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ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【翻訳】難波先生より

2013-03-15 12:10:46 | 難波紘二先生
【翻訳】みすず書房の宣伝紙「パブリッシャーズ・レビュー」の最新号の帯封を切ってみたら、「東大出版会・白水社・みすず書房のPR紙」となっていた。「出版不況」で、3社がPR紙を一本化したのかと思ったが、載っているのはみすずの本ばかりで、一面下に国書刊行会、人文書院、築地書館の書籍広告が載っている。


 一面ほぼ全部を使って、瀬名秀明がA. ペントランド『正直シグナル(Honest Signals)』というMITの認知工学研究者が書いた訳書の紹介をしている。文章が下手である。もともと瀬名は東北大学薬学部の大学院生だか助手だかの時に、「ミトコンドリアDNAの一部が核に移行している」という事実を誤解して、『パラサイト・イブ』というけったいなSFを書き、たまたま世の中に「パラサイト・シングル」という言葉が流行していたので、小説が売れ映画にもなっただけの人だ。その点Aiだけが売り物の海堂尊に似ている。


 ただ、瀬名は気づいていないが、訳者の柴田裕之は、ジュリアン・ジェーンズ『神々の沈黙:意識の誕生と文明の興亡』(紀伊国屋書店, 2005)、コリン・タッジ『ザ・リンク:ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見』(早川書房)、D. T. マックス『眠れない一族』(紀伊國屋書店)、T. ノーラットランダーシュ『ユーザー・イリュージョン』などの翻訳があり、選書と翻訳の能力において傑出した人である。訳書を見ると、金もうけの訳業ではなく、「意識と自己意識」の問題を一貫して追及している人だということがわかる。アメリカの心理学者Jurian Janesはアメリカ人でも知る人が少ない、天才的な学者だった。柴田がそれを知ったのはPeter Watson「Modern Mind: Intellectual History of The Twentieth Century」(邦訳なし)によってだったと思われる。


 「翻訳」という作業は「機械翻訳」とは違う。辞書を引けばよいというものではない。著者の「こころ」にまで入り込んで、いいたいことを理解し、それを適切な日本語で表現しないといけない。人名、地名の固有名詞は、執筆された時代と現代では変わっていることもある。例えば英国ではサーとかロードの称号を受けると、初めから名称が変わる。そのまま訳せば日本では通じなくなる。1920年代にはクリスチャニアという都市があった。今のオスロである。ロシア革命以前に「レニングラード」という都市はなく、ソ連崩壊後には元のペテルブルグになった。スターリングラードは一時ボルゴグラードだったが、また復活する。


 外国人名の現地語表記と英語表記は異なる。日本語はそこのところの、表記原則が確立していない。ギリシア語のプラトンは英語でプレイトー、アリストテレスはアリストートル、アレクサンドロスはアレキサンダーとなる。ラテン語のカエサルはシーザーだ。ギリシア語学者は最後の母音は長音化するからと、「プラトーン」、「アリストテレース」などと表記している。迷惑することはなはだしい。「国語審議会」は外国語固有名詞表記の一元化をやるべきだ。医学用語はそうしている。

 これまでM.ローズ『死者の護民官』、E.R.ロング『病理学の歴史』の2冊を翻訳したが、一番苦労したのが人名、地名のチェック、掲載された参考文献の邦訳書の有無と索引の作成だった。私は原本の索引語はすべて残すが、日本語読者のためにあらたに索引語を付け加える。
 原本には索引がかならずあるが、日本では二流出版社はこれをカットして出す。困ったことだ。


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