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日野日出志「まだらの卵」

2013-03-21 21:16:21 | 日野日出志


 ひばりヒットコミックスの通し番号第1番はこの「まだらの卵」です。表題作以外に「ウロコのない魚」「セミの森」「マネキンの部屋」「地獄へのエレベーター」「がま」「ともだち」「おかしな宿」が収録されている短編集。いずれも昭和の雰囲気を濃厚にかもしてますが、非常に後味が悪い(つまりホラーとして切れのよい)作品ばかりです。それにしても構図と色使いのバランスが素晴らしい表紙絵です。卵や顔の塗りだけでなく、木目やシャツのチェック柄でさえも禍々しいものを感じます。

 標題作「まだらの卵」は「ホラー自選集」からはもれていますが、代表作の一つとも言えるかもしれません。



 少年の住んでいる町は工場地帯にあり、環境破壊がかなり進んでいるようです。大量のゴミが漂うドブ川でイカダに乗って遊ぶのが日課でした。こういったシチュエーションは「地獄の子守唄」「ウロコのない魚」などと通じています。主人公の少年は内気であったり狂気にとらわれたりはしていませんので、顔の絵柄はすっきりしたものになっています。



 ところが少年は非常にまっとうなのに対し、町の毒素のせいなのか家族は通常ではありません。少年は両親と祖父、祖母と暮らしていますが、父は工場勤めで酒浸り、母は謎の病気で二階に隔離されて顔を見ることもできない状態、祖母はそんな母を一人で看病し、祖父は事故で頭がおかしくなってしまっていたのでした。祖母の厳しい顔つきと祖父の正気をなくした表情が対照的です。日野日出志画にしばしば出てくる首つり人形も現れています。

 ある日、少年はドブ川でまだらの卵を発見し、家に持ち帰って孵化させようと大切に扱います。ところがペットの動物たちはその卵に非常に警戒をしているようです。しばらくの後、学校から帰ってみると卵は孵化しており、中の生物はちょうどドブ川に入ってしまったところでした。

 そしてその夜、ペットの犬の鳴き声で目を覚まし表に出てみると、犬は全身の血を何者かに吸われていました。その間に家の中ではペットや家族が血を吸われ、ミイラのようになっていました。どうやらまだらの卵から生まれた怪物の仕業のようです。そいつに襲われた母親がギシギシと階段を下りてきて倒れ込み、少年は初めて母親の顔を見るのでした。家族を皆殺しにした怪物が階段を下りてきたのを感じ、少年は部屋に逃げ込んでドアを塞ぎます。けれどもバリケードは怪物によって破られてしまい…。



 整っていたはずの少年の顔も徐々に歪んできています。その後、怪物はドブ川で無数のまだらの卵を生み落とすのでした。

 この「まだらの卵」ですが、怪物の姿は最後まで描かれません。家族がどのように殺されるかも描かれません。病気の母親の顔も描かれません。異常な家族についても描かれません。町の自然破壊が原因であるとも語られていません。見えない敵、見えない病魔、見えない因果関係と、なにもわからないまま恐怖だけが描かれます。加害者が明らかなだけ「ウロコのない魚」より直感的にはわかりやすいのですが、それでもバックグラウンドが何も描かれないためにモヤモヤが強く残るのです。なんとなく、低予算を逆手にとって前衛的な表現を目指した映画のような雰囲気もあります。

 グロテスクな描写が他の作品と比較して少なめですが、読んだ後味の悪さは日野日出志作品の中でも屈指のものだと感じます。グロ抜きでのホラーを意図した作品なのかもしれませんが、ベースとなる絵柄そのものがグロテスクであるため、日野日出志作品としての物足りなさはありません。むしろ、少年の顔そのものが強い印象となって残るという不思議な作品です。


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