月と猫

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うるわしき大正新版画展

2009-11-04 21:24:17 | 芸術
遅ればせながら、江戸等京博物館で開催されている
「よみがえる浮世絵 うるわしき大正新版画展」を見てきた。
まず今回の展示の概要を、パンフから抜粋。

新版画とは
◆江戸時代の浮世絵版画と同じ技法によって
制作された大正から昭和初期にかけて興隆した木版画である。
当時、社会の近代化にともない風前の灯火だった
伝統的な木版技術を復興し、新たな芸術を生み出そうと
版元、版画家、彫師、摺師らが集結し、
さまざまな新版画が作られた

今回は、ムラー・コレクションも日本初公開になった。

ムラー・コレクションとは
◆ロバート・ムラー(1911~2003)は、新版画の高度な技法や、
描かれた情景に感銘を受け、1932年に川瀬巴水の「清州橋」から
コレクションを開始した。その総数は明治錦絵等を含め
4000点を超え、世界最大級の日本近代版画コレクションと言える


昨年同じ博物館で開催された「ボストン美術館 浮世絵名品展」は、
写楽、歌麿、北斎、広重、国芳といったビッグネームの、
きわめて保存状態の良い浮世絵がてんこもりで、
その鮮やかな色や繊細なグラデーションに感嘆した。

それをふまえての今回の新版画展は、モチーフとなる
風俗文化や風景、また、技法の違いなどの変遷がよくわかり、
いろいろと感慨深いものがあった。

川瀬巴水は、以前、「美の巨人たち」(テレビ東京系)で見て、
とても気になっていたので、今回たくさんの作品を
見ることができて良かった。



「東京十二題 深川上の橋」

橋の下から覗くようなアングルのこの作品の解説には、
橋を鳥居と見立てて風景を描いた北斎の
「富嶽三十六景 深川万年橋」との比較が書かれていた。

天保の頃の「深川万年橋」では橋の下に富士山が見えていたが、
大正9年のこの絵には、中州にひしめく家並が邪魔をして、
富士山なんか見えやしない。

私が今住んでいる部屋も、引っ越した当初は大変眺望が良く、
南の窓に大きく富士山が見えていた。
今は高層マンションが立ち並び、窓から見えるのは四角い建物ばかり。
まだまだ江戸の香りを残している大正時代の風景の中にも、
シム・シティのように増殖する建物が見て取れて、リアルだ。




「東京二十景  明石町の雨後」

この絵を見たとき、イギリス北部の、
寂れた港町の風景を思い出した。
サウスポート、ブラックプールあたり。

一人旅の車窓から眺めた灰色の景色が一気に甦ってくる。
この、時代と国を越えた空気感。
まさに「江戸浮世絵でも日本画でも油絵でもない、
新しい浮世絵としての版画」といえる。




「日本橋(夜明け)」

今回一番好きな作品。
明治~昭和初期までの日本の建築物は、
ヨーロッパに倣って造られていいたので、
街並が本当にステキ。
これなんて、「パリの風景を描いた」と言われても
そのまま信じてしまう。

風景もさることながら、この空の色が非常にキレイで、
(原画と印刷では天と地ほどの違い!)印象派の絵画のよう。
特に、私の好きなモネの色に似ている。

季節は夏だろうか、ひんやりとした朝の空気までが感じられ、
絵の中に一瞬トリップしてしまった。

ターナーの絵などもそうだが、ときどき光や音、風、空気を
感じる絵がある。これもそんな一枚。




「清州橋」 

ムラー氏が日本の版画コレクションを始める
きっかけになった絵。

この絵に出会った頃彼はアメリカの大学生で、
日本の知識など無かったのにもかかわらず、
この絵がきっかけでコレクターとなり、
日本版画専門のギャラリーを開いた。
まさに、人生を変えた一枚。

驚いたのは、この絵と出会ってからわずか9年後に
もう来日して、大量の版画を買い付けていること。
元々お金持ちなんだろうけれど、猫まっしぐらの
オタクっぷりがスゴい。

ちなみにこの絵は、マンハッタン橋に見えなくもなく、
そんなところからアメリカ人のムラー氏が親近感と
興味を持ったのではないか?と思う。


川瀬巴水の他には、吉田博の作品が気に入った。
動物や植物、自然に対する目線が温かで、
好奇心が旺盛な人柄が伝わってくる画風だった。





「黒猫を抱える裸女」フリッツ・カペラリ

フリッツは新版画に関わった最初の外国人画家だそう。
基本的に人物画には興味がないけれど
(特にスタイルの悪い裸の絵は好きじゃない)、
猫なので気になった絵。

解説には「浮世絵の影響を受けている」とあったが、
このポーズといい、目つきといい、
「家出したヤンキー少女、
ノラ猫と夜を明かす図」

みたいじゃない?キャミソールでも着せれば違和感ないよ。

新版画展には、外国人画家による作品が多数展示してあった。
浮世絵に憧れた海外のアーティストが、
日本に版画や絵を学びに来ていたのだそう。

浮世絵はヨーロッパの芸術家に多大な影響を与えていたので、
それもさもありなん。

今で言ったら日本のアニメやマンガを見て
日本に憧れた世界のオタクたちが秋葉に詣でたり、
自らもマンガを書き始める、みたいなものか。

時代は変われども、世界を魅了するソフト
(アイディア、センス)とハード(技術)
を併せ持つ日本文化、万歳。



技術と言えば、浮世絵を見ていつも思うこと。
版画は画家だけでなく、彫師、摺師といった
職人がいないと成り立たない。

あの細かい図版を彫って、何度も何度も丁寧に
美しく色を重ねて行く技術があってこその浮世絵だ。

なのに、今名前が残っているのは図案担当者だけ。
ちょっと報われない。

皆さんも浮世絵を見るときは、芸術性もさることながら、
その技術のすばらしさ、という観点から見ていただけると、
職人さんたちも嬉しいんじゃないかと思う。


「よみがえる浮世絵 うるわしき大正新版画展」は
今月8日まで。




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