シリーズ「アフリカの公用語とフランス語」、第七話。前回に引き続き、仏語地域を専門の生業とする自称「仏族」に求められる能力について、続けていこう。
われわれが鍛えるべき能力の第一として、何はともあれ、語学力、すなわち、仏語力を挙げた。
鍛えるべき第二の点は、しばしば語学力以上に重要な、地域や国に関する知識。私は「コンテクスト」理解と呼ぶ。
言語は単なる記号ではない。そこにはいろいろなバックグラウンドやニュアンスが乗っかっている。ことばの奥深く、つきささったところに本質がある。それがわからなければ、彼らのいうことがきっと理解できないし、こちらの言葉も十分には伝わらない。
私がアフリカに駐在していたころ、よく日本からの訪問団を受け入れた。日本人、アフリカ人、通訳を介した対話が一見進んでいるのだが、こちらで聞いていると両者は全く別のことを話していて、てんで噛み合っていない。そんな場面を目にした。これは通訳さんの語学力やスキルの問題だけではない。会議への参加者全体が、共通のコンテクストを共有できているかという問題だ。
(ブルキナファソの現地紙)
第三に鍛えるべきは、愛情力。「アフリカ愛」。まずもって地域を知って、愛するということ。そして相手に対し、愛と尊敬を持って接するということ。聞く姿勢や伝えるための気持ち。
たとえ言語学的能力が足りなくても、具体的知識に欠けても、相手のいうことを理解し、こちらの思いを伝えるためのハートの「浸透圧」を高めることは可能だ。
簡単なことだが、心から相手の懐に入って会話を交わすこと。相手を迎え入れて話をすること。顔から漏れる笑顔。これだけで浸透圧は十分に高められる。
さらに、どんなに少なくてもいいから、一言でも相手国の母語、特に現地語を覚えていく。また仏語でも彼らの普段使う単語や表現、話題のキーワードを多用する。できれば無意識に。そういった姿勢や努力、意識の変化で、相手との心の距離ががぐっと近づく。無形のコミュニケーション・スキルだ。
われわれ外国の人と付き合うことを仕事とする人間にとって、言葉はできればできるに越したことはない。地域や国の知識も、あってありすぎることはない。そしてそうやって浸透圧を高めていけば、心に届くコミュニケーションとなると思う。
第四話「第二外国語の栄枯盛衰?!フランス語教育を強化すべきこれだけの理由で引用した朝日新聞デジタルの記事。京大の西山教授は言う。「学生はそのときの気分や実利面で第二外国語を選ぶ傾向が強くなったが、多様な文化や人びとと接する窓口として第二外国語を学ぶのだと考えてはどうか」。ご指摘はいまここで私の述べていることにも重なる。
(フィールド調査では相手の懐に飛び込んでいくコミュニケーションが必要。マリケニエバ州にて。)
これまで、ぶらぶらと散漫な議論を続けてきた「アフリカの公用語とフランス語」。仏語圏の世界でもいろいろな議論はあるが、私は世界は多様性を維持すべきであると思うし、そこにおける仏語の役割はまだまだ少なくないと感じている。そして意外な市場性。
業界を同じくする「仏族」の同志よ。迷うことなく、語学、地域コンテクスト、コミュニケーション・スキルの研鑽をたゆまなく続け、アフリカを心より愛し、「裏」アフリカの真の友人、そして代弁者になろうではないか。
(「アフリカの公用語とフランス語」、いったん完)
◆『アフリカで働くためのフランス語速習ガイダンス』
ンボテは不定期に仏語圏アフリカのキャリアを目指す方を対象に「アフリカで働くための中西部アフリカ概論」、「アフリカで働くためのフランス語速習ガイダンス」(初学者~中級学習者を対象)を自主開催しています。
近々、公開セッションで実施する計画も進行中。ご関心の方がいらっしゃるようであれば、このページでもご案内したいと思います。
◆あわせて読む・連載「アフリカの公用語とフランス語」
第一話「仏語大陸アフリカ」
第二話「フランコフォン、アフロフォン」
第三話「グローバリズムとリージョナリズム」
第四話「第二外国語の栄枯盛衰?!フランス語教育を強化すべきこれだけの理由
第五話「フランコフォン、アフロフォン(予期せぬ続編)」
第六話「仏族のオキテ(前編)」
われわれが鍛えるべき能力の第一として、何はともあれ、語学力、すなわち、仏語力を挙げた。
鍛えるべき第二の点は、しばしば語学力以上に重要な、地域や国に関する知識。私は「コンテクスト」理解と呼ぶ。
言語は単なる記号ではない。そこにはいろいろなバックグラウンドやニュアンスが乗っかっている。ことばの奥深く、つきささったところに本質がある。それがわからなければ、彼らのいうことがきっと理解できないし、こちらの言葉も十分には伝わらない。
私がアフリカに駐在していたころ、よく日本からの訪問団を受け入れた。日本人、アフリカ人、通訳を介した対話が一見進んでいるのだが、こちらで聞いていると両者は全く別のことを話していて、てんで噛み合っていない。そんな場面を目にした。これは通訳さんの語学力やスキルの問題だけではない。会議への参加者全体が、共通のコンテクストを共有できているかという問題だ。
(ブルキナファソの現地紙)
第三に鍛えるべきは、愛情力。「アフリカ愛」。まずもって地域を知って、愛するということ。そして相手に対し、愛と尊敬を持って接するということ。聞く姿勢や伝えるための気持ち。
たとえ言語学的能力が足りなくても、具体的知識に欠けても、相手のいうことを理解し、こちらの思いを伝えるためのハートの「浸透圧」を高めることは可能だ。
簡単なことだが、心から相手の懐に入って会話を交わすこと。相手を迎え入れて話をすること。顔から漏れる笑顔。これだけで浸透圧は十分に高められる。
さらに、どんなに少なくてもいいから、一言でも相手国の母語、特に現地語を覚えていく。また仏語でも彼らの普段使う単語や表現、話題のキーワードを多用する。できれば無意識に。そういった姿勢や努力、意識の変化で、相手との心の距離ががぐっと近づく。無形のコミュニケーション・スキルだ。
われわれ外国の人と付き合うことを仕事とする人間にとって、言葉はできればできるに越したことはない。地域や国の知識も、あってありすぎることはない。そしてそうやって浸透圧を高めていけば、心に届くコミュニケーションとなると思う。
第四話「第二外国語の栄枯盛衰?!フランス語教育を強化すべきこれだけの理由で引用した朝日新聞デジタルの記事。京大の西山教授は言う。「学生はそのときの気分や実利面で第二外国語を選ぶ傾向が強くなったが、多様な文化や人びとと接する窓口として第二外国語を学ぶのだと考えてはどうか」。ご指摘はいまここで私の述べていることにも重なる。
(フィールド調査では相手の懐に飛び込んでいくコミュニケーションが必要。マリケニエバ州にて。)
これまで、ぶらぶらと散漫な議論を続けてきた「アフリカの公用語とフランス語」。仏語圏の世界でもいろいろな議論はあるが、私は世界は多様性を維持すべきであると思うし、そこにおける仏語の役割はまだまだ少なくないと感じている。そして意外な市場性。
業界を同じくする「仏族」の同志よ。迷うことなく、語学、地域コンテクスト、コミュニケーション・スキルの研鑽をたゆまなく続け、アフリカを心より愛し、「裏」アフリカの真の友人、そして代弁者になろうではないか。
(「アフリカの公用語とフランス語」、いったん完)
◆『アフリカで働くためのフランス語速習ガイダンス』
ンボテは不定期に仏語圏アフリカのキャリアを目指す方を対象に「アフリカで働くための中西部アフリカ概論」、「アフリカで働くためのフランス語速習ガイダンス」(初学者~中級学習者を対象)を自主開催しています。
近々、公開セッションで実施する計画も進行中。ご関心の方がいらっしゃるようであれば、このページでもご案内したいと思います。
◆あわせて読む・連載「アフリカの公用語とフランス語」
第一話「仏語大陸アフリカ」
第二話「フランコフォン、アフロフォン」
第三話「グローバリズムとリージョナリズム」
第四話「第二外国語の栄枯盛衰?!フランス語教育を強化すべきこれだけの理由
第五話「フランコフォン、アフロフォン(予期せぬ続編)」
第六話「仏族のオキテ(前編)」
会話術とか、プレゼンとかテクニックはありますが、そんなものは現場で早くには立たないと思います。何にも勝るのは中身があるか。魂がこもっているか。愛がこもっているか。
しかもその愛には、知識とか、コンテクストの理解とか、裏付けのある愛であることが求められています。
何より海外在住者には全人格的なコミュニケーションがもとめられてしまう。そこが辛くもあり、醍醐味だと思います。
私も全然まだまだです。
海外在住のみなさん、協力隊のみなさん、専門家のみなさん。日々ご苦労されていると思いますが、これだけアフリカに向き合える時はもうそんなにないかもしれません。うらやましいです。私もできるだけ早くそちらに戻りたいと思っています!