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アメリカ人ストラヴィンスキー THE COMPOSER, VOLUME IV

2013-06-17 22:09:01 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・祝賀会前奏曲
・星条旗
・ダンバートン・オークス協奏曲 変ホ長調
・15奏者のための8つのミニアチュア
・若い象のためのサーカス・ポルカ
・ロシア風スケルツォ
・バレエの情景
・バランシン-ストラヴィンスキーコラール
・バレエ音楽「アゴン」
・バッハのクリスマスの歌「高き天よりわれは来れり」によるコラール変奏曲の編曲

指揮:ロバート・クラフト
聖ルカ管弦楽団
グレッグ・スミス合唱団(合唱指揮:グレッグ・スミス)

MusicMasters: 0612-67113-2



 1882年の今日6月17日はストラヴィンスキーの誕生日です(ちなみに命日は4月6日でした)。というわけで、まずはこのディスクの冒頭にも収録されている「祝賀会前奏曲」の動画。これはストラヴィンスキーが指揮者のピエール・モントゥーの80歳の誕生日のために作ったもので、「Happy birthday to you」のメロディーが使われています。



 さて、ストラヴィンスキーは1939年に戦渦を避けるためにアメリカに亡命したのですが、そのために祖国ロシアやヨーロッパで出版された楽譜の収入が入らなくなってしまいました。そこでアメリカでのストラヴィンスキーは始めのうち色々な作曲の仕事をして小金を稼いでいたようです。それらのうちの幾つかの問題作がこのディスクに収録されています。

 2曲目の「星条旗」はもちろんアメリカ国歌のことですが、彼はそれを勝手に編曲して、「このバージョンで演奏されるように国会で法文化されれば儲かりまっせ!」みたいな手紙を添えて出版社に送りつけたそうです。もっとも当時のアメリカは国歌に対して改変を行うと罰せられたとのことで、このかどでストラヴィンスキーは警察から厳重注意を受けたそうです(逮捕されたとの説も)。自国・他国問わず、国歌や国旗は大切に扱わないといけませんね。

 もう一つの問題作として「若い象のためのサーカス・ポルカ」があげられます。これはサーカス団の象のために作曲されたものですが、これを聴いた象が暴れ出したという話もあります。曲の終盤でシューベルトの「軍隊行進曲」がパロディ的に引用されており、調子っぱずれの音楽に笑ってしまいます。



 上の動画では3分05秒からがパロディ部分。

 ストラヴィンスキーはカリフォルニア州ハリウッドのビバリーヒルズに住んでいましたが、同じくビバリーヒルズにはシェーンベルクという作曲家も亡命して住んでいました。ところが二人はまったく交流がなかったそうです。両者とも20世紀をリードした作曲家ですが、その作風は大きく異なっており、終生のライバル同士と言われていました。当時のストラヴィンスキーは新古典主義で、調性(いわば「ドレミファソラシド」)が明確で非常に乾いた音楽が特徴です。一方シェーンベルクは1オクターブの12の音をいずれも等しく使った十二音主義の音楽の開祖で、しかもドイツ音楽特有の内省的なジメジメしたものも受け継いでいました。

 ライバルのシェーンベルクが亡くなった後、ストラヴィンスキーがバレエ音楽「アゴン」(このディスクの9曲目)をこれまでの作風で作曲していたのですが、しばし中断していました。その後ストラヴィンスキーは今まで見向きもしなかった十二音音楽を取り入れて「アゴン」を作り上げてしまったのでした。なんと無節操な! 本当はよっぽど気になってしょうがなかったのでしょう。ただ、ストラヴィンスキーの音楽理念として「音楽を厳格なルールの中で構成する」というものがあったわけで、それが「ドレミファソラシド」から十二音に拡張されただけだとも言えます。シェーンベルクの死によって十二音音楽は音楽史において伝統の一つとして刻まれ、ルールに則るだけの価値があると判断したのかも知れません。



 上の動画は「アゴン」の1曲目。こちらはドレミが明確な新古典主義音楽ですが…。



 こちらは2~3曲目で十二音主義部分です。確かにこれまでの彼の音楽とは異なり、中心的な音程がない音楽になっています。ところがそうであっても音楽の構築力はそのままで、湿っぽいドイツロマン派の精神を引き継ぐ事なく技法だけを消化して自分のものにしているのが凄いところです。彼は何度も作風を転換していることから「カメレオン」と揶揄されましたが、根底のスタイルは何も変わっていないということがよくわかる作品の一つです。

 このディスクの指揮はアメリカでストラヴィンスキーの弟子になったロバート・クラフトですが、彼が十二音音楽に興味を示した事もストラヴィンスキーにとって強い印象があったようです。


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