~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008~
東京国際フォーラム
~5月2日(金)~
小菅 優のピアノ・ソロ
ホールB7(ショーバー)
【曲目】
1. シューベルト/幻想曲 ハ長調D605a「グラーツ」
2. シューベルト/3つのピアノ曲D946
【アンコール】
シューベルト/3つのピアノ曲~第1曲(シューベルト自身により破棄されたと思われる初稿譜より)
長年ビアノデュオをよく組んでいる同僚のさっちゃんも小菅優さんがお気に入りということで一緒に聴いた。
小菅優は一昨年のラ・フォル・ジュルネで初めて聴いていたく気に入ったピアニスト。優しく繊細なタッチで、音楽に微妙な陰影と変化に富んだ淡い色彩を与える。小菅さんは指先のミリ単位の微妙なコントロールが効いているようなデリケートな感触で自然で柔らかな歌を紡ぎ出す。水を得た魚のようなみずみずしい生命力が、正面切ってではなくシューベルトらしい控え目な表情を携えつつも息づいているところが小菅さんの演奏のすごいところ。それが演奏に深みと奥行きを加える。
優しさ、愛らしさを伝えた幻想曲、哀感をにじませた3つのピアノ曲、そしてアンコールで弾いてくれたしっとりとした前奏のついた3つのピアノ曲第1曲の初稿版、どの曲でも小菅さんのキラリとした輝きと器の大きさを感じさせ、知らない曲だったが、シューベルトの音楽の魅力を十分に堪能した。
デジェ・ラーンキとエディト・クルコンのピアノ・デュオ
ホールB7(ショーバー)
【曲目】
1. シューベルト/大ソナタ 変ロ長調D617
2. シューベルト/ロンド イ長調D951
3. シューベルト/創作主題による8つの変奏曲 変イ長調D813
こちらもさっちゃんと聴いた。もう30年以上世界の第一線で活躍しているラーンキを生で聴くのはもしかして初めてかも。
そのラーンキのprimo、クルコン(このピアニストの名前を聞くのは初めて)のsecondaで聴いたデュオは「息がぴったり合っている」なんて月並みな言葉では言い表せないほどの一体感を感じるデュオだった。二人は同じ空気を吸い、同じものを見つめ、同じ息を吐き出している。ひとつの作品を二人ではなく3人とか4人とかで演奏しているように内容が厚くて濃い。
大ソナタでの極めつきのチャーミングで活き活きした表情も、変奏曲での旅する風景や情感も、二人が交感し合って増幅され、聴き手の心に更に一歩近づいてくるという感じ。終曲のレントラー風の楽しげなリズムがそのあとまでずっと心に残っていた。
さっちゃんと近々久しぶりにピアノデュオやろうよ、なんて気分になった。
モディリアーニ弦楽四重奏団+アンリ・ドルマケット(Vc)
ホールB5(テレーゼ・グローブ)
【曲目】
◎ シューベルト/弦楽五重奏曲 ハ長調Op.163 D956
超有名アーティストの演奏をいろいろ聴ける一方で初めて名前を聞くアーティストやアンサンブルとの素敵な出逢いがあるのもラ・フォル・ジュルネの楽しみのひとつ。このモディリアーニ弦楽四重奏団もそんな出逢いとなった。
このアンサンブルはパリ音楽院の若手によって5年前に結成されたそうだが、チェロのマルケットが加わってシューベルト最晩年の名曲を深く感動的に歌い上げた。
弱音の深い安定した響きから、熱のこもった分厚い強音まで、アンサンブルがとてもしなやかで響きが充実している。それに若いアンサンブルでありながら既にシューベルトのこの音楽を奏でるのにふさわしい深い音色を湛えている。第2楽章、冬枯れの情景の中でじっと耐えて春を待つ枝の中の若葉の芽の生命力がひしひしと伝わってきて感動。感情の盛り上がりや激しさを思いきって表出するダイナミックな表現では若々しいエネルギーを感じた。これは収穫!
天羽明惠(ソプラノ)/仲道郁代(ピアノ)
相田みつを美術館(シュヴィント)
【曲目】
~シューベルトの歌曲から~
「野ばら」Op.3-3 D257
「ガニュメート」Op.19-3 D544
「糸を紡ぐグレートヒェン」Op.2 D118
「グレートヒェンの祈り」D564
ズライカⅠOp.14-1 D720
ズライカⅡOp.31 D717
~ピアノソロ~
シューベルト/即興曲 変ホ長調Op.90-2 D899-2
~シューベルトの歌曲から~
「春のあこがれ」D957-3
「ます」Op.32 D550
この公演での一番のお目当てはもちろん郁代さんだけど、天羽さんもこれまでリサイタルを何度か聴いている僕にとっては注目度の高いソプラノ歌手なので、このようなサロン風の小さな空間の中、間近で聴けるのが嬉しい。
郁代さんは楽譜の音たちをいったん自分のなかで温めて、自分の言葉で語りかける。どの音にもどんなフレーズからも郁代さんの真心が感じられるのはいつものことだが、こんなに近くでそれに触れられるのは至福の喜び。天羽さんに視線を投げ掛けながら、歌とその歌詞からたくさんメッセージを感じ取りそれをその場で繊細な表現で音に乗せているのが伝わってくる。
天羽さんの歌は言葉に対する感性が敏感で、歌詞の心情、情景がフレッシュに伝わってくる。表現には柔軟性があるものの、声の色合いの変化に少々硬さを感じたのはこの部屋の響きがデッドなせいかも知れない。
「糸を紡ぐグレートヒェン」での迫真のドラマなど、聴き応えのあるミニリサイタルだったが、予定されていた「トゥーレの王」と「ミューズの子」という2曲の名曲を割愛し、曲順の入れ替えもいろいろあったりしたのはどんな事情だったのだろうか…
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008(その2)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2007
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2006
東京国際フォーラム
4年目を迎えたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの今年のテーマはシューベルト。このフェスティバルに限らず今年はシューベルトが盛んに演奏されるのでシューベルトの大きな記念イヤーかと思いきや、没後180年というのはマイナーな記念年。にもかかわらずシューベルトをこれほどいろいろ聴けるのは、歌曲を除けばシューベルト特集が組まれる演奏会は滅多にないだけに嬉しい限りです。 このフェスティバルではシューベルトのまだ知らなかった名曲にもたくさん触れることができ、そのどれもがとてもいい演奏でした。5月2日と3日の2日間で合わせて9つの有料コンサートを聴き、更に無料の野外コンサートもあってシューベルトシャワーを一身に浴びてシューベルトが凍み渡りました。そんな2日間のレポートです。 |
~5月2日(金)~
小菅 優のピアノ・ソロ
ホールB7(ショーバー)
【曲目】
1. シューベルト/幻想曲 ハ長調D605a「グラーツ」
2. シューベルト/3つのピアノ曲D946
【アンコール】
シューベルト/3つのピアノ曲~第1曲(シューベルト自身により破棄されたと思われる初稿譜より)
長年ビアノデュオをよく組んでいる同僚のさっちゃんも小菅優さんがお気に入りということで一緒に聴いた。
小菅優は一昨年のラ・フォル・ジュルネで初めて聴いていたく気に入ったピアニスト。優しく繊細なタッチで、音楽に微妙な陰影と変化に富んだ淡い色彩を与える。小菅さんは指先のミリ単位の微妙なコントロールが効いているようなデリケートな感触で自然で柔らかな歌を紡ぎ出す。水を得た魚のようなみずみずしい生命力が、正面切ってではなくシューベルトらしい控え目な表情を携えつつも息づいているところが小菅さんの演奏のすごいところ。それが演奏に深みと奥行きを加える。
優しさ、愛らしさを伝えた幻想曲、哀感をにじませた3つのピアノ曲、そしてアンコールで弾いてくれたしっとりとした前奏のついた3つのピアノ曲第1曲の初稿版、どの曲でも小菅さんのキラリとした輝きと器の大きさを感じさせ、知らない曲だったが、シューベルトの音楽の魅力を十分に堪能した。
デジェ・ラーンキとエディト・クルコンのピアノ・デュオ
ホールB7(ショーバー)
【曲目】
1. シューベルト/大ソナタ 変ロ長調D617
2. シューベルト/ロンド イ長調D951
3. シューベルト/創作主題による8つの変奏曲 変イ長調D813
こちらもさっちゃんと聴いた。もう30年以上世界の第一線で活躍しているラーンキを生で聴くのはもしかして初めてかも。
そのラーンキのprimo、クルコン(このピアニストの名前を聞くのは初めて)のsecondaで聴いたデュオは「息がぴったり合っている」なんて月並みな言葉では言い表せないほどの一体感を感じるデュオだった。二人は同じ空気を吸い、同じものを見つめ、同じ息を吐き出している。ひとつの作品を二人ではなく3人とか4人とかで演奏しているように内容が厚くて濃い。
大ソナタでの極めつきのチャーミングで活き活きした表情も、変奏曲での旅する風景や情感も、二人が交感し合って増幅され、聴き手の心に更に一歩近づいてくるという感じ。終曲のレントラー風の楽しげなリズムがそのあとまでずっと心に残っていた。
さっちゃんと近々久しぶりにピアノデュオやろうよ、なんて気分になった。
モディリアーニ弦楽四重奏団+アンリ・ドルマケット(Vc)
ホールB5(テレーゼ・グローブ)
【曲目】
◎ シューベルト/弦楽五重奏曲 ハ長調Op.163 D956
超有名アーティストの演奏をいろいろ聴ける一方で初めて名前を聞くアーティストやアンサンブルとの素敵な出逢いがあるのもラ・フォル・ジュルネの楽しみのひとつ。このモディリアーニ弦楽四重奏団もそんな出逢いとなった。
このアンサンブルはパリ音楽院の若手によって5年前に結成されたそうだが、チェロのマルケットが加わってシューベルト最晩年の名曲を深く感動的に歌い上げた。
弱音の深い安定した響きから、熱のこもった分厚い強音まで、アンサンブルがとてもしなやかで響きが充実している。それに若いアンサンブルでありながら既にシューベルトのこの音楽を奏でるのにふさわしい深い音色を湛えている。第2楽章、冬枯れの情景の中でじっと耐えて春を待つ枝の中の若葉の芽の生命力がひしひしと伝わってきて感動。感情の盛り上がりや激しさを思いきって表出するダイナミックな表現では若々しいエネルギーを感じた。これは収穫!
天羽明惠(ソプラノ)/仲道郁代(ピアノ)
相田みつを美術館(シュヴィント)
【曲目】
~シューベルトの歌曲から~
「野ばら」Op.3-3 D257
「ガニュメート」Op.19-3 D544
「糸を紡ぐグレートヒェン」Op.2 D118
「グレートヒェンの祈り」D564
ズライカⅠOp.14-1 D720
ズライカⅡOp.31 D717
~ピアノソロ~
シューベルト/即興曲 変ホ長調Op.90-2 D899-2
~シューベルトの歌曲から~
「春のあこがれ」D957-3
「ます」Op.32 D550
この公演での一番のお目当てはもちろん郁代さんだけど、天羽さんもこれまでリサイタルを何度か聴いている僕にとっては注目度の高いソプラノ歌手なので、このようなサロン風の小さな空間の中、間近で聴けるのが嬉しい。
郁代さんは楽譜の音たちをいったん自分のなかで温めて、自分の言葉で語りかける。どの音にもどんなフレーズからも郁代さんの真心が感じられるのはいつものことだが、こんなに近くでそれに触れられるのは至福の喜び。天羽さんに視線を投げ掛けながら、歌とその歌詞からたくさんメッセージを感じ取りそれをその場で繊細な表現で音に乗せているのが伝わってくる。
天羽さんの歌は言葉に対する感性が敏感で、歌詞の心情、情景がフレッシュに伝わってくる。表現には柔軟性があるものの、声の色合いの変化に少々硬さを感じたのはこの部屋の響きがデッドなせいかも知れない。
「糸を紡ぐグレートヒェン」での迫真のドラマなど、聴き応えのあるミニリサイタルだったが、予定されていた「トゥーレの王」と「ミューズの子」という2曲の名曲を割愛し、曲順の入れ替えもいろいろあったりしたのはどんな事情だったのだろうか…
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008(その2)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2007
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2006
相田みつお美術館でのコンサートにも行かれたのですね。私はチケットが取れなかったので、行けた方が羨ましいです!
天羽さんと仲道さんの公演の感想を拝見して、ますます行きたかったなあと思いました。
毎回ラ・フォル・ジュルネはたくさんの発見があってクラシックに詳しくない私でもとても楽しい音楽祭です。来年も楽しみです。
相田みつお美術館でのコンサートはアットホームな雰囲気が味わえるうえに、開演前に相田みつおさんの作品展示を眺めることができるのもいいです。響きはあまりよくありませんが、それがかえってホームコンサートのような親密さを生むという長所があります。
来年はバッハ!これは逃せませんね。またよろしくお願いします。