俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

有性生殖

2015-04-29 09:50:02 | Weblog
 繁殖するためには無性生殖のほうが有利だ。快適に生存できる環境さえあれば自分のクローンを作れるからだ。その点、有性生殖は不利だ。異性のパートナーを見つけねばならないからだ。それにも拘わらず多くの動植物、それも高度な動植物が悉く有性生殖によって増殖するのはそのことに大きなメリットがあるからだ。と言うよりむしろ、有性生殖という手法を獲得した動植物でなければ高度な生物にまで進化できなかったと言って差し支えなかろう。進化するためには有性生殖のほうが有利ということだ。
 まず有性生殖と無性生殖の根本的な違いを押さえておこう。有性生殖では両方の親から1つずつ、合計2種類の遺伝子を受け継ぐ。一方、無性生殖では1種類の遺伝子しか持たない。子において2種の遺伝子の特性が平均化されて顕現する訳ではない。様々な特性はそれぞれ優性と劣性を持つ。誤解されることは無いとは思うが優性・劣性は適・不適を意味しない。あくまで顕現での優先順位を意味する。血液型であればABOの3種類の遺伝型があり、AOはA型、BOはB型として顕現する。つまりO型は劣性でありOOの遺伝型を持つ人だけがO型として顕現する。AとBには優劣が無い。
 ここで架空の動物Aを想定する。話を単純化するためにこの動物が寒冷地に住んでいて、寒さに強いことと少食で足りることだけが生存を有利にする条件とする。
 Aが無性生殖をする場合、偶然起こる突然変異によってのみ進化する。たまたま1匹が特に寒さに強いという性質に変異すればそのクローンが繁栄する。他に、より飢餓に強いという変異をした個体があってもこの両者は何の繋がりも持たない。両方の特性を併せ持つ個体が生まれるためにはどちらかが新たに変異するまで待つしか無い。
 Aが有性生殖をするなら、環境に適応した両者による繁殖があり得る。その場合、子孫が両方の長所を受け継ぐとは限らずメンデルの法則に従って様々な個体が生まれる。同じ両親の子であっても、一卵性双生児以外の子が同じ遺伝子を持つことはあり得ないから、自然淘汰を通じて適者が選別される。
 Aが寒さに弱く暑さに強いという変異をした場合、Aのクローンは総て不適者でありいずれ血筋が途絶える。しかし有性生殖であれば、その子孫に不適切な遺伝子が受け継がれても、それが劣性であれば顕現しない。顕現しなければその遺伝子が淘汰されずに細々と生き残る。これが遺伝の多様性に繋がる。もし環境が変わって暑さに強いほうが有利になれば、潜在していた遺伝子が日の目を見る。暑さに強いという遺伝的特性が淘汰されない所が有性生殖の強みだ。無性生殖と比べて有性生殖のほうが遺伝的に多様化する。無性生殖であれば折角新しい特性を獲得してもそれがその時点での環境に適応していなければ淘汰されてしまうが、有性生殖であれば劣性として温存され、それが非常時には適応のための条件として活かされ得る。様々な変異が簡単には淘汰されないからこそ環境の様々な変化に対応した適応が可能でありこれが進化へと繋がる。

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