トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

現代インドを知るための60章 その三

2014-09-04 21:10:16 | 読書/ノンフィクション

その一その二の続き
 現代インドの国内問題で興味深かったのが、38章「人口増加率・識字率・男女比の地域差が示すもの」。副題には「縮まらない地域差」とあり、いかに経済成長が著しくとも、インドが未だに激しい格差社会なのは変わりない。1991年と2001年と少し古いが、各州毎の人口増加率・識字率・男女比のデータが挙げられており、ここからもインド社会の特徴が見えてくる。

 インドの人口は増大しているが、それでもかつての2%台から2001年には1.97%に落ちた。さらに州別にみるとばらつきが大きい。例えば北部の増加率はそれほど高くはなく微増や横ばいといった州が多いが、中央部や西部の州は全国平均を上回っている。最も増加率が高いのは、北部のハリヤーナー州ラージャスターン州の2.5%。
 これらとは対照的に南部四州は全国平均をかなり低いのだ。南部州では長期の海外出稼ぎ者が多いことも背景にあろうが、ケーララ州に至っては人口増加率は0.9%。尤も人口増加率がマイナスになっている国から見れば、それでも驚きの数値だ。

 識字率は2001年時点では全国平均が男性は75.3%、女性は53.7%である。十年以上も経た現代ではもっと向上していると思われるが、こちらも州による格差が大きい。富裕州と貧困州の対比は識字率にも表れており、貧困州の識字率は総じて低い。ただし、この相関関係は絶対ではなく、ケーララや北東部諸州など、富裕とは言えない州が高識字率を達成している。
 ちなみに識字率のトップはケーララ州で、2001年で男94.2、女87.9%とダントツ。そして最下位はビハール州。同年でも男59.7%、女は実に33.1%という惨状。ブッダガヤなどの仏教の聖地があり、古代には栄えた地は現代では貧困州のひとつになっている。

 識字率格差については、イギリス支配時代の宣教活動に伴う教育の普及など、州の歴史的環境と識字教育の在り方が数値に反映しているとされる。ケーララ州はクリスチャンの多い処でもある。そして経済力と識字率の関係では、指定カースト(いわゆる不可触民)と指定部族(先住少数民族)の識字率が、いずれの州でも平均識字率よりも遥かに低いという。
 また、男女の識字率の差だが、どの州でも男性の識字率が女性のそれを上回っているが、高識字率の州の男女比の開きは低識字率の男女比よりも小さい。高識字率の州は概ね、男児ばかりか女児の教育にも熱心なのだろう。

 女ということもあり、私はインドの男女比の地域差が気になった。一般に国の経済水準が上がると女性人口が男性人口を上回るが、インドではケーララ州を除き全ての州で女性人口が男性人口を下回っている。男女人口は不均衡で、多くの州では男女人口の差が広がっている。2001年の男女比で、男性千人に対する女性人口の全国平均は933人。ケーララだけは1,058人だが、次いで女性人口の多いチャッティースガル州でも990人。最下位はデリー首都圏の821人。下から2番目のパンジャーブ州の874人。さらにデリー首都圏、パンジャーブ州ともに1991年に比べ男女比が拡大している。平たく言えば、女の占める人口が少なくなったということ。

 デリー首都圏やパンジャーブ州は他州からの出稼ぎ者の人口移動という事情もあり、これが男性過剰となっている。江戸時代の江戸も男が多い処だった。ただ、インドの男女比はそれだけではない不自然さであり、「消える女性」とも称されている。この男女比は男児優遇の社会意識と深く結びついており、それにダヘーズ(英語:ダウリー、持参金制度)が拍車をかける。男女比が大きいのは貧困州ばかりか、富裕州でも見られ、伝統的社会意識が強いとされる地方での男女比拡大に繋がっている。

 女児間引きは昔からインドで行われていたが、科学技術の進歩は胎児の性別判定を可能とする。1980年代頃に超音波診断が普及し始め、女児と判明するや中絶するケースが急増した。特に上位婚を好む北インド諸地域では、女児の出生率は以前にも増して低下しているという。
 1994年、ついにインドで胎児の性別判定は違法とされた。だが、高い謝礼を支払ってでも性別判定を求める人々、謝礼目当てに法を犯す医師は後を絶たないらしい。女児が成長、結婚時に支払うダウリーを思えば、非合法な性別判定の方が安くつくからだ。インドの雑誌には堂々と胎児の性別判定を売りにしている広告まであり、「今は○ルピー、10年後は○ルピー」と値段を明記したコピーまでついているそうだ。
その四に続く

◆関連記事:「持参金制度のある国、そうでない国

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る