Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「こんな夜更けにバナナかよ」

2019-01-20 15:23:05 | 映画


昨年暮れに公開された、大泉洋主演の「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」を見てきました。
実在の筋ジストロフィー患者、鹿野靖明さんと彼を支えたボランティアの人たちの泣き笑いの物語を描いた映画です。

舞台は1994年の札幌。大学生の美咲は、恋人で医大生の田中が重度の筋ジストロフィー患者である鹿野靖明のボランティアとしてこき使われているのを見て、鹿野に怒りをぶつけるが、いつのまにか鹿野のペースに巻き込まれ、美咲もボランティアに参加することに。鹿野のポジティブでたくましい生き方に、励まされる美咲と田中だったが…

公式サイトはこちら。映画を見た後予告を見返したら、見る前よりもグッときました。いや、予告ってのは本編を見る前に見るべきものなのはわかってるけど。

タイトルに「愛しき実話」とあるのだから、この映画は実話を元にしていて、大泉洋演じる鹿野靖明さんのキャラクターも事実に基づいているのだろうけど、映画が始まってすぐは鹿野さんのキャラが強烈すぎて驚きました。というか、バラエティでよく見る大泉洋そのまんまだったので、「おいおい演技じゃなくて素なんじゃないか」と疑う気持ちも湧いたりして。早口でまくしたてる、どんなわがままもしれっと悪びれずに言う、ボランティアの気持ちを忖度しない…などなど。でも、そんな鹿野さんが、ふとした瞬間に見せる寂しげな横顔や、複雑な感情を込めて母親に接する時の顔には、さすがの演技力を感じました。つまり、鹿野さんが大泉洋に見えるんじゃなくて、大泉洋が鹿野さんになりきっていたってことなんですが。それに気づくまでに映画半分くらいかかりました。てへ☆

そういうわけで(?)、映画の中盤、容体が急変して緊急手術で気管切開をした(=声が出なくなった)鹿野さんが病室で母親と見つめ合う場面は、映画史に遺る名演技だったと思います。とても、健康な人間が病人の演技をしているようには見えませんでした。今でも思い返すたびに、「なんだったんだろう、あれは」と不思議な気持ちになります。

映画では、鹿野の人生と並行して、美咲と田中くんという2人の若者が自分の生き方に迷う姿も描かれます。教師になりたくて教育大を受験したけど不合格になり、目標を見失ってフリーターをしている美咲。大病院の跡取り息子で医学部に通っているけれど、医者になる自信のない田中。原作を読んでないのでこの2人にモデルがいるのかわからないけど、ボランティアの中に美咲のような女性がいて、鹿野さんの救いになっていたのだとしたらいいなと思いました。まあ、映画の方は、鹿野さんと美咲の年齢差が一回り以上なのが気になって、鹿野さんが美咲に一目ぼれしていたってのがピンとこなかったんだけど。一方、医学生の田中くんが鹿野さんにとってどんな存在だったのはよくわからなかったけど、「こうありたかったもう一人の自分」みたいな感じだったのかなぁと今は思います。自分のように夢を諦めてほしくない、生きたいように生きて欲しい、田中くんにそういう願いを込めていたのかもな、と思っています。まあ、原作読んだら全然違うこと書いてあるかもしれないけどね。

映画の中盤、鹿野さんのところに来ていた若い男性ボランティアが、「本当に困っている人を助けたい」と言ってボランティアに来るのをやめてしまうという場面がありました。彼にしてみれば、鹿野さんのように毎日明るく、笑って過ごしている人ではなく、病気が障害で苦しんでいる人を助けることが真のボランティアだったのでしょう。明るく振る舞う人が、笑っている人が、心の内でどんな苦しみを抱えているのか想像することなく。そりゃ中にはホントに苦しんでない人もいるのかもしれませんけどね。笑顔の人の中には、泣いて悲しんでもどうにもならないと悟って、つとめて笑おうとしている人もいるのですが。近頃「本当に困っている人」をジャッジしたがる人をよく見かけますが、あれはなんなんでしょうね。

上に書いた母親と見つめ合う場面とか、観客を泣かせようとする場面もそれなりにあったのですが、全体的にはそう湿っぽくなくて、噴き出すほどに笑える場面が多くて、からっとした印象の映画でした。鹿野さんは映画の7年後、2002年に42歳で亡くなるのですが、臨終の様子が映画で描かれなかったのは珍しいんじゃないかと思いました。その分、ラストの母親への手紙がグッときましたが。

鹿野さんが生前語っていた、障害者が自立して社会生活を営むことについての持論を、映画では鹿野さんのパーソナルな範囲で描いていましたが、原作には鹿野さんが自分の生き方を通して何を伝えたかったのかが詳しく書かれているだろうから、近いうちに原作を買って読もうと思います。

ところで、余談ですが、映画のエンヂングテーマが「キスしてほしい」じゃなかったのに驚きました。この流れだったらこの曲しかないだろ、って思い込んでいたので(予告でポルノグラフィティの曲が流れていたのを忘れていた)。


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