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トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

食卓の情景 その二

2013-10-13 20:40:17 | 読書/ノンフィクション

その一の続き
 池波正太郎が子供のころ最も好んだ食べ物は、「やはりカツレツ、シチュー、カレーライスなどで、それにポテトフライが好きであった」そうだ。さすが大正生まれの江戸っ子は好物もハイカラだ。今も肉屋で副業にしているコロッケやカツレツ、種々のフライなどの中に、ポテトフライがあり、子供が買いに行くと2銭から売ってくれ、この値段で10個くらいあったとか。「私は甘いものや煎餅を買うくらいなら、どんどん焼き(※お好み焼きの元祖)かポテトフライを買って来た」と言う。昭和一桁生まれの私の母も、未だにお好み焼きをどんどん焼きと呼んでいる。

 実は私も子供時代からポテトフライは好物。ファーストフード店で初めて食べたフライドポテトの美味しさに驚いた。既にポテチプ等のスナック菓子が出回っており、昭和48(1973)年当時なら一袋50円くらいだったと思う。煎餅は別だが、子供のころの私も甘いお菓子よりもお好み焼きやポテトフライを選んだ。小学校の近くにたこ焼きや焼きそばを売っている店があり、下校後の子供たちがよく買い食いしていた。

 著者が洋食を好んだのも母の影響があるはず。「母の好物」という章ではエッセイ執筆時に70歳になったとある。池波の母も東京生まれ、東京育ちなのに蕎麦をあまり好まず、天ぷらやウナギもそれほど食べたいとは思わなかったそうだ。母の好物は肉と寿司であり、特に後者は目がなかったという。
 池波の母は勤めが終わると、御徒町の寿司屋によく独りで行ったそうだ。家族を連れて行かなかったのは、それだけの余裕がなかったからだ。息子を1度も寿司屋に連れて行かなかったことをなじる池波に対し、母はこう言ったそうだ。
女独りで一家を背負っていたんだ。たまに好きなお寿司でも食べなくちゃあ、働けるもんじゃないよ。その頃の私は店でお寿司をつまむのが、唯ひとつの楽しみだったんだからね

 ちなみに私の母の好物は魚と寿司。天ぷらやウナギも好物である。母を評し、池波はこう述べている。
先ず、こうした訳で、大好物の寿司一皿を食べることによって、女独りが老母と子供たちを抱えて働くエネルギーも生まれてくる、ということになる。それほどに「食べる」ということは大切なものなのである。

「縁日」の章では、著者の子供時代の縁日の様子が描かれている。特に冬の夜の縁日は2~3日も前から楽しみにしていたという。子供時代に池波が住んでいたのは浅草・永住町101番地(現・元浅草)だったそうで、縁日の夜の屋台は夕暮れから並び始めた。それも10や20ではなく、道から道、細路から細路へ50も百も屋台店が並んでいたという。池波は縁日では何時もよりも母から小遣いを多く貰ったそうだが、多い時には20銭、少ない時は10銭だったとか。

 どんどん焼きの店はもちろん出ており、揚げたてドーナツのような店もあったそうだ。これは小麦粉に卵やら何やらを色々と混ぜ込み、一抱えもあるほどの塊にし、大きな練棒でよく練る。この粉の塊を一口大に千切り、油が煮え立つ大鍋に投げ込む。そしてからりと揚ったものに白砂糖をまぶし、紙袋に入れて売られていた。これを口にした池波は、「まるで、とろけちまいそう」に美味しかったと言っている。その代り値も高く、最低が5銭からだったという。

 どんどん焼きや揚げ菓子の他に池波が好んだのが、「肉フライ」だったそうだ。肉の細切れと小麦粉を丸め、串刺しにしパン粉をまぶして揚げたものを、金網を置いた箱の上へ出す。箱の側にはソースを満たしキャベツのみじん切りをたっぷり浮かせた大丼ぶりが置いてある。揚げたてを1銭で買い、丼ぶりのソースに付け込み出来るだけキャベツのみじん切りをフライの上にのせて引き上げて、食べたという。
 当時もミカン飴やべっこう飴、カルメ焼き、綿飴まで売られていたそうだ。しかし、このようなものを買うのは女の子であり、男の子は見向きもしなかったとか。

 私の子供時代の縁日の屋台でもお好み焼きやたこ焼き、ミカン飴や綿飴はあったが、揚げたてドーナツや「肉フライ」は見たことがない。並ぶ屋台も20もあったか。ある東北人が戦前に上京した際、東京では毎日が祭日と言った訳がようやく分かった。
その三に続く

◆関連記事:「肉食系女子の弁明

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (鳳山)
2013-10-13 20:53:36
池波氏はグルメとしても有名で小説でもそういう場面があったそうですね。
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鳳山さんへ (mugi)
2013-10-13 21:05:52
 仰る通り、池波氏は食通で知られ、それが小説にも活かされています。代表作『鬼平犯科帳』『剣客商売』では食事シーンがよくあり、どれも美味しそうなメニューばかりでした。
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