大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

デルタ航空が出資をしても、JALの問題解決にはつながらない

2009年09月22日 | ニュースの視点
10日、日本航空と全日本空輸は10月25日から羽田空港~北京空港の間の路線を新規開設すると正式に発表した。

日本航空が毎日1往復、全日空空輸が中国国際航空との共同運航(コードシェア)も含めて同3往復。首都同士を結ぶ路線の新設で顧客の利便性向上につなげる狙いとのこと。

そのような中、日本航空が航空世界最大手の米デルタ航空から300億~500億円規模の出資を打診されていることが明らかになった。

日本航空の財務状況を見ると、08年のピーク時には約20%あった自己資本比率が、現在では約10%にまで低下してきている。

デルタ航空が500億円出資してくれたら、自己資本比率は12.3%にまでわずかに回復する。日本航空からすれば、ここに意味があると感じるかも知れない。

日本の航空法では外資による国内航空会社への出資について、全株式の3分の1未満に制限されているが、今回の規模ならば株式保有率は11%程度に留まるので、法に抵触することもないだろう。

一方、日本国民の立場からすると、別の点にも注目するべきだと私は思う。それは、日本航空が日本政策投資銀行から約2300億円の融資を受けているという点だ。

これは、我々国民が日本航空に対する「債権」を保有していることと同義だが、それならば「株式」を保有したほうがメリットは大きいと私は思う。

将来日本航空の業績が回復し株価が上昇した場合、「債権」のままだと金利しか受け取れないが、「株式」として保有していれば大きなリターンになる可能性があるからだ。

ただ今回の件について、より基本的なこととして認識しておくべきなのは、日本航空が抱える本質的な問題はデルタ航空など外資系企業がいくら出資しても解決にはつながらないということだ。

日本航空が抱える大きな問題は、組合が7つもあり、内ゲバを繰り返しているという点にあるからだ。

抜本的な改革を行うためには現在の経営に対して大鉈を振るうことが必須だが、株主総会の単独否決権すら持てない11%程度の株式保有率では、それは不可能だ。

だから本気で日本航空の経営改善を図りたいなら、航空法の制限に抵触してしまう外資系企業ではなく、JR東日本のような国内の会社が日本航空を買収するべきだと私は思う。

実際、もしJR東日本が日本航空を買収したら、バランスシートは劇的に改善するのは間違いない。

加えて、「陸路」と「空路」を融合したビジネスを展開することもできるので、そこには大きなビジネスチャンスが眠っていると私は思う。

「デルタ航空が持つ国際的な航空運用ノウハウを取り入れることにも狙いがある」という意見もあるかも知れないが、それならば現在の経営陣は総退陣するべきだ。

日本で最も歴史のある航空会社であるにも関わらず、未だにグローバルな航空運用のノウハウが分かりません、と言うのでは経営陣の能力・責任を問われるのは当然だろう。

結局、今回のデルタ航空からの出資という話も「目くらまし」あるいは「時間稼ぎ」に過ぎないと私は思う。

今の日本航空に求められているのは、航空運用のノウハウではなく、組合問題を決着することだ。

日本航空の経営陣には、そこから目をそらしては何も解決しないということを再認識してもらいたい。

9 コメント

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賛成 (ks)
2009-09-26 12:26:28
今までの航空行政そのものの有り方が問われていると思います。
「JR東日本のような国内の会社が日本航空を買収するべきだと私は思う。」に賛成です。

でもなんで?
官から民へと掛け声ばかりで、その体質は何も変らずなんだろ?…
JR西日本ですらJR福知山線脱線事故の最終報告書案が漏洩してた事実。
NTTにおいても、なんだか不透明な動きが毎年のように囁かれ…

社会人になって20年…大手企業の中で派遣・出向という形で仕事をしたことあるが、組合含め民間といいながらお役所仕事的な雰囲気には何度も嫌気が差した。

そうそう!KDDIが来春03月末をもって、国際オペレーター通話業務を廃止するそうです。
平成15年の通信規制緩和によるところが大きいそうですが、今後は海外から日本、日本から海外へと緊急含め連絡を取りたくても、他国語が話せなくとも自己責任で対処せざるを得ないみたい。

日本人の大多数が、まだまだ外国語に不慣れ・抵抗感あると思うんだけど、どう思います?
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なぜ我々が金を出す必要があるのか (はま)
2009-09-28 10:56:37
なぜ、こんなアホ会社に我々の税金が投入されることになるのか全くもって意味不明である。
企業年金など企業あってのもので、そんな原則もわからず年金くれくれのじーさんは許し難い。

キャビンアテンダントを使って、ガールズバーを経営しますと言ってくれた方がまだ評価できます。
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JAL破綻されたほうが (ゼクス)
2009-09-28 23:19:29
JALは破綻させたほうがいいと思います。整理を行い不必要な部分は売却。従業員はいったん全員解雇を行う。新会社は採用試験を実施し必要人員を再雇用すべきなんじゃないかな。国内線は新会社とJRだけではなくレンタカー会社まで一緒に提携してもらったらsuica1枚で旅が出来るので便利になるんだけど。余剰機体はレンタカー会社のノウハウを利用して他社へレンタルしてもいいんじゃないかと思ってます。
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単純倒産もあり (不動産ブローカー)
2009-09-29 00:41:14
 JR東日本のような(旅客の)巨大な会社が航空に参入することには反対です。鉄道と飛行機はサービス価格でしのぎを削りあわなくては。
 JALがデルタから資金援助を受ける最大のメリットは成田がアジアのハブ空港としての地位を固めることにあると思いますが、どう考えますか?日本としては以遠権を今後認めない!という選択肢すら可能になってくるとは思いませんか?
 もちろんそれにはJALが黒字会社になることと、デルタが経営に大きく関与出来ることが条件ですが。
 それが法律上できないならもう、単純倒産が一番でしょう。需要があれば供給は発生しますから一時的に不便は生じても必ず航空便は戻ってきます。
 今のJALは小遣いをせびって親を脅すドラ息子と同じです。債権も政府所有の株も0円になったとしても、半永久的にスネをかじられるよりはましでしょう。
 大前氏は再認識って言うけどそろそろ「引導」をわたす時期でしょう。
 
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JALサラリーマン経営 (サラリーマンGメン)
2009-09-29 13:51:02
 大前先生のコメントは核心を付いています。なぜなら、①組合対策②陸(JR)と空の有機的結合③国際運行の無ノウハウなどを指摘されているからです。①②③いずれをとってもサラリーマン的発想が現在のJALになったということがJAL当人はわかってないためです。思考力がないのです。
 そこで、①対策は破綻させてGM手法が最適です。救済してはいけません。オバマ手法はベストです。②はサラリーマンには無理です。新規な発想やアイディアは外部の血を導入すべきです。外部にいるとよく見えて簡単だからです。③も同様です。JAL経営陣は考える力が欠如しているのではないでしょうか?国民のお金をムダ使いしながら、国際ノウハウなど聞いてあきれます。資本金の一部は国を経由俺の金もはいってんだよ。JALは解決まで、経営陣は年収1円で経営すべきです。
 したがって、一旦破綻させて①②③の手順を行うべきです。しかし、大前先生は鋭いですね。感心、ホント。。。
                       以上





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体質の問題 (通りすがり)
2009-09-30 15:01:13
国有時代からの国の責任もあるが、組合問題を含めて内部体質の問題は簡単には解決しない。
なら、いっそのこと解散も選択肢の一つなのでは。
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くみあい (ちらみ)
2009-10-06 04:28:11
日系航空会社のパイオロットは、米系等と比較しても待遇が桁違いに良いそうです。 組合も良し悪しあると思いますが、7個もあれば人件費等のコストが必要以上に上がるのも無理なさそうですね。
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Unknown (Unknown)
2009-11-22 13:14:04
JALがなくなって困る人っているのですか。
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経営危機と年金問題は別 (仮面社員)
2009-11-24 13:06:34
先生のご指摘、非常に的確だと思います。
航空法も含めて大枠で考えるという発想を首相を筆頭にリーダーには持っていただきたいものです。
私企業という名ばかりの公共事業体、歴代の政府、政治家、官僚その他多々が食い物にしてきた結果が現状だと思います。
従来とは異なる発想の転換が必須かと思います。

但し昨今クローズアップされている年金問題はまた別問題ではないでしょうか?
すくなくとも企業年金の会社負担分はこの状況で減額必須ですが、各人が積み立ててきたものまで減額するのは、少なくとも現法制上完全に違法であり、特別立法で(しかも遡及的に)個人の財産を制限するというのは非常に危険だと感じています。また利率を暫時低減(急ぐ必要はあります)していけば緊急的に支援しなければいけないような積立額の不足も現状では無く、現にJAL年金サイドから困っているから早急に支援してくれという声は全くありません。
むしろ企業年金をフレームアップする事により、結果的に本質的な経営問題を隠蔽していると思います。

とかくこういう問題は感情論も入り込み、断片的な情報(特にマスコミの)を元に冷静な議論を欠きがちですが、先生はいかがお考えですか?
企業年金というJALだけに留まらないこれからの日本の大きな問題点だと思います。


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