ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future 2012 [平山素子振付によるトリプル・ビル] 2012年4月21日/22日

2012年04月27日 | Weblog

Nさんから寄稿頂きました。
新国立劇場バレエ団によるDANCE to the Future 2012をご覧になったとのこと。
コンテンポラリーダンスですが、平山素子さん振付作品3本立ての
大変面白い企画。
写真は会場入口のポスターでこの3本の作品の出演者にて録ったものだそうです。

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新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future 2012
[平山素子振付によるトリプル・ビル] 2012年4月21日/22日

新国立劇場バレエ団のダンサー達がコンテンポラリーダンスに挑む
企画の第3弾に足を運んだ。
平山素子さんの作品の鑑賞も初めてで楽しみにしていたが、
予想以上に見応えある作品ばかりであった。

「Ag+G」
音楽:笠松泰洋「『Ag+G』for two violins」より、落合敏行
振付補佐:高原伸子

湯川麻美子 寺田亜沙子 益田裕子 奥田花純 五月女 遥
八幡顕光(21日)/福田圭吾(22日)
貝川鐡夫 古川和則 原 健太 八木 進

プログラムによれば特にストーリーは無く、
銀という物質が持つ特性からイメージして振り付けた作品であるという。
下を這うような重々しく抑えられた振付から
相反するエネルギーが発散され、その対比が面白い。
バレエダンサーならではの長い四肢による表現が
ダイナミックで力強く、シックな舞台に映えていた。
特に湯川さんのしなやかな踊りが印象深い。

背中の部分が膨らんだ渋めの銀色をした衣装も良く、
どこか宇宙服を思わせる個性的なデザインであった。

「Butterfly」
音楽:マイケル・ナイマン、落合敏行
共同振付:中川 賢

本島美和 奥村康祐(21日)/丸尾孝子 宝満直也(22日)
ダンサーの精神性が問われる非常に難易度の高い作品である。
ピアノの静かな旋律に対照的な舞い上がるような激しい振付が自然と溶け込み、
心地良さを感じさせた。

本島さんは踊り一つ一つから心の中の悲痛な叫びが聞こえてくるかのようで、
胸に迫るものがあった。
奥村さんは穏やかな雰囲気と疾走感を持ち合わせ、
代役とは思えぬほどであった。

丸尾さんはベテランらしい安定感を保ちつつ
切なさをも感じさせる踊りが鮮烈であった。
宝満さんはフレッシュな繊細さがあり、
柔らかな動きで美しい線を描いていた。
まだアーティスト(旧名称コール・ド・バレエ)の階級で
その中でも若手の方である。
平山さんの傑作デュオで主役デビューとは
相当なプレッシャーがあったであろう。
しかしながら堂々たる舞台姿で、頼もしさを感じさせた。

両ペア共にとてもパートナーシップが良く、
お互いを思い遣るようなあたたかみがあった点も忘れ難い。
この作品だけで終わってしまうのは勿体なく、
是非とも今後の作品においても組む機会があることを願いたい。

「兵士の物語」
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

兵士:福田圭吾(21日)/八幡顕光(22日)
プリンセス:厚地康雄
3人の道化:大和雅美 小口邦明 清水裕三郎
悪魔:山本隆之

クラリネット:松本健司
ピアノ:土田英介
ヴァイオリン:竹中勇人

福田さんの兵士は明るく軽快に踊る姿から
徐々に弱みが表れて物憂げになっていく過程が鮮やかであった。
まさに物語を紡ぎ上げ、
見るからにお人好しそうな風貌が音楽にぴったりであった。
また踊りの細かいところに至るまで
流れるように美しく、滑らかで眼福であった。

八幡さんは快活な兵士で素朴な少年のよう。
世間知らずの少年が悪魔と道化に翻弄されて
混乱に陥っていく様子が可愛らしくも痛々しく、
兵士の不思議な物語展開に説得力を持たせていた。

厚地さんのプリンセスは
女性顔負けの美しさがあり、
金髪やシャンパンゴールドの衣装がまったく違和感が無かった。
平山さんによればロシアのテニス選手・シャラポワをイメージしたそうだが、
遠目で見ると確かにロシア人女性に見える。
小さな仕草も隙が無く、どこか艶かしさを漂わせていた。

3人の道化はカラフルな衣装と滑稽な踊りで
舞台を盛り上げていた。
本や人形を持ちながら兵士や悪魔と踊ったり、
ときにはスモークを炊く筒を持って
舞台演出にも関わるのだが、
どれも器用にこなしていて見事であった。
特に、紅一点である大和さんの踊りは
全身を目一杯使っていて堂々たる風格があり、
最も小柄であることを忘れさせるほどであった。

そして、圧巻だったのが山本さんの悪魔である。
顔を真っ青に塗り、全身網タイツの上に大きめの黒いコートを羽織るという
見るからに妖しげな格好である。
しかしながらただ不気味で怖いだけでなく
飄々とした滑稽さもあり、更には色気もあって大変魅力溢れる悪魔であった。
音楽が演奏される前の冒頭では、ひっそりと静まる空間の中
鬼気迫る表情で緊張感漲る踊りを披露する。
しかしながらその後は
身体の奥底から笑い声、ときには奇声が聞こえてきそうなほど
何かに取り憑かれたかのように弾けに弾けていて驚愕した。
踊る場面が非常に多くあったがスタミナ切れになることも無い。
むしろ物語の進行とともにヒートアップし
どこまでも突き抜けていくのであった。

踊っていないときにおいても
指先を妖艶に動かしつつ兵士や道化と戯れたり、
鋭い視線をあちこちに送るなど、瞬きが惜しいほど吸い寄せられた。
初日終演後に開かれた平山さんのトークイベントの話によれば、
技量の高い山本さんが今回悪魔役を務めるにあたって
踊りを増やすなど改訂したとのことだが、
大いに納得がいった次第である。

これまでに王子から腕白な少年役まであらゆる役柄を踊ってこられた方だが、
今回新たな境地開拓の成功を見せていただいた。
今後も、様々な役に挑む山本さんの舞台姿を心待ちにしたい。

それから、クラリネット、ピアノ、ヴァイオリンによる生演奏という
贅沢な作品であることも挙げておきたい。
音楽が生き生きと響き、ダンサーがより輝いて見えた。
悪魔がヴァイオリンを使う場面では
わざと奇怪な音を出すのだが、
普段はまず無縁であろう耳を劈くような音をしっかりと出していて
演奏家の器用さに脱帽であった。

曲の合間には無音の箇所もいくつか作り、
踊りを入れて振付けられていた。
コンテンポラリー作品特有の無音の場面が大の苦手であったが、
今回初めて苦手意識を持たずに鑑賞できた。
音楽の進行の妨げにならないように工夫され、
尚且つ次の展開が楽しみになる振付、ダンサーの踊りのおかげであろう。
特に悪魔の踊りのときは、無音であることも忘れて
見入ってしまうほどであった。

次回公演は5月、久々の『白鳥の湖』である。
バレエの代名詞であり
もう何度も上演を重ねている作品であるが、
初役キャストもあり、そして中国のバレエ団から初めてゲストが招かれるなど
新鮮な舞台になりそうである。
また、怪我で『アンナ・カレーニナ』と『Butterfly』を降板していた
福岡雄大さんが復帰する。
今から待ち遠しいばかりである。



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