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第七夜
「・・って訳で、救急車を呼んだと思ったらここに来てた・・んです」
俺がそう言い終わると、おっさんと綺麗なお姉さんは、ぱちぱちと拍手をした。
自分を神様だと抜かすおっさんの提案で、始まった自己紹介。
名前、年齢、浪人生活をしていること、夜中に腹痛に襲われたこと。
俺が説明するたび、おっさんがおおげさに相づちを打つのが少々うっとうしかった。
「さて、次は彼女の番だね・・・とは言っても、本人には自分の記憶が無いから、僕が代わりに彼女を紹介するよ」
おっさんが言うように、この姉さんには自分の記憶が無いらしい。理由は分からないし、本当か嘘かは分からないが、あえて記憶が消されている・・・らしい。
「お願いします・・・」
彼女は、うつむきがちにそう答えた。
透き通るような肌の、綺麗な人だ。うーん、夢だとしても、いい夢見てんな俺。
ただ、夢にしては五感がどこまでもリアルだ。それに、普通の夢と違ってずいぶんと、整合性のある会話が出来ていると思う。
それにしてもこの姉さん、どっかで会ったことある気がすんだよな・・・。
「えーっと彼女の名前は、遠野朱美さん。年齢は26歳で、会社員をしている。アパートに一人暮らし。あと他には・・年下の恋人がいるみたいだね」
おっさんは、何もない空間に、まるで何かが書いてあるような素振りで、彼女のプロフィールを読んでいった。
朱美か、いい名前じゃん。・・・つか彼氏持ちか・・・。だから何だって事もないけど、ちょっとがっかり。
俺は心の中で、ため息をついた。
一方の朱美さんは、自分の記憶を一字一句聞き漏らすまいとしているのか、真剣な顔で、黙っておっさんを見ている。
「そして・・・っと、ここに来た理由が、えーっと・・・まあ、自殺だね」
自殺?今自殺って言った?
部屋の空気が緊張する。
おっさんは、黙って朱美さんの反応を伺っているみたいだ。
うーん、この沈黙。とても気まずいし、かける言葉も見つからない。
「・・・・はあ、そうですか」
当の本人は、ずいぶんとあっさりとそう答えた。
「なんというか、もしかしたらそうなのかな?とは思ってたんです」
椅子に深く座りなおしながら、朱美さんは続ける。
「ここがあの世の入り口っていう話もそうだし・・・、私が記憶をあえて消されているっていうのも、きっと思い出したら冷静にいられないような記憶、つまりショッキングな内容なのかなって・・・まるで他人ごとみたいですけどね」
本当に他人ごとのように冷静だ。表情は、むしろさっきより少し明るくさえ見える。
自分の記憶がないってのは、どんな気持ちなんだろう。
自分が自殺していても、記憶がなけりゃこんなくらいの反応になるんだろうか。
ん?そもそも自殺したら、自分の記憶がどうとかいう問題じゃねえよな。
そもそも、ここが夢の中って可能性も全然否定出来ねえし・・・。
「そう、だから記憶を忘れてもらってるんだ。その方がスムーズに話が出来るからね・・・うーん、でも驚いた。いくら記憶が無いとはいえ、こんなに冷静な人は珍しいよ。」
おっさんは、そう言いながら、安心したように少しほほえんだ。
この言いぶりからすると、ここには俺たちみたいな奴が、他にも来るんだろうか。
「まあね、ここに来るっていうのはむしろラッキーな事なんだよ。自殺にしろ事故にしろ、どっちみちまだ死んでない訳だからね。さあ、それじゃあ自己紹介も軽く済んだところで、アパートのお隣さん同士、仲良く頑張ってもらおうかな」
ん、お隣さん?それってどういう
「あっ・・・、まさか昨日の救急車・・・?」
アパートのゴミ出し、お隣さんとの挨拶、救急車のサイレン、運ばれる担架、深夜の静寂、冷たい牛乳。色々な情報の点が、その一瞬でぶわっと脳裏をかけめぐり、突然一直線につながった。衝撃、快感のようなものが俺の頭の中で電流となって駆け巡るのを感じた。
「あ、あんた、昨日救急車で運ばれただろ?102号室の・・・。ほら俺、隣の103に住んでる宮本っす!」
たまに挨拶くらいはしたことあるけど、今はメイクもしていないせいで・・・いやそれだけじゃない。何というか雰囲気がずいぶん違って、全然気がつかなかった。
この人、俺のお隣さんじゃん。
「はあ、どうも・・・」
朱美さんは、とても不安そうな表情を浮かべている。・・・あーしまった、この人記憶喪失だっけ。
「あーなんか、すいません・・・」
勝手に興奮している自分に、少し恥ずかしくなった。
「こちらこそ、思い出せなくてすいません。私の部屋、お隣だったんですか?」
そう言いながら、朱美さんはこっちを見る。なんか、ここに来て初めて顔をちゃんと合わせた気がする・・・やっぱ綺麗だなこの人。
「あ、はい、俺、昨日隣の部屋に救急車が来たんで落ち着かなくって・・・」
むしろ今の方が落ちつかねーけど。
「うんうん!これでお互いの事は大体分かったね。それじゃあ、場の空気もあったまったところで・・・スピードアップしていこっか」
更にアパートのお隣さんと話そうとする俺の言葉を遮るように、おっさんが割り込んできた。
神様を自称するくせに、空気が読めないというか、本当うっとうしいなこいつ。
なんて思ってる間に、おっさんが黙って右手をあげた。
そして、その手を今度はまっすぐに振り下ろす。
と次の瞬間、目の前が暗転した。
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呉 「自己投影されてて、すごく恥ずかしい」
(´自ω我) 「小説書くなら、ドMで当然っす!」
第七夜
「・・って訳で、救急車を呼んだと思ったらここに来てた・・んです」
俺がそう言い終わると、おっさんと綺麗なお姉さんは、ぱちぱちと拍手をした。
自分を神様だと抜かすおっさんの提案で、始まった自己紹介。
名前、年齢、浪人生活をしていること、夜中に腹痛に襲われたこと。
俺が説明するたび、おっさんがおおげさに相づちを打つのが少々うっとうしかった。
「さて、次は彼女の番だね・・・とは言っても、本人には自分の記憶が無いから、僕が代わりに彼女を紹介するよ」
おっさんが言うように、この姉さんには自分の記憶が無いらしい。理由は分からないし、本当か嘘かは分からないが、あえて記憶が消されている・・・らしい。
「お願いします・・・」
彼女は、うつむきがちにそう答えた。
透き通るような肌の、綺麗な人だ。うーん、夢だとしても、いい夢見てんな俺。
ただ、夢にしては五感がどこまでもリアルだ。それに、普通の夢と違ってずいぶんと、整合性のある会話が出来ていると思う。
それにしてもこの姉さん、どっかで会ったことある気がすんだよな・・・。
「えーっと彼女の名前は、遠野朱美さん。年齢は26歳で、会社員をしている。アパートに一人暮らし。あと他には・・年下の恋人がいるみたいだね」
おっさんは、何もない空間に、まるで何かが書いてあるような素振りで、彼女のプロフィールを読んでいった。
朱美か、いい名前じゃん。・・・つか彼氏持ちか・・・。だから何だって事もないけど、ちょっとがっかり。
俺は心の中で、ため息をついた。
一方の朱美さんは、自分の記憶を一字一句聞き漏らすまいとしているのか、真剣な顔で、黙っておっさんを見ている。
「そして・・・っと、ここに来た理由が、えーっと・・・まあ、自殺だね」
自殺?今自殺って言った?
部屋の空気が緊張する。
おっさんは、黙って朱美さんの反応を伺っているみたいだ。
うーん、この沈黙。とても気まずいし、かける言葉も見つからない。
「・・・・はあ、そうですか」
当の本人は、ずいぶんとあっさりとそう答えた。
「なんというか、もしかしたらそうなのかな?とは思ってたんです」
椅子に深く座りなおしながら、朱美さんは続ける。
「ここがあの世の入り口っていう話もそうだし・・・、私が記憶をあえて消されているっていうのも、きっと思い出したら冷静にいられないような記憶、つまりショッキングな内容なのかなって・・・まるで他人ごとみたいですけどね」
本当に他人ごとのように冷静だ。表情は、むしろさっきより少し明るくさえ見える。
自分の記憶がないってのは、どんな気持ちなんだろう。
自分が自殺していても、記憶がなけりゃこんなくらいの反応になるんだろうか。
ん?そもそも自殺したら、自分の記憶がどうとかいう問題じゃねえよな。
そもそも、ここが夢の中って可能性も全然否定出来ねえし・・・。
「そう、だから記憶を忘れてもらってるんだ。その方がスムーズに話が出来るからね・・・うーん、でも驚いた。いくら記憶が無いとはいえ、こんなに冷静な人は珍しいよ。」
おっさんは、そう言いながら、安心したように少しほほえんだ。
この言いぶりからすると、ここには俺たちみたいな奴が、他にも来るんだろうか。
「まあね、ここに来るっていうのはむしろラッキーな事なんだよ。自殺にしろ事故にしろ、どっちみちまだ死んでない訳だからね。さあ、それじゃあ自己紹介も軽く済んだところで、アパートのお隣さん同士、仲良く頑張ってもらおうかな」
ん、お隣さん?それってどういう
「あっ・・・、まさか昨日の救急車・・・?」
アパートのゴミ出し、お隣さんとの挨拶、救急車のサイレン、運ばれる担架、深夜の静寂、冷たい牛乳。色々な情報の点が、その一瞬でぶわっと脳裏をかけめぐり、突然一直線につながった。衝撃、快感のようなものが俺の頭の中で電流となって駆け巡るのを感じた。
「あ、あんた、昨日救急車で運ばれただろ?102号室の・・・。ほら俺、隣の103に住んでる宮本っす!」
たまに挨拶くらいはしたことあるけど、今はメイクもしていないせいで・・・いやそれだけじゃない。何というか雰囲気がずいぶん違って、全然気がつかなかった。
この人、俺のお隣さんじゃん。
「はあ、どうも・・・」
朱美さんは、とても不安そうな表情を浮かべている。・・・あーしまった、この人記憶喪失だっけ。
「あーなんか、すいません・・・」
勝手に興奮している自分に、少し恥ずかしくなった。
「こちらこそ、思い出せなくてすいません。私の部屋、お隣だったんですか?」
そう言いながら、朱美さんはこっちを見る。なんか、ここに来て初めて顔をちゃんと合わせた気がする・・・やっぱ綺麗だなこの人。
「あ、はい、俺、昨日隣の部屋に救急車が来たんで落ち着かなくって・・・」
むしろ今の方が落ちつかねーけど。
「うんうん!これでお互いの事は大体分かったね。それじゃあ、場の空気もあったまったところで・・・スピードアップしていこっか」
更にアパートのお隣さんと話そうとする俺の言葉を遮るように、おっさんが割り込んできた。
神様を自称するくせに、空気が読めないというか、本当うっとうしいなこいつ。
なんて思ってる間に、おっさんが黙って右手をあげた。
そして、その手を今度はまっすぐに振り下ろす。
と次の瞬間、目の前が暗転した。
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呉 「自己投影されてて、すごく恥ずかしい」
(´自ω我) 「小説書くなら、ドMで当然っす!」