日野日出志「ホラー自選集」の第18話は「赤い蛇」です。以前にも書きましたが、日野日出志が漫画家人生をかけて「これらがダメだったら漫画家をやめる」と決心して描いたのが「地獄変」とこの「赤い蛇」だそうです。上の写真は絶大なインパクトの表紙。話の内容も、ほぼこの絵の通りと言ってもいい程の見事な絵です。
冒頭からこの重厚な空間表現! 日本家屋ではありますが、洋館ホラーに通じるような導入部です。主人公の少年は巨大な屋敷に住んでいますが、その屋敷に恐怖を感じており、何度逃げ出してみても常にもとの場所に戻ってしまうのでした。
その屋敷には無数の部屋があるのですが、使われているのはごく一部の部屋で、それ以外の部屋に繋がる廊下は鏡で封印されていました。そしてその封印の向うのずっと奥には「あかずの間」があると言われているのでした。そして誰かが「あかずの間」を見ると、家族に恐ろしい事が起るとの言い伝えがあったのでした。
屋敷に対する恐怖もさることながら、少年は5人の家族にも恐怖を感じていました。全員が何かしら奇行を繰り返しており、それは正気の沙汰ではなかったのでした。
ある夜、少年が寝ていると、夢の中で誰が呼んでいます。そして夢の中で幽体離脱をして封印の鏡を通り抜け、ついに「あかずの間」を目の当たりにしてしまいます。そして目が覚めると、封印の鏡が割れていたのです! それ以来、家族には恐ろしい事が起り続けたのです…。
この先は理屈も何もない狂気と幻想の展開。あえて解説はつけませんが、じっくりご覧下さい。
そして少年はいつの間にか「あかずの間」の目の前にいて、そこで赤い蛇に捕われてしまいます。
少年が「あかずの間」の中に見たものは何だったのか、少年がこれまでに見てきたものはなんだったのか、全ての謎が残ったままで変わらない日常が繰り返されるのでした。
狂気と幻想、脈絡のない猟奇的な描写、血に彩られたエロティシズム等、見所はたくさんあります。また何よりも、後味の悪い読後感がこの作品の恐怖を増幅しています。ひたすら不条理でストーリーも何もありませんが、絵は見事に描き込まれており、構図も考え抜かれ、人物の動きを感じさせるものになっています。日野日出志作品の中で「極限」の一つであると私は感じています。
日野日出志作品紹介のインデックス
漫画家を辞める事まで覚悟していた…という話を聞いた上で見てみると、表紙に描かれた様々な気味の悪い物が詰まった人形こそ、作者自身を表しているのではないかと思えてきますね。
何時か読まなければならない作品が、又1つ増えました。
「ねじ式」も好きな作品です。こちらは始めから夢であることがほぼ自明で、それがアーティスティックな雰囲気を濃厚にしていますね。つげ義春作品では冒頭から夢であることを示している作品がいくつもあるのが興味深いです。
不気味で不条理な表紙絵も作者渾身の作でしょうね。しかもこれだけデタラメな絵でありながらも、整った構図と目を引く配色を持っており、細部まで作り込まれた狂気を感じます。日野日出志作品の中で最も好きな表紙絵です。漫研さまにも作品を手に取る機会があることを願っております。