印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 2016年11月度

2016-11-17 10:28:53 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年11月度会合より)

●メディア・リテラシーで出版産業を後押ししよう

 出版業界の現状をみると、厳しい経営環境にありながら、革新的な発想で自ら打開しようという意思があまりみられないような気がする。時代の流行を追った販売部数第一の姿勢が目につく。販売部数を重視してはいるもののベストセラーを達成できる本はごく限られ、返品率は相変わらず高い。手を携えているはずの印刷業界も、積極的に連携(コラボレーション)して企画面からサポートしようという姿勢が弱いようだ。両業界とも、市場や産業のかたちを変えてしまった情報のデジタル化についていけず、ビジネスの恩恵に預かれていない。コンテンツ・ファーストが重要であることに、もう一度、気づくべきではないか。コンテンツの内容がよければ、読者が欲している個々のニーズに的確に応えることもできる。印刷業界はコンテンツを加工、運用、管理して、メディアのかたちにして読者に伝えることに手慣れているはず。メディアとは、コンテンツの処理プロセスを表現したもの、読者とのつながりを可能にするものである。印刷業界特有のメディア・リテラシー機能を発揮して、出版業界の活性化を支援していってほしい。


●果たして顧客と消費者の間をとりもっているだろうか

 印刷会社にとってのマーケティング、コミュニケーションというと、ともすると直接の顧客との良好な関係を維持するものと考えられがちである。しかし本当の意味は、その顧客とその向こう側にいるエンドユーザー、消費者との相互関係を望ましい状態にするための支援を、後方からあるいは協働しておこなうところにある。日本では、かなり前から顧客のビジネスに役立つ“お手伝い業”に徹するようにと提唱されているが、そうした考え方は今や、取り扱っている製品・サービスが生産財か消費財かの如何を問わず、どの産業でも共通した認識となっている。印刷産業においてももう一度、原点に立ち返って、この言葉を見つめ直す必要がある。


●「カスタマー・コミュニケーション・パートナー」になれ

そんな折、消費者の購買行動を追跡しながら、クロスチャネルの機会を的確に捉えたマーケティング戦略を顧客に提案すべきだとの見解が、アメリカの有識者から示された。印刷会社は従来のビジネスモデルを自ら変革して「カスタマー・コミュニケーション・パートナー」になれ、というのだ。企業はこれまで、ターゲットとする消費者が何を購入するかを調査することで市場動向を探っていけば十分だったが、パーソナリゼーションの進んだ今、個々の消費者がどんな機会に触発されて買ったか(消費財)、取引先企業がどのようなプロセスを経て成約したか(生産財)を把握することが重要になっている――アメリカからの提言はこう前置きする。モバイルデバイスやソーシャルネットワークシステムが浸透した社会では、消費者も企業も豊富な情報入手手段をもち、念入りな調査の末に購入を決断している。こうした新しい時代における消費者/企業の購買行動を、深く理解することがマーケティング関係者に求められているとしている。


●購買行動の機会、段階ごとの購買体験のデータを

有名なAIDMAの法則では、購入者が注目-興味-欲求-記憶-行動という、購買決定に至る反応プロセスのどの段階にあるかを想定して、それに見合った有効なマーケティング活動を展開することの重要性を説いている。この提言ではさらに加えて、マルチメディアによる広告を含めた口コミから店頭での接客までの多様なチャネルでおこなわれる購買体験を、全て把握すべしだと強調する。そうすることによって、どこに購買決定の動機、ビジネス上の付加価値があるかがわかってくるという。購買行動を段階ごとに把握し予測するためにはどうしたらよいのか? 提言では、消費者や取引企業とのあらゆる顧客接点での、いつ・どこで・何を・なぜといった顧客体験をデータとして収集し、顧客を次の段階へ導くために活用する必要があるとしている。その際、生きてくるのがパーソナリゼーションの推進者ともいえるモバイルデバイス、SNSツール、Webサイト、DM類などである。良質なデータを集めて分析すれば、ターゲットとする個(・)個(・)客の購買行動を予測できる明確な基準が得られる。購買の経緯が掴めれば、的確なマーケティング用のコンテンツを作成でき、マーケティング戦略の策定が可能になる。


●マルチチャネルを通してどのように支援していくか

 印刷会社はこれまでとは異なったビジネスモデルを探っている真っ最中だが、実は顧客企業も同じように新しいビジネスモデルを模索している。個々の消費者や取引先に有効な製品情報・サービス情報を伝え、好ましい関係を築くことに追われている。だからこそ印刷会社は、顧客企業のさらに先にいる“顧客の顧客”を見通さなければならない。「直接の顧客に販売促進のための情報・メディアを提供するだけでなく、顧客と“顧客の顧客”の間で交わされるコミュニケーションをいかに円滑にするのか、その負担を軽くするためにマルチチャネルを通してどんな支援をしていくかに力を注ぐ必要がある」と提言は主張するのだ。データにより購買行動の推移が把握できれば、それぞれの顧客接点に適したコンテンツを作成していくことが可能になる。これこそ、印刷会社が提案すべき「クロスチャネルキャンペーン」ということになる。


●クロスメディアでマーケティング戦略を提案しよう

 企業は、消費者や取引先に連続した購買体験の機会を与えることがきわめて重要になっている。顧客企業は今こそ、カスタマー・コミュニケーションを後押ししてくれる戦略的なパートナーを求めている。データ分析に基づいて作成したクロスメディアを武器に、購買行動の段階ごとのカスタマー・コミュニケーションを支援できる印刷会社の出番がやってきた。データ管理やコンテンツ加工などを加味した高付加価値型サービスで顧客支援する――そんなビジネスチャンスが到来しているのである。アメリカ発の今回の提言はしつこいくらいに、「印刷会社が差別化によって競争を勝ち抜こうと望むからには、顧客企業が展開しようとしているマーケティング戦略を“お手伝い”できるよう、自らの印刷製品/サービスのあり方(ポートフォリオ)を変えなければならない」と繰り返し力説している。
※参考資料=What They Think? 2016.8/9; Barb Pellow、Group Director, InfoTrends


●顧客視点、顧客基点に問題はないのだろうか?

 社会の仕組みや市場構造が変わったことを理解するのは重要だが、変化のなかで多様化し流動化してしまった個々の顧客ニーズに対応しようとするなら、自社が変身するところからスタートすべきである。自ら変わらずして、市場の要望に応えることはできない。世の中の動きを“ハッと”気づく必要があるのだ。「印刷会社はいわれたことしかしない。頼みたいことをやってくれない」という恨み節?が、一般の人たちから聞こえる。どこの印刷会社も“本当の”顧客目線で仕事をやってこなかったのではないか? 「印刷会社は顧客と真剣に向き合っているのか」という指摘もあるが、深く考えれば、顧客視点、顧客基点が問題になっている間は、印刷会社が望まれている真の仕事は達成できないのではないか。顧客の先にある消費者が一番欲しいと思っていることをいかに見つけ出し、顧客のビジネスをどう支援するか――手がかりはそこにある。


●印刷文化の育成を今も担っているだろうか?

 印刷文化の重要性については、これまでもあらゆる機会に叫ばれてきた。しかし、当の印刷産業が日々、これを意識して仕事をしているかというと甚だ疑問である。文化といっても歴史回顧型のものだけとは限らない。現在とり扱っているコンテンツは何の目的があり誰に伝えたいのか、何に役立ってどのようなかたちで保存されたいのか――こんな意識をもって印刷メディアを作成しているだろうか。感動と期待をもってもらえる製品をつくることが、豊かな社会や産業、生活、教育に貢献して、将来の文化として蓄積されていくことを再認識したいものである。


以上

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