ブラスカル

元マラソンランナーですが、今や加齢と故障でお散歩専門、ブラタモリっぽく街歩きをしています。

「戦争まで」(加藤陽子)を読んで思ったこと

2017-01-08 10:05:32 | 読書
大東亜戦争へと向かう道筋で、日本は世界から「貴国はどちらを選択するのか」と3度問われた。そして3度とも間違った選択をしてしまった。それを結果論と言わないために、我々は歴史を学ばなければならない。
リットン報告書、日独伊軍事同盟、そして大東亜戦争開戦直前の日米交渉、著者の高校生への歴史の講義をまとめた本である。当時の文献・資料を分析することで歴史をリアルタイムで検証していく、その様は、まるで当時の日本と国際社会を解剖していくようだ。

リットン報告書は、我々の先入観と異なり、日本の帝国主義的行動を一方的に否定する内容ではなかった。
日本が武力を背景に中国と二国間交渉をする従来的な手法ではなく、国際協調路線を取るのであれば、世界も日本の満州における権益を認め、Win-Winの道を探る準備があった。
第一次世界大戦を経験し世界は変わっていたのに、日本はそれを理解できずに国際連盟を脱退、孤立していった。

日独伊軍事同盟は、米国が第二次世界大戦に介入するのを抑止するために独が仕掛けたもの。この同盟に拙速に調印してしまった日本の本音は、独が勝利したときに連合国側の植民地(仏印、蘭印)の分け前にあずかるため。
戦わずして植民地を得る漁夫の利、第一次世界大戦の成功体験をもう一度ということか。大東亜共栄圏、民族自決などときれいごとを並べながらも、その本心は何ともあさましい。

仏印進駐という甘い状況判断から、石油を禁輸された日本、まさに油断である。
ぎりぎり日米開戦を避けるために近衛首相がルーズベルト大統領に首脳会談を呼びかけるが、これが日本国内に漏洩、首相の弱腰を非難する反米英に染まった世論とテロリズムの前に首脳会談は見送りとなってしまう。
この状況って、大老・井伊直弼を暗殺した幕末の尊王攘夷のよう。日本国民もそういう風になるんだということに驚かされるれる。

あの戦争の原因を、「軍部の独走を許してしまった」みたいに言うけれど、実態はそんな単純なものではない。
天皇や政治家、財界はもちろん、軍の上層部も開戦は何としても避けるべきと考えていた。にもかかわらず、軍の中堅や政治団体がテロで反戦派を沈黙させ、マスコミも国民もこれを熱狂的に支持した。
ポピュリズムの蔓延。政治が自国の利益を図ることはもちろんだけど、同時に他国のことも考える、普遍的な理念の具体化も図る、当時の日本にはそれが決定的に欠けていた。

文明の衝突と反グローバリズム、世の大勢は国際協調から離れていっているように思える。まるで第一次世界大戦以前に逆戻りしていくかのようだ。
この本に登場する中高生たちの問題意識の鋭さは頼もしい。こういう子供たちばかりが大人になれば、きっと戦争は起こらない。
歴史は暗記科目ではない。歴史教育って本当に大切である。
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