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『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

『銀の馬車』

2016-05-13 21:10:53 | アメリカ文学


『銀の馬車』C・アドラー作 足沢良子訳 北川健次画 【文学の扉】金の星社

またしても、隠れた名作がここに・・・!1970年代に両親の離婚をめぐる12歳の少女の心の成長を描いた物語。先日紹介した『ノーラ、12歳の秋』も同じく12歳の少女の話だったけれど、個人的にはこのアドラーの『銀の馬車』のほうが、THE☆児童文学として後世まで残ってほしいなあと思う作品でした。おばあさんの言葉遣いが丁寧なのもいい。読み応えがあって、読んだ後、心に確かな手ごたえのようなものが残る。ふわふわでない、確かな魔法が残る気がします
なのに!!!さもありなん、絶版ですってよぉ~。こういう地味な名作って絶版になりがちなんですよねえ・・・だからこそ、図書館にがんばってもらいたいわけなんですけど、図書館でも閉架で地下倉庫に眠っていたりする・・・。私自身、大人のための児童文化講座で取り上げられていなかったら手に取っていなかっただろうな、と思う一冊なので、手渡していきたい一冊です!
小学校高学年から。でも、子ども心を理解するために、やっぱり大人に読んでもらいたい一冊。


≪『銀の馬車』あらすじ≫
両親の離婚に伴い、母親が看護師の資格取得のために父方の祖母の家に預けられることになった12歳のクリスと7歳のジャッキーの姉妹。父方の祖母に会うのは初めてで、いじわるな魔法使いのおばあさんみたいだと警戒していたものの、理解あるおばあさんとバーモントの田舎暮らしの中で、クリスは次第に成長していく。楽しいことが好きで明るい父。もともとお父さんっ子だったクリスは会えない父への思いが募り、小言ばかり言う母への嫌悪が増すばかりだった。が、ある日彼女が焦がれに焦がれていた父の訪問は予想を裏切るもので、深く彼女を傷つけることとなる。やがて、嫌悪していた母が本当は愛情があるのだということに気づき、クリスは新しい生活へと心新たに旅立っていく。


正義感が強く、人のダメなところばかりが目についてしまいすぐに人を批判的に見てしまうクリス。一方、妹のジャッキーは構ってもらいたがり屋だけれど無邪気で嫌味がないのでみなから好かれるタイプ。
ああああ、よくある構図。兄弟姉妹に抱く複雑な思い、誰でも共感できるところがあるのではないでしょうか!?せっかくおばあさんに認められてさわやかな気持ちになったところに、妹がたった一握りの花を差し出すことによって、「やさしい子」と言われ、おばあさんを勝ち取っていく。その時の裏切られた感・・・!
うちの長男もこんな感じだわー。うちのはボキャブラリーが少ないから、ついつい単純な暴言に集約されて暴れるけれど、長男の内面もクリスよろしく複雑だし、そんな自分への嫌悪感が渦巻いているんだろうなあ、と思うとちょっと泣けてきます

小言ばかり言ってイライラしてるお母さんの描写には、わが身を振り返ってハッとさせられます。以前ね、ある教育者の方が「みなさん人格を否定しない言い方、穏やかな注意ならいいと思ってるでしょ?でも、それは前者がノックダウンで後者がジャブなだけで、ジャブだって続ければ最後は結果倒れるんです、結末は同じなんですよ」と言ってたことを思い出しました。いかに小言が子どもたちを追い詰めていっていることか・・・。反省ひとしきりです

ところで、この物語、『ノーラ・・・』と同じく、苦しい胸のうちが描かれているのに、こちらのほうが確かな希望を抱けるのは、理解のある素敵な大人(ウォーレスおばあちゃん)とバーモントの自然があるから
ブラックベリーを摘んでジャムにしたり、にんじんパンにナッツブレッドを焼いたり(ん~、美味しそうっ)・・・そこにね、手を動かし身体を動かす、生きた生活があるのって、救いがあるんです。これぞまさに人間関係だけに終わってないから息苦しさが半減。ノーラは都会だから、養老孟司さんのいうところの人間関係しかなくて苦しかったんです。

そしてね、何よりもこのウォーレスおばあちゃんの距離の取り方が、んもうねっ素晴らしい。こういう人を「大人(mature)」というんでしょう。客観的に冷静に人や物事を見据えることができ、かつ自分の気持ちにも正直で、クリスにも一人の大人としてきちんと向かい合っている。息子(クリスたちの父親)の欠点も冷静に見ていて、お嫁さんが実は内気で小言は言っても子どもたちへの確かな愛情があるのはお嫁さんのほうだ、ということに最初から気づいてるのもこのおばあちゃん。こういう風に歳を取りたい!!!
やっぱり児童文学には「かくありたい」と思わせてくれるような人物との出会いがほしいんだなあ
ちょっとファンタジーめいたところ(銀の馬車)は出てくるものの、とても現実的なのでファンタジーが苦手な子にもおすすめ。
地に足のついた静かな感動のある物語でした

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