・「慰安婦」になった経緯や正確な人数は確定されなくても、大勢の女性が意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされたことに変わりはない

・過去の不正義を認めることは難しいが、そうすることで民主主義は強化される

・戦後70年の今年は、日本政府にとって過去の植民地支配と侵略の問題に立ち向かい、指導力を見せる絶好の機会だ


 

 

  2014年8月5日・6日、『朝日新聞』は「慰安婦問題を考える」という検証記事を掲載し、吉田清治氏の証言にもとづく日本軍「慰安婦」の強制連行関 連の記事を取り消した。

 一部の政治家やマスメディアの間では、この『朝日新聞』の記事取り消しによって、あたかも日本軍「慰安婦」の強制連行の事実が根拠 を失い、場合によっては、日本軍「慰安婦」に対する暴力の事実全般が否定されたかのような言動が相次いでいる。

 とりわけ、安倍晋三首相をはじめとする政府 の首脳からそうした主張がなされていることは、憂慮に堪えない。

  歴史学研究会は、昨年12月15日に、日本史研究会との合同シンポジウム「「慰安婦」問題を/から考える――軍事性暴力の世界史と日常世界」を開催す るなど、日本軍「慰安婦」問題について、歴史研究者の立場から検討を重ねてきた。

 そうした立場から、この間の「慰安婦」問題に関する不当な見解に対し、以 下の5つの問題を指摘したい。

  第一に、『朝日新聞』の「誤報」によって、「日本のイメージは大きく傷ついた。日本が国ぐるみで「性奴隷」にしたと、いわれなき中傷が世界で行われて いるのも事実だ」(10月3日の衆議院予算委員会)とする安倍首相の認識は、「慰安婦」の強制連行について、日本軍の関与を認めた河野談話を継承するという政策方針と矛盾している。

 また、すでに首相自身も認めているように、河野談話は吉田証言を根拠にして作成されたものでないことは明らかであり、今回の 『朝日新聞』の記事取り消しによって、河野談話の根拠が崩れたことにはならない。

 河野談話をかかげつつ、その実質を骨抜きにしようとする行為は、国内外の 人々を愚弄するものであり、加害の事実に真摯に向き合うことを求める東アジア諸国との緊張を、さらに高めるものと言わなければならない。

  第二に、吉田証言の真偽にかかわらず、日本軍の関与のもとに強制連行された「慰安婦」が存在したことは明らかである。吉田証言の内容については、 1990 年代の段階ですでに歴史研究者の間で矛盾が指摘されており、日本軍が関与した「慰安婦」の強制連行の事例については、同証言以外の史料に基づく研究が幅広 く進められてきた。

 ここでいう強制連行は、安倍首相の言う「家に乗り込んでいって強引に連れて行った」(2006年10月6日、衆議院予算委員会)ケース (①)に限定されるべきものではない。甘言や詐欺、脅迫、人身売買をともなう、本人の意思に反した連行(②)も含めて、強制連行と見なすべきである。

 ①に ついては、インドネシアのスマランや中国の山西省における事例などがすでに明らかになっており、朝鮮半島でも被害者の証言が多数存在する。

 ②については、 朝鮮半島をはじめ、広域にわたって行われたことが明らかになっており、その暴力性について疑問をはさむ余地はない。これらの研究成果に照らすなら、吉田証 言の内容の真偽にかかわらず、日本軍が「慰安婦」の強制連行に深く関与し、実行したことは、揺るぎない事実である。

  第三に、日本軍「慰安婦」問題で忘れてはならないのは、強制連行の事実だけではなく、「慰安婦」とされた女性たちが性奴隷として筆舌に尽くしがたい暴 力を受けたことである。近年の歴史研究では、動員過程の強制性のみならず、動員された後、居住・外出・廃業のいずれの自由も与えられず、性の相手を拒否す る自由も与えられていない、まさしく性奴隷の状態に置かれていたことが明らかにされている。

 「慰安婦」の動員過程の強制性が問題であることはもちろんであ るが、性奴隷として人権を蹂躙された事実が問題であることが、重ねて強調されなければならない。強制連行に関わる一証言の信憑性の否定によって、問題全体 が否定されるようなことは断じてあってはならない。

  第四に、近年の歴史研究で明らかになってきたのは、そうした日本軍「慰安婦」に対する直接的な暴力だけではなく、「慰安婦」制度と日常的な植民地支 配、差別構造との連関性である。性売買の契約に「合意」する場合があったとしても、その「合意」の背後にある不平等で不公正な構造の問題こそが問われなけ ればならない。

 日常的に階級差別や民族差別、ジェンダー不平等を再生産する政治的・社会的背景を抜きにして、直接的な暴力の有無のみに焦点を絞ることは、 問題の全体像から目を背けることに他ならない。

  第五に、一部のマスメディアによる『朝日新聞』記事の報じ方とその悪影響も看過できない。すなわち、「誤報」という点のみをことさらに強調した報道に よって、『朝日新聞』などへのバッシングが煽られ、一層拡大することとなった。そうした中で、「慰安婦」問題と関わる大学教員にも不当な攻撃が及んでい る。北星学園大学や帝塚山学院大学の事例に見られるように、個人への誹謗中傷はもとより、所属機関を脅迫して解雇させようとする暴挙が発生している。

 これは明らかに学問の自由の侵害であり、断固として対抗すべきであることを強調したい。

  以上のように、日本軍「慰安婦」問題に関しての政府首脳や一部マスメディアの問題性は多岐にわたる。安倍首相は、「客観的な事実に基づく正しい歴史認 識が形成され、日本の取り組みが国際社会から正当な評価を受けることを求めていく」(2014年10月3日、衆議院予算委員会)としている。

 ここでいう 「客観的な事実」や「正しい歴史認識」を首相の見解のとおりに理解するならば、真相究明から目をそらしつづける日本政府の無責任な姿勢を、国際的に発信す る愚を犯すことになるであろう。また、何よりもこうした姿勢が、過酷な被害に遭った日本軍性奴隷制度の被害者の尊厳を、さらに蹂躙するものであることに注 意する必要がある。

 安倍政権に対し、過去の加害の事実と真摯に向き合い、被害者に対する誠実な対応をとることを求めるものである。

2014年10月15日
歴史学研究会委員会

 

 

 


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16 コメント

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Unknown (担々)
2015-05-26 05:35:03
ネトウヨってこの記事みてナルホドそうだったのか!なんて思わないのでは?
間違いなく彼らは、ここでの7000人を「朝鮮人」ということにしてしまうでしょうから笑

ま、100人中1人くらいは、そのネトウヨ脳が揺さぶられることを期待しましょうか。
返信する
歴史学16団体のいい加減 (南海の島)
2015-05-26 09:07:37
25日の歴史学16団体が従軍慰安婦問題について発表した声明について

史実であると実証するには、手続きというものがあります。
「歴史と証明」
http://1st.geocities.jp/rekisironnsyuu/rekisitosyoumei.rironnhenn.html
しかし吉見義明氏たちは、実証手続きをないがしろにし、
「現物史料の真贋」についての考察を省略しています。
http://1st.geocities.jp/rekisironnsyuu/kennkyuusyatatigasupaideha.html

ニュースで声明を発表した歴史系団体は、
実証法というものを、一般社会に説明しないままです。
これは不当な声明です。


史実であると実証するには、手続きというものがあります。
「歴史と証明」
http://1st.geocities.jp/rekisironnsyuu/rekisitosyoumei.rironnhenn.html
しかし吉見義明氏たちは、実証手続きをないがしろにし、
「現物史料の真贋」についての考察を省略しています。
http://1st.geocities.jp/rekisironnsyuu/kennkyuusyatatigasupaideha.html

ニュースで声明を発表した歴史系団体は、
実証法というものを、一般社会に説明しないままです。
これは不当な声明です。

実証法に即して、現物史料でもって証明した、という説明を展開するべきです。
返信する
Unknown (お芋)
2015-05-26 11:04:00
でたよw
外から引用して貼り付けるやつ。まず、そもそものその引用した内容自体の正当性の論証と、それに照らして今回の声明のどの部分が「不当」なのかを、具体的事実に照らして、御自身の言葉で説明すべきですね。
よくいるんですよ、こういう議論始めると外から引用して貼り付けるだけで「どうだ!!」っていう人。中身突っ込まれたら「わかりません」「揚げ足とるな!!」になるんですけどね。
返信する
もっと良いのを貼り付けたらいいのにね (raymiyatake)
2015-05-26 16:03:49
しかも貼り付け方が下手くそで、なんだか前半と後半がほとんど同じだし。
しょうがねえなあ、ほんとに(笑)。
返信する
あらまあ、大変(棒読み) (kei)
2015-05-26 16:17:19
>これは不当な声明です

不当であるという証拠が有るなら、訴えましょう。
このような大問題について歴史学者が6900人もスパイである可能性が有るなんて、大事件じゃないですか。

まずは専門家に相談をした方が良いですよ。
結果が解りましたら、報告お願いしますね。
返信する
畑違いの専門分野について ()
2015-05-26 17:34:21
他の専門分野に関わる問題についてはどう考えていいのか、という問題がありますよね。
私の場合、そこそこ法律についての知識は備えているので、法律についての問題があれば、直接条文にあたって、その後に専門家の論文を読み、どういう見解がその学会で「一般的」なのか、判断できるわけです。例えば、以前問題になった、河本生活保護問題についても、自分で調べて、マスコミやネットで飛び交う見解がいかにデタラメかすぐに判断できる、明治天皇の子孫?にあたる方が、憲法学者だか憲法研究者だか、専門家の肩書きをつけていても、それが学会では一般に相手にされてない方なんだとすぐにわかるわけです。あと駒大の先生とか。

で、今回の歴史学会の声明について言えば、私は歴史の研究については素人なわけです。こういう場合、基本的な考え方として、これだけの人数が賛同しているとすると、まずは、その内容がそれを専門とする研究者の間で「一般的な」共通認識になっている、ということを推測するわけです。そうであれば、コメのような「異論」については、その異論が歴史学会において一般的に承認されていないものではないか、というふうに考えるわけです。

私の場合は畑違いの分野については「まずは」こういうふうに考えを働かせますけどね。学会ではまったく相手にされてないような見解がマスコミやネットで流布されると、あたかもそれが通説的な位置づけが与えられることがあるので要注意ですよ。

この歴史学会の声明に異論を挟むのであれば、是非その見解が学会において一般的に承認されているという根拠を示してもらいたいものです。
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今も生きてる証人 (hiroくん)
2015-05-26 17:54:16
今も生きてる証人は居ます。先の総理大臣で、有りました、翁歳90に成ろうかと。これ等の方々に聞けば良い。
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東アジア親日非武装戦線 (宇賀仏)
2015-09-14 20:26:09
驚いた!「Lクラス闘争委員会」の残党がまだ活動していたとは。
『ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません』?たくさんの反対コメントから一つだけ選んで、寄ってたかって叩く。変わってないな。
ひょっとして管理人は桐島聡じゃないの?
当然、このコメントも反映されないよねwww
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学者志望者 (国際法・歴史認識(アジア近現代史)
2015-12-19 17:00:25
・昭和33以前にては、売防法施行前ゆえに
”罪刑不遡及効・罪刑法定主義”故に
慰安所自体は、合法である。
・強制性の有無、衛生・管理等”労働法”に抵触するか否かの,
・”人権問題化せぬよう、女衒業者の選別・指導に過怠・貸し瑕疵が存在の可能性ある。
・営業成績にかられて、阿漕に走った。
・しかし、当事者が少女が多いうえに、慎重さが求められた事案だっつたと思います
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Unknown (現代史学者志望者)
2015-12-19 17:04:06
・”女性人権救済”のため、日米地位協定17条5項c号の削除を、全国展開するべくたちあがろう。
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