2006年度作品。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=オーストリア=ドイツ=クロアチア映画。
シングルマザーのエスマは12歳の娘サラとつましく暮らしている。サラの一番の楽しみは、もうすぐ出かける修学旅行。戦死したシャヒード(殉教者)の遺児は旅費が免除されるというのに、エスマはその証明書を出そうとしない。かわりに金策に奔走する母に、サラの苛立ちは募るばかりだ。12年前、この街でなにが起こったのか。
2006年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。
監督はこれが初監督作のヤスミラ・ジュバニッチ。
出演は「アンダーグラウンド」のミリャナ・カラノヴィッチ。ルナ・ミヨヴィッチ ら。
戦争犯罪で心に傷を負った女性を中心に描き、新しい恋人の予感と、娘との関係を絡めて、希望めいたものをつむぎ出そうとしている(ように見えた)。そのアプローチの仕方は平凡といえば平凡だが、個人的には嫌いじゃない。
僕の印象に残ったのは、主人公の過去のトラウマを呼び起こすような何気ない映像の数々だ。
それは映画のところどころに現れて、彼女の心の傷の深さを如実に示している。その様はPTSDそのもので見ていてもなかなかつらいものがあった。
そのほかとしては娘の存在感も印象に残る。同級生の男子との関係や母との関係、反抗期の描写などは際立っていて、見ていても楽しい。
この作品には光る物がある。
しかし全体的に見ると、物語のダイナミズムに乏しいため、上記の点以外で心に引っかかる部分が少なかったのは否定しようもない。特に物語の肝となる娘の出生の真相も予告編で早々に明かされてしまっているので、興味が半減してしまったのは痛いだろう。
また男との関係や、男が絡む暗殺の話などいくつか中途半端なエピソードが散見されるのも難だ。そのせいで散漫な印象となり、物語のフォーカスにぶれが出てしまった。
ところどころに光る部分があるし、決して嫌いなタイプの作品ではないが、人に勧めるほどのおもしろさはない。
正直言ってもったいない作品である。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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