トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

かもめ食堂 05/日 荻上直子監督

2007-11-13 21:49:18 | 映画
 遅ればせながら、ヒットしたこの邦画を見た。人気女優が登場するのでもなく、スローテンポな展開で地味な内容ながら、思いのほか佳作だった。この映画をご覧になられて、おにぎりが無性に食べたくなった方も少なくないだろう。

 主人公の日本女性サチエはフィンランド、ヘルシンキの街角で小さな食堂をオープンする。店名はこの映画の題である「かもめ食堂」。冒頭のサチエの台詞に「フィンランドのかもめは大きい」とあるが、確かに日本の同種より肥えているように見えた。何故だろう。
 小柄な東洋人女性の経営する食堂を町の人は好奇の眼で覗くものの、開店1月が過ぎても客は一人も来なかった。これで経営は成り立つのか、その間の生計はどうしていたのか、追及すれば映画は成立しない。それでもサチエは気長に客を待ち続ける。

 やっと初めての客がかもめ食堂に来る。第一号客は日本かぶれの青年トンミ。日本に留学したこともあり、日本語に流暢な彼はニャロメの絵柄が印刷されたTシャツ姿で入店する。日本アニメが大好きなトンミはさらに「ガッチャマン」の歌詞をサチエに聞くものの、出だししか思い出せない彼女だった。
 続きが気になって仕方ないサチエはその後、カフェで偶然「ムーミン」の本を見ていた日本女性ミドリに出会う。ミドリは地球儀を回してから指に当てた場所がたまたまフィンランドだったので、この国に来たという。ミドリに会ったお陰で、「ガッチャマン」の歌詞を最後まで教えられたサチエ。ミドリもかもめ食堂で働くことになるが、相も変わらず客は日本かぶれの青年一人だけだった。

 サチエがかもめ食堂で出すメインメニューは当然日本食であり、もっと現地人の好みに合うような食事を出した方がいいと提案するミドリの意見には反対だった。それでもシナモン・ロールを焼いたところ、いつも店を覗いていた3人組のおばさんたちがようやく客として店に入る。コーヒーとシナモン・ロールに満足して帰る最初の町の女性客だった。
 その後やって来た、どこかうらぶれた中年男の客からおいしいコーヒーの入れ方を教わるサチエ。挽いたコーヒー豆に人差し指を入れ、呪文を唱える一種のおまじないだが、これでいれたコーヒーは誰もが美味いと言うほど。

 フィンランドに旅行で来るも、空港で荷物が紛失、仕方なくかもめ食堂に身を寄せた日本女性マサコ。彼女もここで働くようになり、食堂も空気が変わってくる。店内はこじんまりとしているが、整理整頓、清潔を絵に描いたような店だった。
 サチエは食堂でおにぎりも出す。映画で見たおにぎりはどれも美味しそうで、唾を呑む。サチエがおにぎりが美味しいのは、他人が握ったからと言う。どうりで、自分でおにぎりを作っても、悔しいことにコンビニやデパ地下のそれに敵わないのか。おにぎりを美味しく出来るお呪いがあったら是非知りたい。

 特に劇的な展開や盛り上がりがある訳でもなく、最後はかもめ食堂は目出度く満員となるというストーリー。何とも不思議な雰囲気の映画だった。かもめ食堂で働く3人の女たちを演じるのが、小林聡美(サチエ)、片桐はいり(ミドリ)、もたいまさこ(マサコ)。この3人の女優だけで存在感がある。映画で見たフィンランドの町はとても美しい。フィンランドは案外日本では知られていない国ではないか。冷戦時代に所謂「フィンランド化」との言葉があり、昭和54(1984)年、中曽根康弘・元首相が「フィンランドはソ連の属国」呼ばわりして抗議を受けたことも。もしかすると、米国または中国の属国を意味する「日本化」という言葉もあるかもしれない。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (いとまさ)
2007-11-15 12:15:26
面白そうな映画を紹介頂きまして、ありがとうございます。
早速見てみます。
楽しみです。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-11-15 21:39:55
>いとまささん

私も何となく「かもめ食堂」の題が面白いと思い、某レンタルチェーン店でDVDを借りて見たのですが、予想以上の佳作でした。
地味ながら大人が鑑賞して楽しめる映画自体、少ないですよね。
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脱線すぎて、削除対象ですね(汗) (Mars)
2007-11-17 20:50:32
こんばんは、mugi大提督。

おにぎりに限らず、料理を美味しく出来る「お呪い」といえば愛情でしょうか??
そして、料理を美味しくさせる最大の「お呪い」は空腹でしょうか(空腹過ぎると、かなりヤバいそうですが)。
戦国末期、時の権力者、秀吉にとっての最大の美食は、貧しい時に食した麦飯だったとか。
割り粥(米を砕いた粥)も好きだったそうですが、無くても用意しようとした僧侶に対し、複雑の念を得たそうです。

ところで、mugiさんは料理は得意でしょうか?
私は、からっきりだめですので、魚もお店の方に、三枚におろしていただくのですが(汗)。
それでも、カワハギの肝醤油は、なかなかいけてますね。

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美食は生き甲斐 (mugi)
2007-11-18 20:40:29
こんばんは、Mars大元帥。

秀吉は権力をとった後、貧しかった頃への埋め合わせと言わんばかりに美食しましたね。
そんな彼でも、貧困時代の粗食を懐かしんでいたのは面白いです。人間の食の好みは幼少期に形成されるとか。
私は割り粥は食したことはありませんが、お粥は朝食に食べたいと思っても、時間的に難しい。特に飲酒後などにお粥は最高です。

料理下手ではないと思いますが、上手と自賛出来るほどの腕前なのか、難しいですね。
私自身も魚の三枚おろしはダメなので、ムニエルやたった揚げに便利だから、スーパーなどでおろされた魚を買う有様です。
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