ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2 (2023)

2024年04月02日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

豪放磊落ながら実は緻密な親分肌オーナー若松(井浦新)と、天然良性の優しき夢追い支配人木全(東出昌大)の“学校(スコーレ)”で学んだ映画青年(杉田雷麟)の成長譚に井上淳一が仕込んだのは、自身の郷愁ではなく今どきめずらしい「父性」へのリスペクト。

時代は1980年代初頭。一歩間違うとアナクロでマッチョな郷愁物語に成りかねない題材に、井上は映画監督志望の女子大生金本(芋生遥)を配置することで物語に現代にまで連なる「厚み」を持たせることに成功している。30年前の日本に女性監督などいないに等しかったし、世間は国籍の問題に関して理解はおろか関心すら希薄だった。彼女の懊悩は2020年代の今だって十分に同時代的だ。

余談その1。日本ビクターの家庭用ポータブルビデオが出てきます。あのビデオはHR-2200という機種で、当時私が勤めていた広告制作会社が販売促進プロモーションを請け負っていました。学校出たての私は「仕事は先輩の背中をみて覚えろ」の世界で、本作の井上青年のように右往左往。あのビデオのために何度か徹夜(まがいではなく)されられた思い出があります。

余談その2。缶ビールを飲みなら講義をする予備校講師がでてきます。私が通った予備校には、ひっきりなしにタバコを吹かしながら授業をする講師がいました。作中の講師と同じ、彼も全共闘くずれのセンセイでした。

余談その3。作中、学生の自主制作映画が話題だから特集上映してみたらどうかという話が出てきます。東出昌大演じる木全純治氏がまだ在籍していただろう1978年の12月に東京池袋の名画座・文芸地下で当時は「OFF THEATER FILM FESTIVAL」と呼ばれていた現在のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の入賞作品(9本)の上映会が開催されています。私はこのときに『突撃!博多愚連隊』(石井聰互・現:岳龍)、『ユキがロックを棄てた夏』(長崎俊一)、『ライブイン茅ヶ崎』(森田芳光)を観ています。

作品の感想より余談の方が多くなってしまいました。私にとってそんな懐かしい映画でした。

(3月24日/テアトル新宿)

★★★★

【あらすじ】
1980年代初頭。東京の名画座を辞めて帰郷していた木全(東出昌大)のもとに映画監督の若松(井浦新)から連絡が入る。自分の映画を上映するための映画館を名古屋に開設することになったので支配人をして欲しいという。若松の言動に翻弄されつつも「シネマスコーレ」と名付けられたミニシアターの運営が始まり、地元大学の映研の金本(芋生悠)とその先輩(田中俊介)がスタッフに加わった。そんな赤字続きの映画館に若松監督に心酔する高校生の井上(杉田雷麟)が通い詰めていた。若松孝二と現在も代表を務める木全純治のクロニクルに自らの青春期を重ねて描く井上淳一脚本・監督の「夢に心をジャックされた者たち」への賛歌。(119分) 


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