土佐っぽ

四国は土佐国のもんが、日々の中で思いゆう事や、得手勝手な考えを書きよります。どうぞよろしく。

小林多喜二の死因

2008年05月25日 22時47分12秒 | Weblog
「蟹工船」再脚光…格差嘆き若者共感、増刷で売り上げ5倍


(安田博士の指揮のもとに、いよいよ遺体の検診がはじまる。すごいほど青ざめた顔は、はげしい苦しみの跡をきざんで筋肉のでこぼこがひどい。頬がげっそりとこけて眼球がおちくぼみ、ふだんの小林よりも十歳ぐらいもふけて見える。左のコメカミにはこんにちの十円硬貨ほどの大きさの打撲傷を中心に五六ヵ所も傷がある。それがどれも赤黒く皮下出血をにじませている。おそらくはバットかなにかでなぐられた跡であろうか。
首にはひとまきぐるりと細引きの跡がある。よほどの力でしめたらしく、くっきりと深い溝になっている。そこにも皮下出血が赤黒く細い線を引いている。両方の手首にもやはり縄の跡がふかくくいこみ赤黒く血がにじんでいる。だが、こんなものはからだのほかの部分にくらべるとたいしたものではなかった。帯をとき着物をひろげてズボン下をぬがせたとき、小林多喜二にとってどの傷よりもいちばんものすごい死の「原因」を発見したわれわれは、思わずわっと声を出していっせいに顔をそむける、
「みなさん、これです。これです。岩田義道君とおなじです。」
安田博士がたちまち沈痛きわまる声でいう。前の年に警視庁の拷問室で鈴木警部に虐殺された党中央委員岩田義道の遺体を検診した安田博士は、そのときの残忍きわまる拷問の傷跡を思いだしたからである。
小林多喜二の遺体もなんというものすごい有様であろうか。毛糸の腹巻になかば隠されている下腹部から両脚の膝がしらにかけて、下っ腹といわず、ももといわず、尻といわずどこもかしこも、まるで墨とべにがらとをいっしょにまぜてねりつぶしたような、なんともいえないほどのものすごい色で一面染まっている。そのうえ、よほど大量の内出血があるとみえももの皮がぱっちりと、いまにも破れそうにふくれあがっている。そのふとさは普通の人間の二倍くらいもある。さらに赤黒い内出血は、陰茎から睾丸にまで流れこんだとみえて、このふたつの物がびっくりするほど異常に大きくふくれあがっている。
電燈の光でよく見ると、これはまたなんということだろう。赤黒くふくれあがったももの上には、左右両方とも釘か錐かを打ちこんだらしい穴の跡が十五、六ヵ所もあって、そこだけは皮がやぶれて下から肉がじかにむきだになっている。その円い肉の頭がこれまたアテナ・インキそのままの青黒さで、ほかの赤黒い皮膚の表面からきわ立って浮きだしている。
「こうまで徹底的にやられたんでは死ぬのはあたりまえだよ、これじゃキンタマだって何べん蹴られたかわかるもんか」
「だが、さすがに小林だよ。こんなむちゃくちゃにやられるまで、よくもがんばりとおしたものだ」みんなは深いため息といっしょにこんな言葉をかわすうちにも遺体の検診はさらに進む。
ももからさらに脛を調べる。両方の向こう脛にも四角な棒かなにかでやられたのか、削りとられたような傷跡がいくつもある。それよりはるかに痛烈な痛みをわれわれの胸に刻みつけたのは右の人さし指の骨折である。ひさし指を反対の方向へまげると、指の背中が自由に手の甲にくっつくのだ。人さし指を逆ににぎって力いっぱいへし折ったのだ。このことだけでもそのときの拷問がどんなにものすごいものであったかがわかるではないか。
さらにシャツもズボン下もぬがせた丸裸でうつ向けにすると、背中も一面の皮下出血だ。ももや下っ腹ほどにひどくはないが、やはりふんだり蹴ったりした傷跡でいっぱいだ。ここには死斑も出ている。死斑にはありありと蓆の跡が見える。殺したあと、そうとうの時間を丸裸のまま蓆の上に寝かしておいたものとみえる。上歯も左の門歯が一本ぐらぐらとなってやっとぶら下がっているという状態である。
「こうまでやられたんでは、むろん腸も破れているでしょうし、膀胱だってどうなっているかわかりませんよ。解剖したら腹のなかは出血でいっぱいでしょう。」
と安田博士が説明する。きのうの五時とかに死んだというのに、死臭がぷうんと鼻をうつ。内臓を破られたための大量の内出血がすでに腹のなかで腐敗しはじめたのだ。

『別冊新評 作家の死』 1972年 新評社より


多喜二が、この「蟹工船」を命をかけて書いたのは、
どうか、こんなことが未来には無いように、、
との、壮絶な祈りから。

しかし、
まさか、戦後の、
世界に誇れる日本国憲法の、、
この時代にあって、
もしも、彼がこの事実を知ったなら、
やっぱり、命をかけて、
権力と戦うだろう。

基本的人権の尊重と、
国民主権を基調とした、、
日本国憲法の理想も、
何も、、、
まだまだ、、
なんだと、、

すべては教育の成果か、、、

しかし、、、
力不足を、、、だ。

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