Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経営情報学会@愛媛大学

2011-11-01 23:59:13 | Weblog
10月29日~30日に愛媛大学で開かれた経営情報学会に参加した。愛媛大学のキャンパスは道後温泉の隣り,松山城のすぐ北という絶好の場所にある。この学会はITに重点を置いた戦略論・組織論からマーケティング,あるいはエージェントベース・モデルまでさまざまなセッションがある。

素晴らしいのは東日本大震災の復興問題を取り上げていること。特別講演に sinsai.info を運営する関治之さんを呼んだほか,「震災と復旧」と題するセッションもある。経営学系の他の学会は知らないが,少なくともマーケティング系の学会ではそうしたことは行われていない。残念なことである。

関尚之さんは優れたエンジニアであり,IT系ベンチャー企業の経営者であるが,震災直後に「クラウドソースによる復興支援プラットフォーム」sinsai.info の立ち上げに参画する。ジオメディアという技術(あるいは発想)を生かし,地図上に震災情報をユーザーが投稿していく仕組みである。

関さんは次いで,Hack For Japan という活動を紹介する。所属企業を超えてエンジニアたちが集まり,復興の支援につながるアプリを開発する。こうした企業横断的活動以外に,アマゾン,グーグル,ヤフーなどで,エンジニアたちが会社の許可を待たずに支援活動に乗り出した例もある。

そうした行動を許容・促進する組織風土も非常に興味深いが,ぼくとしてはむしろ,そうした行動をとる個々人の価値観やライフスタイルといった,よりミクロな側面に興味がある。クリエイティブ・クラス論等々をさらに先に進めた,新しい地平に立つ人々が現れていると直感する。

他にも面白い報告をいくつか聴いた。個人的な関心に応えるものとしては,早稲田大学スポーツビジネス研究所の藤原哲郎氏による「スポーツビジネスのウェブサイト戦略:プロ野球のウェブサイト比較から」。先行研究やサイトの評価の仕方など,いろいろ参考になった。

実は昨年卒業したゼミ生が同じテーマで卒論を書いている。今回の報告にあった,全般にパリーグのほうがウェブの活用に積極的という点は同じであった。その背景として,パリーグでは球団を超えたマーケティング会社が設立されていることが指摘された。セでは意外にも阪神の成績がよい。

もう1つ,早稲田大学の釜池聡太氏による「 ソフトウェア市場におけるplatform envelopmentの研究:マルチデバイス環境における検討」も興味深かった。platform envelopment はプラットフォーム包囲と訳される。IT業界のプラットフォーム間競争を理解する鍵となる概念だ。

日本大学の根本忠明氏による「ソニーとアップルの明暗を分けた物作り戦略」も非常にタイムリーな話題を取り上げている。根本氏は背景として,日米の著作権制度の違いなども指摘されていた。ということは,単に企業間競争に「負けた」だけでなく,国レベルの制度競争で負けたことになる。

ぼくにとってふだん戦略論の議論に触れる機会が少ないので,そうした研究を拝聴できたのは大変ありがたかった。もちろん,なかには全く頭に入ってこない発表もあって,他分野の研究成果を聴くことは容易ではない(同じ分野でもそういうことはしばしばあるが・・・)。


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