アーロン・コープランド:
・アパラチアの春(1945年組曲版)
イーゴリ・ストラヴィンスキー
・ミューズの神を率いるアポロ
指揮:アンタル・ドラティ
デトロイト交響楽団
DECCA: 414 457-2
私が高校生のある時、部活の朝練に出て、その後はダルくなって家に帰って寝るというフリーダムな一日を過ごしていました。その時にラジオから流れていたのがコープランドの「アパラチアの春」でした。それを聴いて気に入ってしまい、すぐさまCDを買いに走ったのです。
ではこの曲がどれほど素晴らしいかというと、はっきり言って軽くてインチキ臭いのです。アメリカ人のコープランドの作品に対してそのように感じる人は多いようです。アメリカには歴史がなく、代わりにあるのは大量消費の商業主義であり、そういったものがコープランドの作品から漂ってくるからでしょう。
この「アパラチアの春」も曲想は明快で軽いのですが、取って付けたような変拍子などの現代音楽的要素が妙に浮いていて、そこらへんの陳腐寸前のギリギリのラインこそコープランドが目指した「アメリカ的な音楽」なのかもしれません。
もとはバレエ音楽で、田舎町の結婚式の様子を描写したもの。それを緩-急-緩-急-急-緩-急-緩という対称的な構成の8曲からなる組曲にアレンジしていて、連続して演奏されます。
このディスクの演奏ではコープランドの音楽のインチキ臭い側面を強調するためか、あまり入れ込まずにスカッとダンサブルなものになっています。初めてラジオで聴いたのがこのドラティの演奏だったかどうかは憶えていませんが、このような個人の感情のようなものを一切排除したような音楽作品(または演奏)を私は好んでいます。
こちらはバーンスタインの演奏の4曲目で、のどかな風景を想起させる踊りの音楽。ドラティのよりはノリノリの派手な鳴らし方をしています。打楽器とピアノが低音を支える2:11からの軽薄な感じの変拍子フレーズがお気に入り。
続く5曲目もスピーディーでリズミカルなダンス。ちょっと聴いた感じよりは複雑な作りの音楽のようです。実際はここに限らず全体的にそうなんですが、そのあたりを分析的に聴くのがコープランド作品のマニアックな楽しみ方かも。
カップリングの「ミューズの神を率いるアポロ」はストラヴィンスキーの新古典主義音楽の記念碑的作品。新古典主義とは肥大化したロマン派音楽の反動や第一次世界大戦が及ぼす経済的影響などの要因によって、シンプルで明快な構成を中心に置くスタイルです。そこには各作曲家のヴィジョンや技法を搭載することが容易だったために広く普及したスタイルだと思われますが、以前も書いたようにストラヴィンスキーの場合は音楽のルールの裏をかいたような作り方をしています。あるべき要素を削ったり、入れ替えたり、変なモノをくっつけたり、まるで音楽の骨格標本をいじくって遊んでいるように聴こえます。そういう醒めた視点が最大の魅力。
「アポロ」は弦楽合奏のバレエ音楽で、様式感を非常に強く持っています。ところがその様式的な弦楽から優美さを意図的に排除したため、カピカピに乾いたミイラのような印象。アポロ的なのもほどほどにしろう!と言いたくなるようなマニアックな作品です。
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