この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#45 出淵博著作集1「イェイツとの対話」

2005年03月20日 | 英米文学
この本は私の懐かしき本というよりは、私の懐かしい人の本である。出淵博氏。あふれる才能の持ち主であり、全てのまわりの人に対してあくまでも心優しい男は1999年7月23日に64歳で惜しまれながら他界した。東京大学の教授を退官した後、成蹊大学英文学科の教授として教鞭をとり、研究の最後の仕上げをしていた彼は病を得て世を去った。

出渕博著作集は英文学会の彼の同僚や後輩の英文学者の手によって彼の多くの著作から選ばれ、まとめられ、彼の死後出版されたとのことである。2冊にまとめられており、2段組印刷で337ページある1冊目は2000年8月10日、434ページある2冊目は2001年1月にみすず書房から発行されている。

私はこの本を、彼と同じく著名な英文学者である敬子夫人から頂いた。

表紙の帯にはこう書いてある。
「詩作品の精緻な分析から「ひとつの幻想」のユニークな解読へ、またシェイクスピアやブレイク、ネルヴァル、マラルメとの関係など。著者積年のライフワークを初めて集大成した、待望の一巻。」

英文学での彼の業績の偉大さについては、英文学という学問にうとい私には十分理解できていないが、20歳から22歳にかけて学生寮の同室で彼の息遣いを感じながら一緒に生活した私には、解らないながらも彼が書いた文章を読んでいるだけで、懐かしくまた厳粛な気持ちになる。

私が1月25日のこのブログ「懐かしき本たちよ!」の#9ニーチェ著「ツアラトストラはかく語りき」で書いた、レクラム文庫の原書を一緒に二人で読むこと(私たちはゼミと呼んでいた。)に同意してくれたのは、彼である。そのころ「曲がりかけていた」私を兄のようにそれとなくたしなめようとして一緒にニーチェを読むのに同意してくれたのではないかと後で思ったのは、ブログに書いたとおりだ。

彼は、東京大学の教養学部でも長い間教鞭をとっていたので、英文学を専門とする人に限らず、彼の
教えを受け、彼の鋭い感受性と正しさを求める断固とした態度とあくまでも温かい人柄に接して懐かしい思い出を持っている人達は各方面に多いことであろう。

私はこの著作集を時々本棚から大切に取り出して珠玉の一つ一つを自分の手で触れて確かめるような気持ちで読んでいる。

出渕博著作集1「イェイツとの対話」みすず書房刊 2000年8月10日発行 337ページ



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