長内那由多のMovie Note

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

「ジェイソン・ボーン」

2016-10-15 | 映画レビュー(さ行)


実に9年ぶりのシリーズ正統続編となったワケだが、残念ながらマット・デイモンもポール・グリーングラス監督もジェイソン・ボーン復活に相応しい物語を見つける事ができなかったようだ。
前作のラストから隠遁生活を送っていたボーンはテロで爆殺された父親がトレッドストーン計画の発案者だったと知り、真相を追う事となる。オーケイ、じゃあ次は母親がCIAの長官って展開はどうだい?

思い返せば前3部作はブッシュ政権下、イラク戦時下の物語だった。
記憶を失った超人的スパイ、ジェイソン・ボーンが迫り来るCIAの刺客を倒し、自身の正体を探るが彼は冷戦期のような“作られたスパイ”ではなく、自ら志願して殺人マシーンとなった愛国青年であった事が判明する。それは愛国心という言葉で戦争を正当化した時代の空気そのものであり、無個性なマット・デイモンという俳優の匿名性が相まって普遍的な支持を獲得したように思う。

ではオバマの時代にジェイソン・ボーンが果たすべき役目とは何だったのか?
世界平和を謳う一方でドローンによる殺戮を続け、国民全体をネット越しに監視し続けていた国家の病的な二面性こそボーンシリーズが前3部作でいち早く怒りを持って暴いた事だった。今年、既にディズニー・ピクサーが描いた人種間の憎悪、国家の分断を残念ながらグリーングラスは嗅ぎ当てるに到っていない。本作の最大の欠点はこの同時代性の欠如なのだ。

アクションシークエンスにおいても“ボーン以前、以後”で語られるようになった現在のボーダーラインをクリアしていない。ギリシャ危機の大暴動の火中で繰り広げられるチェイスシーンなど魅力的なシチェーションはあれどアカデミー賞を席巻した編集、観客のアドレナリンを刺激する演出が施されているとは言い難く、前3部作の到達点には程遠い。

語るべき物語を見つけられなかった本作は3部作の水増しに過ぎず、傑作シリーズに蛇足したようなものだ。
僕は人知れず消えていった「ボーン・アルティメイタム」のエンディングが大好きだった。
ボーンは世界の片隅で静かに生き続けている、もうそれでいいじゃないか。そっとしてあげようよ。


「ジェイソン・ボーン」16・米
監督 ポール・グリーングラス
出演 マット・デイモン、アリシア・ヴィキャンデル、ジュリア・スタイルズ、トミー・リー・ジョーンズ、ヴァンサン・カッセル
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