観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

大きな問題への小さな貢献 ― カモシカを調査して ―

2014-03-09 23:07:32 | 14
4年 朝倉 源希

 大学入学当初、私は野生動物の農業被害に興味を抱いていた。農業被害に関するニュースを見て、動物が暮らしていた森を人間が切り開いて利用しているのに、そこに暮らしていた動物が被害を出す害獣として駆除されることに違和感を感じていたためである。一方でこの問題は農家の方々の生活だけでなく、我々の食への影響も絡んでおり、簡単には解決することが出来ないことも理解していた。それでも、この問題に対して自分の出来る範囲で少しでも役立ちたいという思いから、研究室は野生動物学研究室を志望した。
 そこで私は卒業研究のテーマをキャベツで有名な群馬県の嬬恋村の耕作地付近に住むニホンカモシカについて調べることになった。ここではアンケート調査の結果、被害の原因は主にカモシカによるものといわれ、過去5年で70頭ものカモシカが駆除されている。それで被害がなくなっているのなら、かわいそうだがしかたがないと思うが、被害面積は依然として高いままなのである。私は天然記念物であるカモシカが駆除されているのを知って驚くと当時に、本当に駆除しないといけないのか、駆除しないでも解決する方法はないのだろうかと考えた。私はカモシカが耕作地に出るのは林内の食物が少ないからではないかと考え、耕作地付近に暮らしているカモシカが森林よりも耕作地を好んで利用しているかどうかと、そのことと食物供給量は関係しているのかどうかをあきらかにしたいと考えた。そして、2個体のカモシカを対象に、耕作期間(5~11月)の昼夜連続した追跡調査と生息地の食物供給量の測定を行なった。
 食物供給量は予想通り林内が少なく、耕作地のほうが4倍以上も多かった。だが、カモシカは、1個体は春は耕作地を利用せず、夏も秋も利用度は低かった。もう1個体は耕作地を一切利用せず、耕作放棄地は夏には選択的に利用したが、秋はあまり利用しなかった。林内には植物が少なかったとはいえ、飼育カモシカの最大食物摂取量の16.5倍もの食物があり、カモシカにとって食物は十分あることもわかった。
 また2個体とも耕作地への侵入時間は夜間に多かったことから、人との接触を好まないと考えられた。また、耕作期間の耕作地には電気柵が張られていたことから、これによって侵入が阻まれた可能性が大きい。
 今回の研究によって林内には十分な食物供給量があり、耕作地付近に生息するカモシカでも耕作地を選択的に利用しない個体がいることがあきらかとなった。こういうカモシカに対しては、人がいることや電気柵があることが有効な防除対策になる可能性が高い。
 カモシカの群落利用や行動を知らずに、ただ耕作地付近に生息しているという理由でカモシカを駆除したら、本調査で調べたような個体は駆除されてしまったかもしれない。電気柵などで防除効果が得られる可能性の高い個体をむやみに駆除することは避けるべきだと思う。
 このように入学当初から興味を持っていた問題に対して、ささやかではあるが卒業研究で携わることができた。私自身はこれで卒業してしまうが、今回の自分の研究がこれからの農作物被害問題の解決に少しでも貢献できれば幸いである。 


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