トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

実名ブロガーと匿名ブロガー その①

2008-05-18 20:15:56 | マスコミ、ネット
 私も含め匿名が大半である日本のブロガーの中では異色だが、たまに実名や顔写真まで公開するブロガーも見かける。内容に問題がなければ実名、匿名問わず構わないと私は思うが、実名ブロガーにはそう思わない者もいるらしい。明治大学で講師を勤めたこともある会社社長・久米信行氏が、「実名でブログを書け」と若者たちに呼びかけているのをネットニュースで知った。

 そのニュースを見ると、久米氏は実名発信できない学生たちをビビリと揶揄の表現で呼び、実名で堂々とブログ発信して欲しいと結んでいる。講演会には久米氏の他にグーグルの及川卓也氏や時事通信編集委員の湯川鶴章氏も出席、及川氏に至っては、「米国では実名でブログ発信するのが常識であり、ネットで検索した時に名前が見つからないようでは、存在していないに等しい」とまで語っている。
 一連の発言は、私から言わせれば全くの無責任な放言としか思えない。企業家の久米氏のような人物は例外であり、彼のように会社を立ち上げ、成功する者はごく一部に過ぎない。及川氏の意見も、米国さえ全てが実名ブログという訳ではないくらい、米国事情に疎い私にも想像がつく。グーグルが天安門事件の情報を隠蔽するほど、中共には完全に“ビビリ”だったのを、ネットユーザーで知らぬ者はない。

 そもそも、法整備もロクにされてないネットでバカ正直に実名公開など、無謀以外の何者でもない。ネットとはある種、無法地帯のジャングル同然であり、社会的地位も何もない者が顔と名を曝すことなど、ジャングルを武器もなしに素っ裸で歩くに等しい。ジャングルは実に魅力的だが同時に危険性もあり、身を守る術も必要なのだ。特に女性の場合は、ネットトラブルに巻き込まれる確率が男性より高い傾向がある、と指摘する米国人ネットジャーナリストのコラムもあった。ネカマのような女に成り済ました男の書込みに対し、女と勘違いし積極的にアタックする男もいるのは、私も掲示板等で見ている。件の米国人ジャーナリストは、性を明かさないのは女性にとってトラブルを避ける手段のひとつだと提言していた。

 講演会に時事通信のような大手マスコミ重役も来ていたのは、実に意味深い。メディア側はネットを監視し、その匿名性を糾弾するのが恒例となった観がある。だが特ダネ情報源を実名で明かすメディアなど、果たして存在するのだろうか?匿名が認められぬなら、内部告発もビビってしまい不可能だ。情報源が秘密なのだから、マスコミの匿名性もネットと殆ど変わらない。これら出席者の顔ぶれから、実名ブログを若者に呼びかける目的に、かなり意図的なものを感じる。もし出席した学生の中に、彼らの意見に感銘を受け、実名を公開してアクシデントを招いたとしても、それを覚悟する度胸はあるのか?久米氏には所詮他人事だし、その対処法も挙げていない。

 匿名性を嫌う人気ブロガーもいる。『マスコミ情報操作撃退作戦・メディアリテラシー研究会』さんで、匿名で群れる日本社会を批判する池田信夫氏の記事を紹介されていた。他の人気ブロガー『ホームページをつくる人のネタ帳』さんも池田氏の匿名非難発言を取り上げており、氏に言わせれば「ウェブは“匿名の卑怯者”の楽園」となる。私のようなしがない弱小ブログにさえアラシが来るほどなので、まして超人気ブログなら、その種の卑怯者ならわらわら集まってくるだろう。だが、残念ながらそれがネットの世界なのだ。

 程度の差はあれ、人間はごく一部の例外を除き卑怯者である。正々堂々と成功を収めた者などいない。成功者も敗北者も生き残るためには、いつの時代も相手を利用する。組織の中では力関係で面従腹背(語源は中国語)は処世術のひとつであり、世渡りに狡知も時には欠かせない。所謂“ネットイナゴ”の大半は小心者であり、むしろ実社会では善人として通っているだろう。
 正真正銘の卑怯者とは、もっともらしい道徳を説きながら、内心は己の野心と欲望しか頭にない権力者集団なのだ。しかもこの連中は大衆を欺くのに長けているので、崇拝されることもしばしば。それに準じる卑怯者は彼らに奉仕する御用学者や文化人。この手の似非学者、文化人なら不足はしない。彼らに比べれば、数では圧倒的な“ネットイナゴ”の害悪など、取るに足りない。

 陰謀論めいてくるが、米国ではCIA工作員が世論誘導のため、一般市民ブロガーを装い情報発信しているとの噂もある。顔や実名を出したとしても、いくらでも他人に成り済ますことは可能だし、情報機関員ならその種の騙しは十八番だ。もし私がスパイなら、同じことを考え実行する。己の有利になり、敵が不利になる偽情報を流すのはスパイ業の鉄則。同じ状況が日本のブログでも言える。実名や顔写真を公開しても、果たしてそれが本当に本人なのか、見た人は確認する方法もない。池田氏と同じく私もgooブログを使っているが、身元審査は至って簡単、登録でも厳密なチェックもない。特に悪知恵がなくとも詐称も難しくないと思われる。
その②に続く

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ

最新の画像もっと見る