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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2007

2007年05月02日 | pocknのコンサート感想録2007
5月2日〈水)ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2007
~民族のハーモニー~
東京国際フォーラム

去年はモーツァルトで大いに盛り上がった「熱狂の日」だったが、今年は「民族のハーモニー」と題して作曲家を特定せずに音楽の民族性に焦点を当てた5日間。その初日に出かけ、無料コンサートも含めて全部で5公演を聴いた。

連休の谷間とは言え一応平日なのに、会場は昼過ぎから大勢の人で賑わい、コンサートはどれも満席状態。「ラ・フォル・ジュルネ」の人気は益々高まって来ているようだ。



田尻真高指揮 たじオケ。
展示ホール

【曲目】
ボロディン/ダッタン人の踊り

まずは展示ホールで行われた無料コンサートを聴く。「たじオケ。」は昨年東京国際フォーラムで開催された「のだめカンタービレ杯」オーケストラ部門で「熱狂の日」音楽祭賞の最優秀賞を受賞して今回の出場権を得たという芸大の学生オケ。

威勢がいいというイメージの「ダッタン人の踊り」だが、細やかで柔らかな表情を大切にし、淀みなく音楽が流れて行く。盛り上がる部分でのクリアな音色やリズムも良く、みずみずしくしなやかな演奏。

ステージ周辺では演奏中も絶えず人がうろうろしているようなオープンな無料コンサートで集中するのも大変かも知れないが、祝祭的雰囲気や、超有名なアーティストも聴いているかも知れないこうした場を、小曲一曲であれ十分に活かした演奏だった。

田尻君の指揮ぶりも繊細で流麗に決まっていたが、「熱狂の日」音楽祭賞の審査員特別賞を受賞したとのこと。学生指揮者のもとに学年を問わず集まって作られた学生オケということで、これからの活動も楽しみだ。


Vn:樫本大進(1~3)、佐藤俊介(2)/ Cl:ニコラ・バルデル(3)/ Pf:小菅 優(1~3)
ホールD7(イプセン)

【曲目】
1. シマノフスキ/神話 3つの詩 Op.30
2. ミヨー/2つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ Op.15
3. ミヨー/ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲 Op.157b

シマノフスキの「神話」、プログラムでは3曲目の「ドリアートと牧神」だけとなっていたが全曲やってくれた。
バイオリンとピアノがなまめかしくまとわりつくように絡み合い、官能のベールに包まれるようなこの音楽の特色が生かされた演奏で、樫本大進の多彩で的確な音色と安定した大きな表現、小菅優の詩情豊かな柔らかく自然な表情がぴったりと合っていた。

続くミヨーでもう一台のヴァイオリンに佐藤俊介が加わり、樫本との息も合って、3人がアンサンブルを楽しんでいる様子が伝わってきた。

クラリネットのバルデル、樫本と小菅によるミヨーの三重奏曲は白眉の演奏!
バルデルの柔らかな余韻を引くクラリネットは、早いパッセージでもゆったりと歌う場面でも的確にコントロールされたエレガントな語り口が素晴らしい。
そして小菅のピアノがこのアンサンブルに照明を当てるように、前面から、或いは背後から絶妙にその配色や光度を変化させながら照らし出し、アンサンブル全体を、或いはヴァイオリンやクラリネットを浮かび上がらせる。伸びやかで自然なリズムや呼吸も素晴らしくホレボレするようなピアノだ。
樫本とバルデルのデュオだけの楽章での二人の間の活き活きした対話も耳を引いたし、この曲ではミヨーの愉快で洒落たピュアな魅力を堪能した。


Vn:レジス・パスキエ/ Vc:ロラン・ピドゥ/ Pf:ジャン=クロード・ペネティエ
ホールB5(ガルシア・ロルカ)

【曲目】
1. ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ ト長調
2. ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ ハ長調
3. フォーレ/ピアノ三重奏曲 ニ短調Op.120

引き続いてのフランス音楽は3人のフランス人アーティストによる演奏。

最初のラヴェルが始まった途端に気づかされるさっきまでの日本人中心のフランスものとの明らかな違い、それは音楽の底から臭いが湧いてくること。「味」というか「臭み」というか、呼吸や歌いまわしから来る独特で強烈な個性。それは体臭と言ってもいいかも知れないし、或いは町とか国とかが持つ匂いとも言えるかも知れない。

ちょっとした間や陰影や、呼吸の取り方でこれほどまでに演奏に「ローカル色」を与えるというのは、今回の「熱狂の日」の「民族のハーモニー」というコンセプトの好例ではないか。こうした「ローカル色」は、決して計算して生まれるものではなく、その音楽が生まれ、それを演奏する人達が生まれ育った空気や土壌の中で培われ、熟成されてくるものなのだろう。

「お国ものの演奏が何より」といった短絡的な発想には抵抗があるが、そうした国や地域の空気や匂いが自然に、巧みに演奏に滲み出たときの魅力がいかに素敵なものかということを体現してくれるような演奏だった。

そしてどんな音やフレーズでも、リズムでも「これはこういうもんなんだよ!」と明快に示してくれるような語りかけ、歌いかけの妙味は、この3人のセンスとテクニックも抜群である証といえるだろう。この「熱狂の日」の会場で最も響きが悪そうなホールB5の後方隅の席だったが、そんなことは全く忘れてしまうほど、心にストレートに届いて来た。


仲道郁代(Pf)
相田みつを美術館(ストリンド・ベリ)

【曲目】
1. グリーグ/抒情小品集より
  1)アリエッタ  2)蝶々  3)春に寄す  4)夜想曲
  5)トロルドハウゲンの婚礼の日  6)その昔   7)郷愁  8)思い出

2. グリーグ/組曲「ホルベアの時代より」Op.40

相田みつをの書やカリグラフィー作品に囲まれた100人そこそこしか入らない限られた空間は独特の詩的な雰囲気が漂う。そんな会場に置かれた木目調のスタインウェイを弾く仲道さんのピアノを間近で聴き、感じることができるというのは素晴らしい体験だった。

ひとつひとつの音を心の底から紡ぎだして行く仲道さんの演奏にはいつでも魅了されっ放しだが、今回は顔の表情やタッチを間近で見て、細かな息の抑揚を耳にすることで、そうした演奏が生まれる現場に居合わせたというこれまでにないような臨場感も体験することができた。

深い湖の底の砂のきらめきまで見えるような透明で美しいタッチのひとつひとつの音は、まるで命を与えられたように次の音へそのまた次の音へと受け継がれ、それらがひとつの生きた表情を作り出す。

そんな音たちの振動を全身で感じ、音のシャワーを全身で浴びていると、何だかこの空間が別の世界になってしまったような感覚になる。「ホルベアの時代より」も終盤の「アリア」の切々とした「祈り」の響きの中に身を任せていたら体の中の血がみるみる浄化されてくるような、音楽の魂が自分の体に乗り移ったような気持ちになった。

グリーグが音で描いた心象風景を、これほどまでに、もしかしてグリーグがイメージしていた以上に清らかに浄化された姿で描いてしまうアニストは仲道さんしかいないのではないか、と感じる素晴らしい公演だった。


プラハ・ガルネリ・ピアノ・トリオ
ホールB5(ガルシア・ロルカ)

【曲目】
1. ドヴォルザーク/ピアノ三重奏曲第4番ホ短調 Op.90「ドゥムキー」
2. ヤナーチェク/おとぎ話(チェロとピアノのための)
アンコール:ドヴォルザーク/ユモレスク

【演奏】
Vn:チェニェク・パヴリーク /Vc:マレク・イェリエ /Pf:イヴァン・クランスキ

これはさっきのフランスものの「お国もの演奏」で感じた以上に、民族的な臭いがムンムンと漂い、民族の血が沸き立ち踊るような演奏だった。それはもちろんドヴォルザークやヤナーチェクという作曲家が、お国の音楽のリズムや調べを作曲に取り入れたことによることも大きいのだろうが、それをここまで手中に収めて魂の歌を聴かせるこの3人の体を流れる血の濃さや体臭を感じずにはいられない。

それぞれがそれぞれの楽器を手に演奏するわけだが、もはや誰が何の楽器を持っているかなんてことは忘れ、ただただ彼らの「心の歌」に耳を傾けている自分に気づく。ヴァイオリンやチェロやピアノの音としてではなく、彼らの生身の「声」を聴いているようなストレートな心の歌を感じる。今日のような曲目を演奏する彼らにとっては、楽器とはユニバーサルなものではなく一種の民族楽器のように限られた目的のための道具としての機能が優先されているようにも感じた。

アンコールで演奏された「ユモレスク」もそんな3人の持つ「心の歌」と「心のリズム」が見事に和合し、得も言われぬような共感や郷愁や匂いを醸し出した。その演奏からは絶対に日本人には真似できないような強い民族の血を感じるのだが、それが私達日本人の心にこれほどまでに語りかけて共感を覚えるというのは、結局は人間の心の奥にあるものを震わせるものは共通しているということだろうか。

「民族のハーモニー」ということでいろいろな民族の音楽に触れることができる今回の「熱狂の日」だが、様々な民族のハーモニーを体験して、その違いや異質性をいろいろ感じながらも結局は得られる感動は共通したもので、「音楽は世界を結びつける」という、余りに陳腐な標語がやっぱり真実であると感じずにはいられなくなるプラハ・ガルネリ・ピアノ・トリオの公演だった。

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