スイスの氷河特急に乗って終点のツェルマットで降り、そこからロープウェイで登ったイタリアとの国境近くから間近に見えたマッターホルン、遥か向こうにはモンブラン。インターラーケンから登山鉄道に乗り継ぎ、アイガー、メンヒを貫くトンネルを抜けて到着したユングフラウの山頂。スイス訪問の折に体感した雄大で過酷なアルプスの山々の脅威。そしてそれらに挑む人々の崇高な精神。そういったものを全て蹴散らして、失笑・苦笑の渦に巻き込んでしまうのがプレイステーションの「ロッククライミング 未踏峰への挑戦 アルプス編」です。
クソゲー・バカゲーマニアには有名な作品ですが、その全貌を知っている人はあまり多くないのではないかと考えられます。
解説書表紙には「すべての大人を熱中させる、シミュレーション・ゲームの新ジャンル」「常識やぶりに夢中になろう」と、ものすごく自信に満ちた文章が書いてあります。その意気やよし。あとは結果が伴えば文句の付けどころがありません。常識をやぶっていることについては逆の方向性で賛成しますが。
ディスクを入れてプレステの電源を入れると、頭が開いて目玉が飛び出すロゴマーク。そのブランド名は「NET YOU」と書いて「熱中」と読みます。そしてタイトル画面ではアルプス一万尺のようなノーテンキな音楽がプレイヤーの腰を粉々に砕いてきます。
クライマーを操作して登山の中からロッククライミングの部分をプレイできるのが本作の売りであり、手がかりとなる岩に両手両足それぞれをホールドするという独自のシステムを持っています。両手両足それぞれにどれほどの体重がかかっているかを常に計算しているようです。ただし厳密ではないようで、岩場の上に片足だけで立って横に大きく倒れるとか、何かを威嚇するように両腕を広げながら両足だけで垂直に近い絶壁をわしわし登るとか、ありえない動きをしたり珍ポーズを決めたりするのが本作の楽しみ方として定着しています。
各手足はある程度自動的にホールドできる位置に動こうとするのですが、その感知範囲が広いため、届きもしない岩場に向かって手足を延ばしてプルプルと震えてしまっています。プレイしていて失笑がこぼれてしまうのですが、この姿は何かの諧謔でしょうか。
岩場もなんだか立体感とリアリティーの乏しい作りです。通常の岩場は人工的なトレーニング用のものにしか見えず、尾根の稜線も酷くて魚の骨を登っているようです。もうちょっとましな絵にはならなかったのでしょうか。
音楽もメニュー画面等でしか鳴らず、ゲーム画面では吹きすさぶ風の音しか聞こえません。しかも何かメッセージが表示されると、その風の音さえも止まってしまうという心細さ。頼むから何でもいいから鳴らしていただきたい。
ロッククライミングのステージ間は移動イベントになっています。かなりの確率で吹雪や雪崩に巻き込まれることになり、登山計画は狂いがちです。ひどい例だとステージ1に到着する前にクレバスに落ちて遭難してしまったこともありました。何しに行ったんだよ…。
後半ではプレイも面倒くさくなっています。オーバーハングでは足場を作るためにハーケン(くさびのようなもの)を壁面に打ち込み、カラビナ(フックのようなもの)をかけ、あぶみ(はしごのようなもの)をつり下げる必要があります。ハーケンは回収せねばならず、コマンドをちまちまと選ぶのが非常に煩わしいです。
上の画像ではどうやってぶら下がっているのでしょうね。まるでやる気の無い「ストライダー飛竜」のようです。
ある場所で壁面に開いた洞窟に入ってみると、その奥には力尽きた先人クライマーの遺体が…。悼みの言葉でもかけるイベントでもあるのかと思って近づいてみると、「ハーケン30本を手に入れた」とのメッセージ。世知辛ぇ…。
このゲームではハーケンは貴重です。途中でハーケンの打ち込みに失敗して飛ばしたり潰したりすることが意外と多く、山頂直前にありながらハーケンが無いためにオーバーハングを越えられず登頂に断念したこともありました。かといってハーケンを多めに持って行くことが自由にできないのです。登山計画ではハーケンの推定必要数が30本とか表示されているくせに、通常のスケジュールを組んでしまうと食料とのトレードオフになり10本しか持って行くことができなくなることが多いです。困ったもんだ…。
途中には上のような風景も…。達人ボムかよ!
それぞれのルートをクリアするとこの画面になって、今の気分を選ばされます。「じわじわと喜びが」を選ぶとベートーベンの第九(歓喜の歌)が流れます。「とても爽快な気分」を選ぶと何だかわかりませんが祭り囃子が流れます。これがまたタイトル画面のアルプス一万尺もどき以上のウエスト・クラッシャー(腰砕けをもたらすもの)になっているので必聴です。「疲れました」を選ぶと10秒間の沈黙の後にシューベルトの子守唄が流れ、しばらくすると何故かいびきの音に変わります。全く意味のない選択肢です。
いろいろと書いてきましたが、このゲームで最もしょうもない部分は実は別にあるのです。何が一番しょうもないかというと、ステージの構成が単なる正解ルート当ての運試しということなのです。体力・腕力・テクニックの上昇によって攻略ルートが開拓されるわけでもなく、ただ単にこっち行けば当たり、違う方に行けばハズレ(最悪の場合は遭難)という、極めて底の浅いゲーム性になっているのです。だから難しくはないけれど、とにかく煩わしいという印象が拭えません。クライマーの重心の位置のわかりづらさによる操作性の悪さも煩わしさに拍車をかけています。
まあそれでもプレイしていれば誰でもクリアはできるでしょう。このゲームでは5つの峰の13のルートを踏破するとエンディングになります(以下ネタばれだが、別にばれても誰も損しないと…)。
最後のルートで山頂に到達するといつもの無意味な選択肢の後にスタッフロールが流れます。音楽はショパンの「別れの曲」。それが終わるとムービーが始まります。アルプス山麓のホテルのオープンカフェとおぼしき場所で誰かを待っているような女性。その頃、アルプスの絶壁には切れたロープがハーケンにかかっています。はるか崖下にはクライマーの遺体が…。文字通りのオチでした。そして目玉が飛び出すNET YOUロゴからタイトル画面へ。
悲劇で終わるのは別にいいんですよ。これが「すべての大人を熱中させる」シナリオだというなら受けとめましょう。けれども、全てのルートをクリアしたという記録をメモリーカードに残させない仕様に納得がいかないのです。セーブデータは永遠に山頂直前の状態のままです。なんともスッキリしません。ちなみにいきなりエンディングを見る隠しコマンドあり。
我がクリア直前データ。私が設定したクライマーの名前はもちろん「コンバット越前」に由来しており、クソゲーブーム時にプレイしていたことが伺えます。それにしても「えちぜん」ではなくて「えちせ゛ん」となっています。ファミコン時代じゃあるまいし…。
さて散々笑いをこらえながら、ようやく本日クリアしました。先日に生駒山地に行ったことをきっかけに久々にプレイしたのでした。山道で転んで腕を怪我した時は嫁に呆れられてしまいましたが、その後この「未踏峰への挑戦」をプレイしていると、「ついにゲームでまで登山するようになった…」とさらに呆れられました。絶壁でのあり得ない体勢やプルプルしている手足を見て、駄目押しのように呆れていましたが。嫁も面白がって見ているので、早く続編出してください!
YouTubeでのプレイ動画。もういろいろとサブいですね。
クソゲー・バカゲーマニアには有名な作品ですが、その全貌を知っている人はあまり多くないのではないかと考えられます。
解説書表紙には「すべての大人を熱中させる、シミュレーション・ゲームの新ジャンル」「常識やぶりに夢中になろう」と、ものすごく自信に満ちた文章が書いてあります。その意気やよし。あとは結果が伴えば文句の付けどころがありません。常識をやぶっていることについては逆の方向性で賛成しますが。
ディスクを入れてプレステの電源を入れると、頭が開いて目玉が飛び出すロゴマーク。そのブランド名は「NET YOU」と書いて「熱中」と読みます。そしてタイトル画面ではアルプス一万尺のようなノーテンキな音楽がプレイヤーの腰を粉々に砕いてきます。
クライマーを操作して登山の中からロッククライミングの部分をプレイできるのが本作の売りであり、手がかりとなる岩に両手両足それぞれをホールドするという独自のシステムを持っています。両手両足それぞれにどれほどの体重がかかっているかを常に計算しているようです。ただし厳密ではないようで、岩場の上に片足だけで立って横に大きく倒れるとか、何かを威嚇するように両腕を広げながら両足だけで垂直に近い絶壁をわしわし登るとか、ありえない動きをしたり珍ポーズを決めたりするのが本作の楽しみ方として定着しています。
各手足はある程度自動的にホールドできる位置に動こうとするのですが、その感知範囲が広いため、届きもしない岩場に向かって手足を延ばしてプルプルと震えてしまっています。プレイしていて失笑がこぼれてしまうのですが、この姿は何かの諧謔でしょうか。
岩場もなんだか立体感とリアリティーの乏しい作りです。通常の岩場は人工的なトレーニング用のものにしか見えず、尾根の稜線も酷くて魚の骨を登っているようです。もうちょっとましな絵にはならなかったのでしょうか。
音楽もメニュー画面等でしか鳴らず、ゲーム画面では吹きすさぶ風の音しか聞こえません。しかも何かメッセージが表示されると、その風の音さえも止まってしまうという心細さ。頼むから何でもいいから鳴らしていただきたい。
ロッククライミングのステージ間は移動イベントになっています。かなりの確率で吹雪や雪崩に巻き込まれることになり、登山計画は狂いがちです。ひどい例だとステージ1に到着する前にクレバスに落ちて遭難してしまったこともありました。何しに行ったんだよ…。
後半ではプレイも面倒くさくなっています。オーバーハングでは足場を作るためにハーケン(くさびのようなもの)を壁面に打ち込み、カラビナ(フックのようなもの)をかけ、あぶみ(はしごのようなもの)をつり下げる必要があります。ハーケンは回収せねばならず、コマンドをちまちまと選ぶのが非常に煩わしいです。
上の画像ではどうやってぶら下がっているのでしょうね。まるでやる気の無い「ストライダー飛竜」のようです。
ある場所で壁面に開いた洞窟に入ってみると、その奥には力尽きた先人クライマーの遺体が…。悼みの言葉でもかけるイベントでもあるのかと思って近づいてみると、「ハーケン30本を手に入れた」とのメッセージ。世知辛ぇ…。
このゲームではハーケンは貴重です。途中でハーケンの打ち込みに失敗して飛ばしたり潰したりすることが意外と多く、山頂直前にありながらハーケンが無いためにオーバーハングを越えられず登頂に断念したこともありました。かといってハーケンを多めに持って行くことが自由にできないのです。登山計画ではハーケンの推定必要数が30本とか表示されているくせに、通常のスケジュールを組んでしまうと食料とのトレードオフになり10本しか持って行くことができなくなることが多いです。困ったもんだ…。
途中には上のような風景も…。達人ボムかよ!
それぞれのルートをクリアするとこの画面になって、今の気分を選ばされます。「じわじわと喜びが」を選ぶとベートーベンの第九(歓喜の歌)が流れます。「とても爽快な気分」を選ぶと何だかわかりませんが祭り囃子が流れます。これがまたタイトル画面のアルプス一万尺もどき以上のウエスト・クラッシャー(腰砕けをもたらすもの)になっているので必聴です。「疲れました」を選ぶと10秒間の沈黙の後にシューベルトの子守唄が流れ、しばらくすると何故かいびきの音に変わります。全く意味のない選択肢です。
いろいろと書いてきましたが、このゲームで最もしょうもない部分は実は別にあるのです。何が一番しょうもないかというと、ステージの構成が単なる正解ルート当ての運試しということなのです。体力・腕力・テクニックの上昇によって攻略ルートが開拓されるわけでもなく、ただ単にこっち行けば当たり、違う方に行けばハズレ(最悪の場合は遭難)という、極めて底の浅いゲーム性になっているのです。だから難しくはないけれど、とにかく煩わしいという印象が拭えません。クライマーの重心の位置のわかりづらさによる操作性の悪さも煩わしさに拍車をかけています。
まあそれでもプレイしていれば誰でもクリアはできるでしょう。このゲームでは5つの峰の13のルートを踏破するとエンディングになります(以下ネタばれだが、別にばれても誰も損しないと…)。
最後のルートで山頂に到達するといつもの無意味な選択肢の後にスタッフロールが流れます。音楽はショパンの「別れの曲」。それが終わるとムービーが始まります。アルプス山麓のホテルのオープンカフェとおぼしき場所で誰かを待っているような女性。その頃、アルプスの絶壁には切れたロープがハーケンにかかっています。はるか崖下にはクライマーの遺体が…。文字通りのオチでした。そして目玉が飛び出すNET YOUロゴからタイトル画面へ。
悲劇で終わるのは別にいいんですよ。これが「すべての大人を熱中させる」シナリオだというなら受けとめましょう。けれども、全てのルートをクリアしたという記録をメモリーカードに残させない仕様に納得がいかないのです。セーブデータは永遠に山頂直前の状態のままです。なんともスッキリしません。ちなみにいきなりエンディングを見る隠しコマンドあり。
我がクリア直前データ。私が設定したクライマーの名前はもちろん「コンバット越前」に由来しており、クソゲーブーム時にプレイしていたことが伺えます。それにしても「えちぜん」ではなくて「えちせ゛ん」となっています。ファミコン時代じゃあるまいし…。
さて散々笑いをこらえながら、ようやく本日クリアしました。先日に生駒山地に行ったことをきっかけに久々にプレイしたのでした。山道で転んで腕を怪我した時は嫁に呆れられてしまいましたが、その後この「未踏峰への挑戦」をプレイしていると、「ついにゲームでまで登山するようになった…」とさらに呆れられました。絶壁でのあり得ない体勢やプルプルしている手足を見て、駄目押しのように呆れていましたが。嫁も面白がって見ているので、早く続編出してください!
YouTubeでのプレイ動画。もういろいろとサブいですね。
ttp://www.foddy.net/Athletics.html
台風が今日18:00頃首都圏直撃するそうな。おかげで会社は早じまい。早々に帰宅してここに書き込んでるって寸法よ!
台風はもう首都圏を過ぎた頃でしょうか。お気をつけ下さい。
コンバット越前には大きな影響を与えていただきまして、当時は週に3回は焼きビーフンを食べていました。あれはおいしいですね。
作ってるプログラマーにゲーム内容を聞いた時に「それって・・・面白いのかなぁ・・・」と思ったのは内緒です。
今ならニンテンドーDSで、タッチペンを使用した感じで妙にリアリティーのある登山感覚が期待できるかもしれません。ぜひどこかで続編を具体化して欲しい気がしますね。
タッチペン利用もいいアイデアですね。クライミング中の手元や足場のチェック、あるいはハーケンを打ち込む時にタッチペンを使うのは雰囲気がありそうです。ぜひ「ヒマラヤ編」で実現して欲しいですね。
私はパソコンソフトの開発だったので、プレステチームの開発は後ろから見ているだけでしたので、仕様とかをがっつりと把握していたわけではなく、簡単なゲーム内容を聞いた時に、山昇りのゲームって単調過ぎじゃないかなぁ・・・面白いのかなぁ・・・と思っただけです(笑)
私が見た時はまだ制作開始したばかりで、まだ人などは出ておらず、斜面を視点が移動出来るだけでした。
続編は・・・10年くらい前に元同僚にばったりあったのですが、会社を縮小したと言っていました。
なので続編は期待出来ないと思われます。
続編が出る可能性が低いのは覚悟しておりましたが、制作会社の方にきっぱり言われるとさすがに残念です。プレイステーションの時期にあった制作会社は、現在では随分減っているのでしょうか。
この記事に限らず、ゲーム制作の現場での裏話などございましたら(差し支えない範囲で)今後もお話しいただけると大変嬉しく存じます。