長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アトミック・ブロンド』

2017-11-02 | 映画レビュー(あ)

80年代東西冷戦時代のドイツ・ベルリンを舞台にMI6、CIA、KGBら各国の諜報員が暗躍するスパイアクション。
僕も歳を取ったのか、最近は果たしてこれが裏切りが裏切りを呼ぶ複雑なプロットなのか、単にハリウッドのジャンル映画が雑過ぎるのか判断できなくなってきた。『ジョン・ウィック』で第二班監督を務めたデヴィッド・リーチの演出はまるでベストヒットアルバムみたいな選曲も楽しいが、無暗に時制を行き来する筋運びは決してスムーズとは言い難い。

いや、ストーリーなんかどうでもいい。
 ここでは2000年代に“ジェイソン・ボーン”シリーズが切り拓いてきたアクション映画史の更新が行われている。動体視力の限界ギリギリまで細かにカットされた編集が速度と迫真性を引き上げてきたが、これは卓越された編集技術とディレクションがあってこそ初めて成立するものであり、『ボーン・アルティメイタム』のオスカー受賞によってその難度はさらに引き上げられ、「何が起こっているのかよくわからない」多くの失敗フォロアーを生み出す事となってしまった。皮肉な事にシリーズ第5作、2016年の『ジェイソン・ボーン』もこのハードルを超えられず、ついにブームは終焉を迎えてしまったように見える。

本作で行われているのはスタントマン主導によるスタント至上主義のアクションだ。
 2014年のキアヌ・リーヴス主演作『ジョン・ウィック』で監督デビューしたチャド・スタエルスキーとデヴィッド・リーチは共にスタントマン出身。キアヌのような運動神経の良い俳優を徹底的にトレーニングし、なるべくカットを割らずに練り上げられたコレオグラフィで肉体動作を見せる事に専念している。本作では中盤、約7分間に渡ってシャーリーズ・セロンが刺客を迎え撃つ様を何とカメラが4階から1階へ移動し、さらにはカーチェイスでクラッシュするまで長回しするという近年稀に見るセンス・オブ・ワンダーを実現。これはアルフォンソ・キュアロンの『トゥモロー・ワールド』以来の衝撃かもしれない(最後にはセロンも刺客も本当に疲労困憊しているように見える!)。もはや異次元的に格好いいセロンは長い四肢を振り回してすごい迫力だ。

 この手法は近年、アクション映画としては全く主旨の違う『ヒットマンズ・ボディガード』でも持ち込まれていた。スタエルスキーとリーチはスタントプロダクションを設立。リーチは次作で『デッドプール2』を手掛けており、異色アメコミ映画にどんな新風を吹き込むのか楽しみだ。彼らがハリウッドアクションのトレンドを大きく変えていくかもしれない。


『アトミック・ブロンド』17・米
監督 デヴィッド・リーチ
出演 シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイ、ジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズ、ソフィア・ブテラ、エディ・マーサン
 

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