ある宇和島市議会議員のトレーニング

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【空前の論文捏造】難波先生より

2014-03-06 12:48:14 | 難波紘二先生
【空前の論文捏造】これにはベル研究所の「シェーン事件」(2002)とソウル大学黄禹錫教授の「ES細胞論文捏造事件」(2005)がある。前者は「高温超伝導」の世界的な研究競争の過程で生じたものである。「ES細胞事件」の方が、今回の事件に実験方法が近いが、信頼のおける資料が少ないため、「シェーン事件」を取り上げる。
 (李成桂「国家を騙した科学者」, 牧野出版, 2006は韓国「東亜日報」記者によるもので、取材も解説も不十分である。「シェーン事件」については、村松秀「論文捏造」,中公新書ラクレ, 2006 を主に参考にした。)
 また「シェーン事件」ではベル研究所は調査に信頼性を持たすために、内部委員は名目的で、実質的に外部委員に調査を委ねた。「小保方事件」の処理にあたり、この調査方法から学ぶべき点が多い。

 中心人物のヤン・ヘンドリック・シェーンはベル研究所の研究員として4年間に63本の論文を「ネイチャー」、「サイエンス」など一流科学誌に発表、高温超伝導の知見を塗り替え、「ノーベル賞に最も近い男」と言われていた。世界中の研究者が、彼の実験追試に追われ、膨大な研究費と時間が費やされた。
 彼は環状炭素(フラレーン)に真空蒸着法により酸化アルミの薄い被膜をつくると、高温超伝導が52K(- 221℃)と従来の33K(-240℃)の記録を上まわる、高い温度で超伝導が起こることを「ネイチャー」(2000/4)に報告した。さらに2001/9には、「サイエンス」にこの温度を117K(-156℃)まで高めることができたと報告し、「常温超伝導も夢ではない」という期待をメディアや一般市民に抱かせた。

 シェーンは1970年北西ドイツ・フェルデンの町に生れ、オーストリアの高校を卒業し、スイス国境に近いコンスタンツにあるコンスタンツ大学で物理学を学んだ。学部と大学院で合計9年を送り、97年に博士号を取得している。
 その頃、米ニュージャジー州マレーヒルにあるベル研究所では、高温超伝導の研究をしていたバトログが、これまでの実験に使用した銅酸化物では、33Kより高い温度での超伝導は起こせないことを知り、「有機物結晶の上に、他の金属薄膜を形成し、トランジスターにする」という、研究方針の変換を図っていた。
 偶々、指導教官のE.ブッファーがベル研究所の研究員を兼ねていたこともあり、話がシェーンのところに行き、学位を得たばかりのシェーンは1998年、ベル研究所に職をえた。
 その後、2002年9月にベル研究所を懲戒解雇されるまで、シェーンは「有機結晶としてフルオレーンを用い、表面に酸化アルミ薄膜を形成すると、高温超伝導現象が起こる」と主張して、バトログの学説を支持する実験データを次々と生みだし、高温超伝導の記録を更新した。

 ただ問題があった。誰も真空蒸着装置を用いて、シェーンのいう「酸化アルミ薄膜」を作れなかった。つまり実験に再現性がなかった。シェーンは多数の研究者の申し入れがあったにもかかわらず、彼が作ったサンプルの分与を拒否した。真空蒸着装置の見学については、「実験はコンスタンツ大学の装置を用いて、薄膜を作成している」として、これも拒否した。

 2002年3月、まだ31歳のシェーンはドイツ・シュトゥットガルトにある「マックス・プランク研究所」の共同所長に内定した。
 その頃、プリンストン大学の物理学者L.ゾーンの留守電に、ベル研究所の若手研究者から「去年、サイエンスとネイチャーに載ったシェーン論文を比較せよ」というメッセージが寄せられた。調べると二つの論文には同じグラフが、少し変えただけで、使い回しされていた。
 同僚のP.マキューエン教授に連絡し、手分けして過去のシェーン論文を調べたところ、同じ図はさらに前にも使い回しされていた。他にも捏造の証拠が多数見つかった。二人はシェーンの捏造について、ベル研究所、雑誌編集部、ベル研究所のバトログとシェーンに対して告発を行った。
 告発を受けて、ベル研究所は「調査委員会」を発足させた。委員長と他に3名が外部委員で、内部委員は半年前に内部告発をしていたモンロー博士だった。
 委員会はまず声明を発し、シェーン論文について、「ゾーンとマキューエン告発」以外の告発も受け付けるという告知を行った。これにより24本のシェーン論文が告発された。疑惑論文はまだあったが、告発された論文の多さに委員会は1ヶ月で受理を締め切った。

 最初に見つかった2論文におけるグラフの使い回しについては、シェーンは「単純ミス」と主張し、サイエンス掲載論文について図の訂正申し入れと謝罪を行った。(実際には同じ図が縮尺を変え、縦軸の数値を変えてあり、単なる「単純ミス」ではなく意図的な改ざんである。)

 調査委員会はシェーンだけでなく、論文の共著者についても面接調査を行った。その結果あきらかになったことは、ボスのバトログを含め誰一人、シェーンの実験に立ち会ったものがおらず、実験の生データを見た人もいない、という事実だった。バトログはいつもシェーンに出来上がった表かグラフを見せられていた。
 シェーンに対する面接では、実験ノートがない、実験サンプルも残っていない、という衝撃的事態が明らかになった。さらに、「見栄えが良くなるから」、「その方が、話が面白くなるから」と理論値に合わせてデータのトリミングを行ったことを認めた。
 委員会は、シェーンの論文不正疑惑を以下の3つのカテゴリーに分けた。
① 同じデータをいろいろなグラフに使い回したり、数値を少し変えて別グラフにして使用したもの。
② 理論的に予測される数値に合わせて、測定値をそれらしく作り出していたもの。
③ 今となってはシェーンにもちゃんとした説明がつかないもの。

 以上の所見に基づいて、調査委員会は告発された24本の論文のうち、16論文に捏造があったと判定し、2002年9月25日、シェーンの弁明を含む127頁の調査報告書を公表し、シェーンの行為を断罪した。ベル研究所は即日彼を懲戒解雇した。
 雑誌「ネイチャー」と「サイエンス」は、両誌が掲載したシェーンの論文すべてを「共著者全員の同意に基づき」撤回すると表明した。

 こういう常習的捏造者の場合、大学院時代の論文についても調査するのが当たり前である。コンスタンツ大学が調査委員会を立ち上げ、約30篇の論文を調査したところ、ベル研と同じように、実験記録がないこと、グラフの使い回し、グラフの見栄えを良くするようなデータのトリミングが確認された。捏造の程度は軽いが、質的に同じことがすでに大学院生の時に始まっていた。
 コンスタンツ大学の報告書は、シェーンを「捏造者」とは決めつけなかったが、大学は彼に授与した博士号を取り消した。
 シェーンはドイツ語で「美しい」という意味だが、何とも美しくない行為に走ったものだ。シェーンは南ドイツに帰ったとされるが、詳細は不明である。

 シェーンの人物像については、断片的な証言しかない。
 「とても親切で、付き合いやすい人。知識が豊富だが、ひけらかすところがない控えめな人物。みんなから好かれていたが、特に親しい友人はいなかった。誠実で正直な人だった」(高校の同級生)
 「とても感じのよい人物。人付き合いもよかった。親切で実験をいろいろ手伝ってくれた。嘘などつく人ではない。彼の誠実さに疑いを抱くことなどまったくなかった。」(同じラボの1級先輩)
 「すぐに受ける印象は物静かで、真面目なタイプ。派手な印象とか、変な印象は全くない。物静かな好青年。夜遅くまで一人で仕事していた。」(ベル研究所の元同僚)

 親切で付き合いやすく、真面目で正直で、勉強熱心で物静かな青年。およそ論文捏造するような人物とはかけ離れたイメージだ。
 が、これらは傑出した常習詐欺師の一般的特徴でもある。こういう外見的性質を備えているから、長年にわたり「論文捏造」を繰り返してもなかなかバレないのである。つまり「自然選択」の法則は科学者とその不正の世界にも当てはまる。花形の研究分野には多くの若い研究者が殺到するので、そこに「生存競争」が起きる。
 (ノーベル賞は同じテーマに関しては二度と出ないので、本当に頭がよく野心的な学生は、山中が受賞したら、もう幹細胞研究からは立ち去る。)
 また、研究は才能や実力だけでは決まらない。セレンディピティつまり「運」も左右する。
 競争は激しい。目立つ論文を発表しなければいけない。そこで、つい捏造データや他人の論文からの盗用で、論文を書く研究者も出てくる。が、多くは周囲から不自然さを指摘され、初期のうちにアウトになる。
 注目されない論文なら気づかれないで、そのままになるかも知れないが、大発見の論文なら厳しい眼も注がれる。この段階で、調査が過去にさかのぼると、すでに早期から捏造していたことが、見つかるわけである。
 こうして、「常習的捏造者は発見されにくく、発作的捏造者は発見されやすい」という法則が成立する。

 安倍首相は「日本型NIHを」とぶち上げたが、アメリカのNIHは70年の歴史を持っている。しかも1980年代の論文捏造の多発に対処するため「研究公正局(ORI)」を設置して、研究不正に厳罰で臨む方針を明らかにしている。
 多額の国費を科学研究費として投入するのなら、その適正な使用と効果的な使用をチェックし、研究不正が生じないようなシステムを同時に構築すべきだろう。似たような事件が次々と起こり、メディアを騒がせているのを見るにつけ、胸が痛む。
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