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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2009

2009年05月04日 | pocknのコンサート感想録2009
~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2009~
東京国際フォーラム
5年目のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの主役はバッハ。作品の多さから言っても、多彩な編成をみてもいつも以上の規模で催されると期待していたが、なぜか会期は3日間に短縮。演奏家も大物の顔ぶれが明らかに減っているし、何よりチケット代が高いコンサートが軒並み増えた。予定されていた「メサイア」が「予算の都合」で別プログラムに変更というような事態も発生し、今年の「ラ・フォル・ジュルネ」はちょっと変だ。不況のあおりを受けてスポンサーが減ってしまったのだろうか… チケットの予約も例年以上に苦労して、結局取れなかった公演もあった。

それでも今年も家族で出かけ、1日だけの「ラ・フォル・ジュルネ」ではあったが結果としては素晴らしいバッハを堪能することができた。


~5月3日(日)~

ベルリン古楽アカデミー
ホールC(ライプツィヒ)

【曲目】
1. バッハ/管弦楽組曲第1番ハ長調BWV1066
2. バッハ/管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068

旧東独時代にバロック時代の音楽を演奏するために結成されたというオーケストラ。一昨年の「ラ・フォル・ジュルネ」でモツレクを聴いている。ピリオド楽器によるピリオド演奏で、管弦楽組曲では少々食傷気味の2番を跨ぐように1番と3番が並んだのは嬉しい。

指揮者なしのベルリン古楽アカデミーは柔らかなタッチで淀みなく、木目細かいアンサンブルを聴かせてくれた。生き生きとした舞曲のリズム、テンボ感や呼吸も自然で清々しい。弦楽合奏とオーボエ&ファゴットのやり取りも軽妙で見事なコントラストを演出した第1番、第3番では投入されたトランペットが突出するのではなく優しい音色でアンサンブルに溶け込み、やはり節度のあるキリッとしたティンパニに引き締められて気品のある華やかな響きを奏で、どちらの曲も秀演だった。

ラ・レヴーズ
ホールB5(リューネブルク)

【曲目】
1. バッハ/ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ第1番 ト長調BWV1027
2. バッハ/チェンバロのためのトッカータ ニ長調BWV912
3. ラインケン/トリオ・ソナタ集「音楽の園」よりパルティータ第4番ニ短調

【演 奏】
ラ・レヴーズ
ホセ=マヌエル・ナヴァーロ(バロック・ヴァイオリン)/シモン・エイリク(バロック・ヴァイオリン)/フロランス・ボルトン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)/ベルトラン・キュイエ(チェンバロ)/エマニュエル・マンドラン(オルガン)/バンジャマン・ペロー(テオルボ)


当初予定されていた内容が演奏者も曲目も変更となったうえに、入口で配られたプログラムに載っていた曲(ラインケンのパルティータ第1番)と全然違うバッハっぽい曲が始まってちょっとうろたえたが、テオルボという珍しい楽器が加わった若い演奏家によるバロック室内楽はなかなか楽しめた。

アンサンブルの響きがとりわけ豊かで深みが感じられたのは通奏低音にテオルボが加わったためだろうか。それぞれの奏者が自分のパートを生き生きと歌いつつアンサンブルとしては若さみなぎる充実した響きで、ポリフォニーの妙を聴かせてくれた。中でも演奏の前にきれいな日本語で挨拶したガンバ奏者のボルトンの雄弁で滑らかな弓さばきは印象に残った。
ピエルロ指揮リチェルカール・コンソート
ホールC(ライプツィヒ)

【曲目】
1. バッハ/ミサ曲 ト短調 BWV235
2. マニフィカト ニ長調 BWV243

【演 奏】
S:マリア・ケオハネ、サロメ・アレール/カウンターT:カルロス・メナ/T:ハンス=イェルク・マンメル/B:ステファン・マクラウド
フィリップ・ピエルロ指揮リチェルカール・コンソート


バッハの合唱曲が聴けると楽しみに臨んだこの演奏会だったが、ミサ曲もマニフィカトもソリストが合唱楽曲も受け持つ「リフキンスタイル」でかなりがっかり。

ソリスト達が皆良かったのは救いで、ソロ楽曲では存在感のある濃い歌を聴かせ、合唱楽曲では個性が突出せず、澄んだ美しいハーモニーを聴かせてくれた。長いメリスマで織り成してゆくポリフォニーのタペストリーも端正で綿密。オケも歌と同様に調和の取れたハーモニーを響かせ、ソロ楽器は味わい深く語って文句なしで、近年の世界のピリオド楽器のオーケストラの層の厚さを改めて感じた。

ピエルロの音楽作りにも共感できただけに、合唱を使ってくれれば言うことなしだったかも知れない。四重唱だからこその長所はもちろんわかるし、今日の演奏でもそれを伝えていたとは思うが、全部をソロでやってしまうと合唱と四重唱での役割りや意味合いの違い、バロック時代に重視された激しいコントラストの表出等を出すには苦しいのではないだろうか。それにカンタータで会衆が歌うべきコラールや、受難曲での民衆の叫びなどバッハは合唱を想定したと考えるのが自然だと思うのだが… とかいう理屈は抜きにやっぱりバッハの合唱楽曲はとにかく合唱で聴きたいんです!
コルボ/ローザンヌのロ短調ミサ
ホールC(ライプツィヒ)

【曲目】
◎ バッハ/ミサ曲 ロ短調 BWV232

【演 奏】
S:シャルロット・ミュラー=ペリエ/A:ヴァレリー・ボナール/T:ダニエル・ヨハンセン/Bar:クリスティアン・イムラー
ミシェル・コルボ指揮ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル


大物の顔ぶれが減った今回のラ・フォル・ジュルネだが、超大物のコルボは今年も来てくれた。そしてコルボの指揮でロ短調ミサを聴けるという幸せ。

「キリエ」冒頭のh-mollの劇的なトゥッティでコルボは透明で純粋無垢な信仰の世界へと引き入れる。そしてオーケストラによる前奏の、何と気高く雄弁な調べ。音が立ち上がり、持続し、消えるその一連の所作の見事さをどう表現していいか言葉が出ない。そんな完璧なお膳立ての上に合唱パートが一声ずつ加わる。何の気負いもなく、何の迷いもなく、ただ一点を見据えた清澄な歌声が2声、3声と重なり合うごとに静かな祈りが純度を深め、昇華されて行くよう。

コルボが作り上げる世界は、例えば「グローリア」や「サンクトゥス」などでトランペットやティンパニが加わり、音響的に華やかな色彩と光に溢れる場面でも、神を賛美する姿の外面が飾り立てられるのではなく、敬虔で美しい純粋な内面に光が当てられる。これ見よがしの虚飾ではない真の美しさへとひたすら進んで行く姿を目の当たりにして、それに心を動かされない人がいるだろうか。

バッハの普遍・不朽の名作をコルボはローザンヌ声楽・器楽アンサンブルと屈指のソリストを介して、クリスチャンでなかろうが、信仰というものを持ち合わせていなかろうが、或いはピリオド楽器とピリオド奏法による演奏こそ真のバッハであると唱えていようが、そんな小さなことは超越して全世界の全人類に向けて純粋で気高い祈りのメッセージとして決して声高にではなく、謙虚に静かに発しているのを感じた。そしてこの現場に居合わせることができた千載一遇の幸せを噛み締めて会場を後にした。

ステージに出てくるときは足元が少々危なっかしく指揮台には椅子も用意されていたが、いくつかのソロ楽曲を除きずっと立って元気に指揮をするコルボの姿を見て、来年も、再来年もずっとずっと「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」を支える存在であり続けて欲しい、という気持ちでいっぱいになった。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008(1)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008(2)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2007
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2006

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2 コメント

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ロ短調ミサ (Pilgrim)
2009-05-09 12:05:54
 こんにちは、去年もラ・フォルジュルネの記事にお邪魔した「オペラの夜」です。

 コルボのバッハは本当に美しいですよね。実際、スタイルが古いとか、どうでも良くなります。
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Re: ロ短調ミサ (pockn)
2009-05-10 00:49:52
オペラの夜さま、お久しぶりです。コルボの演奏も昔に比べるとピリオドの要素がかなり取り入れられていましたね。しかも10人ほどのアルトパートに男性が4人もいてビックリしました。でもコルボのこうしたタッチはとても自然で完全に自分の言葉として語り、本当に人の心に訴える音楽を伝えているのがすごいと思いました。次の来日も楽しみです。
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