ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評など】山田風太郎『同日同刻』/難波先生より

2015-09-22 09:07:23 | 難波紘二先生
【書評など】
1)エフロブ「買いたい新書」の書評にNo.287:山田風太郎『同日同刻』(ちくま文庫)を取りあげました。
 本書は太平洋戦争「最初の一日」(12月8日)と「最後の十五日」(8月1〜15日)に,どこで誰が何をしていたかを克明に記述したもので,すべて膨大な原資料からの引用からなる。引用資料(すべて公刊)は386篇に上る。なまじの「昭和史研究家」など及びもつかない数である。著者の価値判断は避け,自然科学論文と同様に淡々と事実を再構成している。記述を支えるのは脚注に示されている引用文献だ。
 「日本のいちばん長い日」というノンフィクションと映画が評判になっている。この原作は大宅壮一名義の同名書として1965年に出版され,67年に岡本喜八監督により映画にもなりヒットした。映画では8月14日,首相官邸に海軍軍令部次長大西滝治郎が押しかけてきて「あと2000万人特攻を出せば,この戦争に勝てる!」と絶叫する場面があった。名義を半藤一利に変えた『決定版・日本のいちばん長い日』(文春文庫,2006/7)では,内閣秘書官長迫水久常の手記にある,この発言が抜けている。『同日同刻』は,日本軍部がいかに国民の生命を軽視していたかを示す,この発言をちゃんと採録している。
 「最初の一日」は1941年12月8日の午前0時から始まり,同時刻に日米双方とも,どこで誰が何をしていたかを1時間刻みで記述する。7時18分の大本営発表「帝国は米英と戦闘状態に入れり」の臨時ニュースの後,国民がいかに熱狂に包まれたかも多くの民間資料から示す。午前1時,ハワイ沖の日本機動部隊から攻撃機が発進を始めた。ワシントンではまだ日本大使館が最後通牒の暗号解読・タイプ作業をしていた。午前3時,日本海軍機がパールハーバーを襲ったが,最後通牒はまだ米政府に渡されていなかったので「騙し討ち」になった。
 開戦の臨時ニュースを知り,旧制広島高校の英語の授業中に廊下に飛び出し「万歳!」と叫んだ教師が,あの広島原爆慰霊碑の碑文を書いた広島大教授雑賀忠義であること,正午の「玉音放送」の後,午後4時,宇垣纏(まとめ)海軍中将が率いる9機の編隊が,大分空港を飛び立ち沖縄めざして最後の特攻を行ったこともちゃんと書き込まれている。歴史の追体験は難しい。これは太平洋戦争とは何だったのかを理解する上で,最良の一書と言える。(以下はこちらで)
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1442070317

2)献本など
★「凡人社」から、(独立行政法人)日本学生支援機構『平成27年度日本留学試験(第1回)試験問題(CD付)』のご恵送があった。お礼申し上げます。
 アマゾンで「日本留学試験問題集」で検索すると出てくる。(アマゾンのURLは長すぎるので、リンクするのを中止した。)
 なぜこういうものが送られてきたかというと、岩波から出した『大学新入生に薦める101冊の本』の中の「本の買い方選び方」という文章の一部が試験問題に採択されたからだ。去年はある私大から『覚悟としての死生学』(文春新書)中の文章を試験問題に使いたいという許諾請求があった。理系の私の文章が「国語」の問題に使われるというのが面白い。
 米国留学ではTOEFLとかTOEICというのが問題になるが、今や日本でもEJU(Examination for Japanese University Admission for International Students:国際留学生の日本の大学入学試験)というのが今年からやっと始まったようだ。
 試験問題は(目次が左頁になっているが)、日本語、理科(物理、化学、生物)、数学が日本語問題と英語問題に分かれて収録されている。問題は結構高度で、「理科45の設問10」など、体液性免疫の仕組みと免疫グロブリンの分子構造を知らないと解けない。(免疫学に無知な小保方晴子には解けない問題だろう。)
 この問題集を作るのは第1回だから大変だったろうと思う。少しでも貢献できて嬉しい。
★ ★「医薬経済」9/15号のご恵送を受けた。お礼申しあげます。
 本号でも、昌原清植「白血病になった社長:患者になって気付いたMRの課題」No.11を真っ先に読んだ。「4段組1ページ」なのが惜しい。見開きで読めるようにならないものか…。この人の文章には描写力と説明力があり、まるで病床に立ち会っているような想いにとらわれる。
 「<身贔屓>が引き起こす無責任体制:後発品と東京五輪迷走の<共通点>」という記事では、安冨歩『原発危機と「東大法話」』が引用されていた。この本は東大系「御用学者」の話法を研究したもので、「買いたい新書」でも書評に取りあげたように思う。
★★★宇和島の近藤俊文先生から『日本の腎臓病患者に夜明けを:透析ガラパゴス島からの脱出』(創風社、2015/8、2200円)のご恵送を受けた。出版おめでとうございます。献本に感謝いたします。
 帯に「移植か透析か:移植医療の史的基盤と提言」とあるように、CKD(Chronic Kidney Disease=慢性腎臓病)を巡る医療の歴史をひもとき、その治療として人工腎臓と腎移植が開発されたが、日本では和田心臓移植の結果、「脳死臓器提供」に対する社会的信頼が回復せず、CKDの治療法として人工透析が主体という「医療ガラパゴス島」になり、奇形的な進化を遂げたということを、豊富な図表と珍しい写真を駆使して解説されている。
 本文297ページ、豊富な文献が章末に付いており、さらに付章「移植で透析費用はいくらぐらい節約できるのか」(数学者との共著, 14頁)、「目をおおいたくなるほど立ちおくれてしまった(日本の)移植インフラ」を改革するための「提言」(全7頁)がついており、これとは別に詳細な「主要文献索引」「人名索引」「事項索引」が「文脈索引」として付いている。さらに英語略語の解説(グロッサリ)があり、これらが25頁にわたっている。(全体で342頁)。これだけ読者に便宜を図った本は、ざらにはない。表紙のPDF画像を示す(写真1)
(写真1)
 帯の裏に「臓器移植にかかわる医療関係者、行政関係者、研究者、移植希望患者、さらにメディア関係者、一般読書人に必読の書として推薦したい」と書いたが、真情である。
 「道新」、「週刊新潮」、「東洋経済オンライン」がすでに書評を掲載したが、他のメディアも大いに書評で取り上げてもらいたいものだ。
 本書は人工透析・腎移植問題の「必読文献リスト」に含まれるだろう。謹呈のしおりに「わが人生の卒論です」とあり、本自体は「日本の慢性腎不全医療を開拓された故太田和夫先生」に捧げられているが、トライアスロンで鍛えた身体だ、そう早く太田先生に会いに行ってもらっては困る。
 「終わりよければ全てよし」という言葉がある。もう折り返し点はすぎて、はるか向こうにハッピーエンドの結末が見えてきた。これで私の『第三の移植』原稿も終章の「大団円」が書ける。そしたら出版できるだろう。
 近藤先生にも、もう少し達者でいてもらいたいものだ。太田先生は「修復腎移植」を内心では支持しておられた。ひとつ冥途の土産話に「修復腎移植、日本でも保険適用に」という話をもって行ってもらえるように、ご健在を祈りたい。
 <付記=「人工透析・腎移植・修復腎移植」の基礎文献約50点のエクセル・リストを作成しました。一部の方にはすでにお送りしましたが、希望者には無料でお送りしますので、折り返しメール返信モードでお申し込み下さい。各項に読書メモの記入と、一部には元文献へのURLリンクが貼ってあり、原著をすぐに読めます。>
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