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もっきぃの映画館でみよう(もっきぃの映画館で見よう)

年間100本の劇場鑑賞、音声ガイドもやってました。そんな話題をきままに書きます。ネタバレもありますのでご注意を。

クロッシング 崩壊した社会、絶望の中での家族愛。 福知山でも流れた涙・涙(ネタバレあり)

2010-06-22 09:14:01 | その他(洋画)
タイトル:クロッシング 2008年製作、韓国/107分
ジャンル:北朝鮮
映画館:福知山シネマ1 8人/146席
鑑賞日時:2010年6月19日(土) 18:50~ 
私の満足度:80% 
オススメ度:75%

【序】
鑑賞はシネマート心斎橋につづいての2回目。W杯の開始時間に合わない
という上映時間ながら、やっぱりこっちが大事と思いかけつける。
福知山では今日が初日。隣のシネマ2では「シャッターアイランド」で
あったが、誰もいなくて上映中止の模様。観客8人というのは、かなりの
話題を呼んでいるといっていいのでは?それにしても超大作洋画から
ミニシアター系まで、幅広いラインナップはこの街の誇りです。

【ストーリー:gooHPから引用】
北朝鮮の炭鉱の町に住む三人家族。炭鉱で働く元サッカー選手のヨンスは、
妻と11歳の一人息子のジュニとともに、貧しいけれど幸せに暮らしていた。
しかし、妻が肺結核で倒れてしまう。ヨンスは北朝鮮では入手困難な薬を
手に入れるため、決死の覚悟で中国国境を越える。脱北者は発見されれば
容赦なく強制送還され、それは死をも意味していた。その頃、北朝鮮では、
妻がひっそりと息を引き取る。孤児となったジュニは、父との再会を信じ、
国境の川を目指す。 [2010年4月17日公開]

【冒頭】
遠くに山が見える平坦な土地。お父さんとふたりで、サッカーをする少年。
突然雨が降り出す。
- お父さん、雨です。
- 雨が好きか?
- はい、大好きです。


この子供の丁寧な言葉遣いを聞いただけで、胸がいっぱいになった。
丁寧というか、昔の言葉づかいというか。韓国と北朝鮮とで言葉の違いは
あるのかと以前誰だったかに聞いたところ、方言というより時代の違い。
分断された頃と同じ言葉を使っていると聞いたことを思い出す。素直で
無垢な少年の性格を象徴しているかのような言葉使いだ。

私ごとであるが1995年、北朝鮮に猪木さんの試合を見に行ったときのことを
思い出す。星がきれいだった。もちろんツアーだし、ピョンヤンと名所しか
しらないが、今回の壮大なオープンセットがたくさんでてくるどのシーンも
リアルに感じた。唯一違和感を覚えたのは、夜自転車で父子が二人乗りで
友人宅へ行くシーン。背景に、建物の窓から灯りが漏れてくるのだが、
明るすぎると感じた。私が行ったときのピョンヤンの街や屋台は、電灯を
つけているのにうす暗かった。最初はお客がきたらもっとあかるくするのか
と思ったが、最後まで変わらず。そして時々停電した。さらに驚いたのは、
バスがパンクすること。街中を走っているバスから、パーンと大きな音と
シューという音とともにすべるようにバスが止まるのを見た。日本からの
ツアー客のバスでもパンクがあったと聞いた。特権階級が住みショーケース
といわれる首都でこの状態なのだからと思うと、この映画の信憑性が高く
感じられる。

【感想】
衝撃作というのは、大抵そうなるように作り込んだものだが、この作品は、
再現フィルムのようにできるだけ忠実に描けば描くほど衝撃的になり、
本当はもっと悲惨だろうと、思わせるものがある。それだけに重い。

ベースになっている2つの事件がありそれぞれ、ストーリーのなかの「山」
となっているが、事件そのものというより、その背景、崩壊した社会、
そして、人と人の関係が蝕まれている様子が怖い。はたしてこの国に
救いはあるのだろうか?

(参考2つの事件)

2001年7月9日 ある脱北少年の死…(朝鮮日報)
チョルミン君が他の北朝鮮脱出者4 人と一緒に中国とモンゴルの国境を
越えている最中、砂漠で道に迷って30 時間余り歩いて力尽き、
倒れて死亡したという連絡を受けた。
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/4982/papers/fromnorth-jp.pdf

2002年3月13日 25人の北朝鮮人が北京のスペイン大使館に駈け込んだ事件
(国境なき医師団のニュース)
http://www.msf.or.jp/news/print/2003/02/189.php

※ここからネタバレ(記憶なので正確さには欠けます)

【再現。ささやかな幸せが、病気ひとつで崩れてゆく。】
お母さんは映画の最初から咳込んでおり、栄養失調で肺結核と診断される。
しかも妊娠中。お医者さんは『大変でしょうが自分で探してください』と
薬を書いた紙切れ渡す。お父さんはヤミ市を捜しまわるがみつからず、
中国と行き来する友人に薬の入手を託す。ところが友人は、公安に自宅を
踏み込まれ『聖書』がでてきたことで家族ごと連行。お父さんは、サッカー
選手時代に将軍様からもらったテレビなど売れるものは売って中国に薬を
買いに行く決意をする。

小さな円卓を囲む家族三人の食事
- お父さん、今日は何の祝日ですか?おいしいですね。
無言の父母、あたりを見渡す息子ジュニ、立ち上がり入り口あたりを見て
戻ってくる。 
- お父さん、犬のペックは??ペックを返してください。
- お前は、お母さんのおなかの子より犬の方が大事なのか!!
おぇっ。と口のなかのものを吐き、走り出すジュニ。
- ジュニ、待って。(病身で立ち上がれずに体を震わすお母さん。) 

翌朝、中国へ旅立つ父、2メートルほど横に離れて黙ったまま、平行して
歩いてゆくジュニ。石ころがころがる道。そのなかから、大きめの石を
見つけて、ジュニの前にけるお父さん。けり返すジュニ、もう1回。
- 取ってみろ。
ドリブルしながらジュニの前に進むお父さん。動きについてゆけず倒れる
ジュニ。手を伸ばして起こすお父さん。ジュニの運動靴はボロボロだ。
- すぐに帰ってくるよ。サッカーボールと靴も買ってくる。
- 本当ですか。
- お母さんを助けられるか?
- はい。(とうなずく)
お父さんが立ち上がり、息子を抱きしめ。無言のまま、歩きだす。
なさけない表情でじっと見つめたままのジュニ。
- もう家に帰れ。
動かないジュニ。あっちへ行けというように腕で合図する父。
やっと家へ歩き出すジュニ。お父さんのアップの後ろにジュニの背中。

※ここのくだりが一番好きです。

【強者が弱者を、弱者が弱者を】
お父さんが家をでたあとは、もう悲惨なこと、残酷なことの連続。国境を
超えるのは犯罪とはいえ、容赦ない発砲。子供であれ妊婦であれ、飛び蹴り
前蹴り、銃で突き刺す。国境を越えても、中国の公安が追いかけてくる。
みんな必死に逃げるが、強制収容所で障害を負ったものがまず逃げ遅れて
つかまる。助けたくても助けられない、それだけでなく弱者同士、子供の間
でも、もののとりあいや、騙し、裏切りがはびこる。だからこそ主人公の
ことばは痛切だ。

-これは不公平です。神様は豊かな国だけ、北朝鮮をほっとくんですか?

主人公の父子は、ほとんど無抵抗。政権を非難することもなく、騙した人を
恨む暇もない。ただ妻を助けたい、家族で再会したいというだけである。
残酷なシーンも多かったけれど、さりげないやさしさを感じさせるシーンが
さらりと入っていたり、そしてベースとなるのは家族愛。なんとかしたい
ものだと、この映画を見た人なら思うことでしょう。
そしてそれを拒んでいるのは、北の政権のみならず、北の政権のせいにして
しまう、無関心かもしれないと考えさせられました。

【怪しい脱北ビジネス】
もうひとつこの映画で気になったのは、主人公の父が思いもよらず韓国に
着いてしまうこと。中国で、お金を失い、インタビューを受けたら金になる
と聞いて乗った話が、いわゆる『企画脱北』。私が90年代中盤に北朝鮮もの
の本を乱読した頃には聞かなかったので、そのあとに盛んになったのだと
思うので少し調べてみたのだが、かなり怪しいビジネスである。

ブローカーは、もちろん金目当て。脱北したいひとからお金をもらうだけ
でなく、お金の無い人には一筆かかせて成功して韓国に着いたときに貰える
数百万円の『脱北者定着支援金』の何割かを頂戴するというわけ。さらに、
各国のマスメディアに大使館などに逃げ込む様子を撮影させて収入を得る。
日本のマスコミではTBSが日本の公館に逃げ込めば上増しで支払うという
契約をしたとの発言もあったようです。(TBSは否定)

そんなわけで主人公の父も近所には親戚のところへゆく行ってでてきたのに
テレビに映ってしまってお金のその場ではもらえず韓国に行くことになって
しまったというわけ。特に、元サッカー選手ということで利用された部分も
あったのだろう。このことから推測するに、思いがけず家族を置いて北を
離れてしまい戻れなくなってしまった人もいるのでは?脱北者の本を読んで
いて、理由がいまいち納得いかない場合のひとつの可能性として覚えて
おこうと思いました。

クロッシング@ぴあ映画生活

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