鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

オトシブミの揺籃づくりをマネしてみた

2011-06-01 06:46:38 | 日記
 去年は時期を逃してしまい、くやしい思いをしたオトシブミさがし。
今年は4月末からスタンばって観察しています。









新緑のなかのオトシブミ、ほんとに風情があって美しい。


 そもそもなんでこんなにオトシブミに夢中になってしまったのか、と考えてみると、
やっぱりこの本との出会いがあったからでした。


 ベストセラー『イモムシハンドブック』と同シリーズの『オトシブミ ハンドブック』
(文一総合出版刊 安田守、沢田佳久著)。
『本書は、野外でオトシブミやオトシブミが葉を巻いて作る揺籃に出会うための案内書、
出会った時の手引書である』という前書きからして明解でいいな。
そうそう、そういうのが欲しかったんです!と拍手したくなる。
今年は春先から、もうずっとこの本を熟読し、
揺籃の形などを脳みそにインプットしてきました。

 そして待ちきれずに4月後半からさがしはじめ。
4月29日には、まずヒメクロオトシブミを見ることができた。


 そして、ん、このオシリはもしや?


ヒメゴマダラオトシブミでした。

縞模様のある頭部、ぽこっと盛り上がる背部のふたつのコブがチャームポイント!

 しかしオトシブミはぶらさがっている揺籃の数のわりには、成虫の姿を見つけるのが
けっこう難しい。
 なので揺籃制作中のオトシブミを見つけて、その一部始終をカメラで記録する、というのは
野外ではなかなか難しい(ちょうどいいタイミングでも2時間くらいかかるらしいので)。
そこで
いつも行く公園の外の林縁で、採集をすることに。
すでに木にぶらさがっている揺籃と食草を採集して、
家で生まれた新成虫に交尾してもらい、
揺籃をつくるところを見せてもらおう、という計画です。

 オトシブミは日本にオトシブミ亜科21種とチョッキリ亜科9種がいるそうです。
『オトシブミ ハンドブック』では、
『オトシブミとは葉を巻く習性をもったゾウムシの総称として用いている』とあるので、
オトシブミもチョッキリもゾウムシの仲間なんですね。

 でも種によって揺籃づくりに用いる植物も違うし、形も違う。




驚くことに、チョッキリは揺籃から出た成熟した幼虫が一度土にもぐって蛹化し成虫として土から出てくるのに、
オトシブミ亜科のオトシブミは揺籃のなかで、卵、幼虫、蛹、成虫とすべてのステージを過ごして、
いきなり新成虫が揺籃から出てくるという。
へぇ~、なんて楽しみなんだろう。

 とういことで、ケヤキ、エノキ、エゴノキから20個の揺籃と、
ヒメゴマダラオトシブミ2頭を採集してきました。

 枝挿しにした植物を置き、2頭の成虫を入れてみましたが・・・・
全然交尾もしないし、葉も巻きません。
葉っぱだけが穴だらけになっていく。


どうも2頭ともオスだったみたい。
これはもう新成虫に期待するほかありませんね。

 オトシブミは揺籃内に卵が産み付けられてから、
3週間から1か月で成虫が出てくるというのですが、
採集して3週間目のある日、つぎつぎと(1日に9頭も!)、新成虫が出てきました。
全部ヒメゴマダラオトシブミでした。
これだけいれば、交尾して産卵、揺籃づくりをみせてくれるに違いありません。


 次の週にはエゴノキから採った揺籃から、
エゴツルクビオトシブミが1頭誕生しました。

つやつやの全身まっくろなオトシブミです。
頭部のすべっとした曲線が魅力的!
オスはもっと首が長いみたいなので、これはメスかな。

 ところで、葉の先にぶら下がる揺籃を見ているうちに、
この天性の折り紙職人の仕事をマネして、
揺籃がどうやってできるのか自分でもやってみたいと思い、
試すことにしました。

 折り紙は、けっこう好きです。
ときどきたまらなくやりたくなる。
紙を折っていく作業は情緒を安定させる作用があるような気がします。
手先もそれなりに器用だと思うし、オトシブミに負けない揺籃をつくることができるんじゃないか、と。
 で、ハンドブックにでている揺籃のつくり方のとおりに、やってみることにしました。

 エノキの枝に、お手本の揺籃がひとつついているのを選んで、その隣の葉をつかうことにします。

① 葉の付け根近くを、葉先から主脈まで切り目をいれる。
オトシブミのように口で噛み切ることは無理なので、ここはハサミで。


こんなふうに、折り始める前に葉の準備。

② 主脈を切り落とさない程度にちょっと傷をつけたら、さらに主脈にそって、切込みをいれる。主脈にキズをつけたことで、葉がちょっとシナっとしてくる。


 葉全体の主脈のちょっとわきを噛んで(ハサミで傷つけて)折りやすくする。
このなんでもないような工程には、ちゃんと理由がある。
主脈の真上じゃなくて、気持ち脇側、というところがポイント。
紙を重ねて巻いたことがある人はわかると思いますが、
巻いている内に、端がしだいにそろわなくなります。
端をそろえてきちっと巻き込めるように、
オトシブミははじめから、真ん中をちょっとずらして噛み傷をつけるのです。
うーん、かしいこい・・・・・・。

③ここまでできたら、後は巻いていくだけ、と思ったら大間違い。
巻きはじめの葉のなかに卵を産まなくちゃ。これが目的ですから。
でも私には産卵は無理なので、卵を仕込んだことにして、先に進みました。


⑤ 左側の端を折込みつつ、けっこうきちんと巻けています。いいかんじ~


⑥ふう・・・・・。巻き終りました。



⑦ ここからがポイント。
巻いたものがもどらないように、
残っている葉の上の部分をくるっと裏に反して留めます。

ん、けっこう難しい。

⑧ なんとかできた!・・・・・・かな?と手を離して、隣の本物と比べると


⑩ 巻き戻りはしないけど、かなり見劣りする。

「なにソレ?」って、オトシブミの奥さんに言われそう。

 途中まではよかったんだけど、こんなに難しいとは。
自分でやってみて、
改めてオトシブミの仕事のみごとさ、賢さ、ち密さがよくわかりました。
ましてオトシブミにとっては、一枚の葉は広くて分厚いじゅうたんのようなものでしょう。
いったいこんな小さな虫が、
どうやって、こんな風な円筒状に巻くきっちりした仕事をするのだろう、
といろいろ調べてみたら、You Tubeに、オトシブミの細かい作業中の体の使い方、
力の入れ方がよくわかる映像がありました。
http://www.videosurf.com/video/leaf-rolling-weevil-1296115990
全身の筋肉を使っています。

 ここまで書いてきて、ちょっと揺籃の容器を見たら、
うちでは初めてのゴマダラオトシブミが誕生していました。

『オトシブミ・ハンドブック』の表紙を飾っている、水玉もようのオトシブミです。

 どこか人がよさそうな表情といい、くっきりした背中のもようといい、見とれてしまいます。

肩にトゲのような突起がないので、オスのようです。

 揺籃から出てきた新成虫が交尾して揺籃をつくるのを見届けるまで、
 オトシブミ、チョッキリ観察、まだまだつづきそうです。

さて、かねてよりお知らせしていました6月4日のイベント
『虫愛ずる一日 in 京都』がいよいよ迫ってきました。
行こうと思っていたけど、まだ申込みしていなかった、
という方は、ぜひガケ書房さんへ!

ガケ書房さんのサイトhttp://www.h7.dion.ne.jp/~gakegake/
から予約できます。

 トーク後の、親睦会ランチと観察会は予約がいりませんので
自由に参加してください。

 私は観察会の下見もかねて、
6月3日から京都に行きます。
お天気もなんとかもちそうで
楽しみです。
すでに予想をうわまわる(?)申し込みをいただいているそうで、
この機会に、関西の虫好きのみなさまと
お会いできるのを心待ちにしています。

 そしてきょうは
『バニャーニャ物語』第5回目の更新日。
こちらもどうぞ、よろしく。

虫目歩きから生まれたファンタジー『バニャーニャ物語』へはここからどうぞ。


冒険の旅から帰ったジロの家で、
夜、あやしいもの音が。
その正体は?




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