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オルフ:カトゥーリ・カルミナ、アフロディテの勝利

2013-11-15 20:48:57 | CD


カール・オルフ:
・カトゥーリ・カルミナ
・アフロディテの勝利

指揮:フランツ・ウェルザー=メスト
バイエルン放送交響合唱団

EMIミュージック・ジャパン: TOCE8783



 オルフはドイツの作曲家ですが、いわゆるドイツロマン派ではありません。即物的な原始主義書法を駆使し、それでいて楽劇のような文学的なものを指向しています。以前に紹介したオルフの代表作『カルミナ・ブラーナ』は「トリオンフィ(勝利)3部作の第1作で、残る2作がこのディスクに収録されている『カトゥーリ・カルミナ』と『アフロディテの勝利』です。

 『カトゥーリ・カルミナ』とは「カトゥルスの歌」という意味で、このガイウス・ヴァレリウス・カトゥルスは古代ローマの詩人だそうです。メインの合唱にピアノと打楽器という楽器編成で、ストラヴィンスキーの『結婚』そのまんまであり、非常に大ききな影響を受けたことが伺えます。

 舞台は古代ローマの劇場のイメージ。とある若いカップルがイチャついているところ、それを見ていた老人たちが嘆かわしいと文句を言ってきて、この年寄りの話を聞きなさいと余計なお世話をかましてきます。そこまで言うならば、と若いカップルは話を聞くことにしました。老人たちはカトゥルスの詩を演劇にし、それによって愛は永遠ではないこと、愛と憎しみは裏表であることなどを伝えようとします。ところが禁断の愛にコーフンしたのか、若いカップルは再びイチャつき始めて老人達はズッこけるというオチ。

 イチャつきシーンではピアノと打楽器の伴奏が付き、劇中劇では伴奏のないアカペラになります。テンポは速く、複雑なハーモニーも使っており、無伴奏で歌うのはかなり大変そう。歌詞はラテン語で書かれていて、イチャつきシーンでは「...mammae, molliculae dulciter turgidae, gemine poma」だとか「O tua mentula, mentula, mentula...」だとか歌われます。このGoogle先生の翻訳はイマイチの精度ですが。

 イチャつきシーンの下品でやかましい響きと劇中劇での硬い響きの対比が面白く、『カトゥーリ・カルミナ』は3部作の中でも一番とんがった作品かも知れません。

 『アフロディテの勝利』の方の雰囲気は古代ギリシャ。アフロディテはギリシャ神話における愛の女神。合唱に加えてオーケストラにピアノ3台、ギター3本、打楽器群という異常な編成ですが、今度は内容が結婚式の様子ということでこれまたストラヴィンスキーの『結婚』そっくり。新郎新婦が顔を合わせて婚礼の儀式が執り行われ、寝室に入っていくという流れも一緒。結婚式の儀式的な様子を表すために、執拗に単純なリズムを繰り返すという得意の技法をひたすら使っているので、音楽はところどころで異様な盛り上がりを見せています。



 この動画は曲の中盤となる「花嫁と花婿」、および9:08より「婚礼の呼びかけー婚礼讃歌」。後者は私が一番好きな部分で、特に13:10あたりからの怪しげな低音に乗って繰り返される部分がイカシてます。

 曲の最後は「アフロディテの顕現」となっており、寝室で一体となった新郎新婦のもとに愛の女神アフロディテが現れた(かのようだ)、というシーンだと思われます。なんとなく『スターウォーズ』のような部分もあります。アフロディテを讃える歌の最後にある渾身の溜めの後、一瞬の静寂の中にアフロディテの姿が浮かび上がるようです。

 とにかく三部作いずれも主題の展開とか変奏とかの伝統的な音楽語法を考慮せずに作られたような、身体にガスガスと突き刺さるカンタータです。『結婚』に似てると何度も書きましたが、実のところストラヴィンスキーの音楽は「結婚」という人類の普遍的な営みに対して徹底的に抽象性を追求しているのに対し、オルフの音楽は中世ドイツ(カルミナ・ブラーナ)、古代ローマ、古代ギリシャなどの具体的な時代を想定しているという違いがあります。その後のストラヴィンスキーの音楽はより抽象化された精神の遊びを指向するのですが、オルフの音楽は常に肉体的イメージを持ち続けたというのが両者の最大の違いかもしれません。


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