もっきぃの映画館でみよう(もっきぃの映画館で見よう)
年間100本の劇場鑑賞、音声ガイドもやってました。そんな話題をきままに書きます。ネタバレもありますのでご注意を。
 



聴覚障がい者の学校での性的虐待事件を扱った映画ということで、ちょっと重いなあと
思いつつ、興味も強くて見に行ったこの作品。気が重いと言う間もなく引き込まれ、
韓国らしい容赦のなさに巻き込まれ、クライマックスでは虐待を受けた少女の眼識と
感性にうならされました。ストーリーもわかりやすく、エンターテイメント性も高く、
参りましたという感じです。(満足度75%)

トガニ 幼き瞳の告発 (オリジナル・バージョン) [DVD]
ポニーキャニオン




===以下、ネタバレありです。====

【意表を突かれた冒頭:ホラーからバイオレンスへ】
冒頭、新任男性教師が、霧に包まれた地方都市へと入ってゆき、小鹿を車でひき殺して
しまいます。一方、少年がトンネルにどぼとぼと歩いてゆき電車にはねられて死亡。
到着した学校には、あやしげな校長と双子の行政室長(一人二役)がいて。不穏な
雰囲気が増長。さらに小学生か中学生とおぼしき少女に、体罰として?回転中の洗濯機に
頭を突っ込ませる女教師。真っ赤なブラウス、しかもデコレーションケーキの縁のような
フリフリの襟元の飾りつきは、こりゃまさに悪魔。ホラー映画です。この時点で、
この映画は単に事実を、伝えるためだけの意識で作成されたものではないと感じました。

この女教師に限らず、相手が子供というのに虐待の激しいこと、職員室で少年を、
殴り倒して蹴りまくるという一方的な暴行。強姦シーンも、少女に対して容赦なし。
韓国のお家芸ともいえるバイオレンスシーン炸裂です。
(実際の撮影に関しては、子役に内容を伝えず、相手がこうしてくるから足をバタバタ
させるなどの指示を行ったとか、加害者側と被害者側を別々に撮影してつなげたり
したそうです。また、親も撮影現場に呼ぶなど、子役対する配慮は慎重に行われて
いたことでしょう。でも、映画を見る立場からすると、容赦なしでした。)

【スピード感】
事件現場が学校、しかも被害者は寮生。主人公が新任教師ということで、犯罪が
明るみになるまで時間がかかるのかなあと思ったのも最初の30分ほど。新任教師の
連絡で、人権センターに保護された児童は、すぐに恐ろしい体験の告白します。
その様子をビデオにおさめて、警察や教育庁にもっていくのですが、知らんぷり
告白がTVで報道されて裁判になるまでが前半ですが、かなりテンポが速いです。

でも、問題は、ここから。犯罪者たちは、証言したのが障がい者だからか
まったくやってないとしらばっくれます。映画タイトルの「トガニ」は
「坩堝(るつぼ)」。もともと学校は坩堝のなか、つまり校長のためなら
悪いことでも進んで協力するあるいは協力せざるをえないという体制ができていて
そこで裁判になるわけですが、そこでも、魔の手がのびてつぎつぎと坩堝の中に
投げ込まれてゆくというわけです。

主人公のお母さんはいいます。
「裏金を取るような学校だから、最初からとんでもないところに決まっている。
みんな、それを分かっていてやっているんだ。裏金のために家を売った。
お前も、おとなしくして、自分の娘の方を向いてくれ。」
記憶の限りですが、だいたいこんなセリフだったと思います。主人公が、校長達の
性暴力、虐待を目の当りにして、うつろな日々を送っているとき。妻の命日に、
ソウルからお母さんが喘息の一人娘をつれて田舎にやってきたときにいった言葉です。

そうです、新任教師は、着任したとき「教授の推薦だからと、ただで正教員になれると
思っているのか!!」と言われて5000万ウォン払います。いくらウォン安といっても、
日本円で350万円。しかもお母さんは、その費用捻出のために家を売ったとなれば、
あとに引けません。お母さんの買ったランの鉢を校長先生にプレゼンとしようと
持って行きます。ところが、校長室からでてきたのは、暴力教師とあざだらけの少年。
校長室で、暴行を加えていた教師がさらにとゴルフクラブを取り出したところで
校長が「外で静かにやってくれ」みたいなことを言ったので、教師は少年の首根っこを
押さえて、二人ででてきたところでした。暴力教師は、新任教師に眼をとばして、
少年を片手で引っ張って廊下を歩いてゆきます。しばし呆然の、新任教師。
手にしていた鉢がかたむき、小石がぽろぽろとこぼれてゆきます。そのまま崩れ落ちて
しまうのか?と思いきや、なんと、いきなり鉢植えをもったままダッシュして、
暴力教師の後頭部に、バコーン!!と投げつけます。それまで映画を見ていた観客の
立場としては、あまりの理不尽なストーリー(現実)に、欲求不満と怒りを
つのらせていただけに、一服の清涼剤となるシーンでした。これで、坩堝に
はまりかけていた新任教師も教師としては首になりますが、明確に反対の立場を
取るようになります。

この映画の特徴的なこととして、主人公の新任教師は、声高に校長らに反発する
のではなく、暴力が目の前で行われているときに、止めにはいることさえできない
ある意味弱い存在でありながら、子供たちとのふれあいのなかで、前述の鉢植え
投げつけのシーンにしても自然と体が動いてしまったという感じなのがうまいなあと
思いました。声高ではないが、怒りを感じ、何もできないのは、観客に近い立場になり
感情移入がしやすくなっていると思いました。

【クライマックスを、彩った少女の眼識と感性】
後半は、裁判。被告は、校長、双子の行政室長、暴力教師の3人。
事前に、裁判では加害者に甘い判決しかでずに、この映画がきっかけになって
法律改正が行われたという話を、映画の宣伝できいていたわけですが、ここまで
ひどいとは思いませんでした。まず、被告人の全く反省していない態度。
次にどこまでも続く、汚職、腐敗、買収。被告側は、証人はもとより、主人公へも
恩師を通じて金とポストを用意して切り崩しにかかりますし、さらには司法まで。
平行して、知的障がいのある被害者の親族まで示談に巻き込んで行こうと
手を伸ばしていきます。

そんななか、裁判で原告側が一矢を報いるシーンがあるのですが、これが圧巻。
ふたつありまして、ひとつは、最初から気になっていた双子の壁。
少女は、校長に犯されたと主張するのですが、弁護側が『なぜ校長とわかるのか?
双子の行政室長ではないのか?それが証明できなければ、校長は無罪』と反論します。
はたして・・・。ここは一番の核心なので劇場で見ていただくことにしますが、
自らの知恵と機転と眼識で、見事に証明してくれます。裁判では新任教師や
人権センターが活躍するのではなく、彼らはサポート役。裁判の主役は被害者本人。
日本的な考えだと、ここまで障がい者を、幼い被害者を、裁判の矢面に立たせて
良いのか?とか、セカンドレイプではないか?という非難がでてきそうですが、
そんな考えが陳腐に思えてくるほど、ここの少年少女は勇敢なのです。

もうひとつが、被害者の供述で「校長室から、チョソンモの歌が聞こえてきた」こと
の証明。被告側弁護人は、「聴覚障がい者に、歌が聞こえるわけない。こんな供述は、
嘘っぱちだ!!」と息巻いてきます。さて、どう証明するか?ここでの証明の仕方が
私はとても気に入りました。耳のお医者様がでてくるわけでもなく、聴力測定装置が
でてくることもなく、法廷で被害者が、カセットデッキに背を向けてたち、被告側
弁護人がカセットの再生/停止ボタンそ操作するのです。CDではなく、カセット
というところもミソで、CDだと再生/停止ボタンはあまり音がしないですが、
カセットだとある程度の音がしますよね。でも、被害者にはその音は聞こえおらず
チョソンモの音楽が鳴り出すと、ゆっくりと手をあげ、停止すると手をさげ、
再び音楽が鳴り出すと手をあげ・・・。原告側傍聴席は大盛り上がり、被告側の、
しまったやばいぞという顔。つらいシーンが連続しているだけに、数少ないヤッタと
喜べるシーンです。そしてこのシーンは、新たに2つのことを連想させてくれます。
まず、聴覚障がい者といっても音の聞こえ方はイチゼロでなく、音の大小でもなく、
それぞれの聞こえ方があるということ。次に、被害者にとって聞こえ方は他の多くの
ひととは違った聞こえ方もしれませんがノイズとして聞こえているのではなく歌として
聞こえていること。そういうことを私も普段は忘れており、その意味弁護人と同じ。
そこをみごとに、被害者の「感性」が突き崩してくれたわけです。

裁判を通じて、被告側の腐敗の構造と卑劣さが浮き彫りとなってゆく一方で、
被害者の強さが際立ってくることろが、裁判の結果とは別に痛快で、
この”闘い”の”試合内容”としては、原告側の圧勝でした。

注)クライマックスと書きましたが、これは私がそう思った部分でして実際の映画は、
このあとまだ30分ぐらい続きます。でも、私的にはこのシーンまでで既に、満足。
あとは、どちらかと言えばつけたしのように思えました。例えば、冒頭の線路で
少年が轢死しましたが、ラスト近くでまたまた線路がでてきたとき、あまりにも
映画的過ぎなのと、本当だとしたらあまりにも悲しいので、これは事実でないなら
やめてくれと思いながらみましたが、後からネットで調べてみると監督が事実
ではないが付け足したシーンとのことでした。(ホッ)


【はたして日本は?】
日本でも残念ながら似たような事件というのは報道されてますが、ここまで描いている
映画は知りません。近いかなと思うのは「闇の子供たち」。日本人のタイにおける
児童からの臓器移植や児童買春を扱っていて、よくこのテーマで、メジャーな俳優も
でて、映画化できたなあと思ったものでしたが、今、トガニと比べると全てが弱く
感じてしまうのでありました。
また、トガニで描かれていた腐敗の構造は、日本ではここまでひどくないぞと
いいたいですが、そうも言えないなあと思うのが原発ですね。最近みたDVD
「原子力戦争LostLove」田原総一郎原作、黒木和雄監督、原田芳雄主演の
1978年の作品。フィクションですが、原発事故が起こり事実を外部へ伝えようと
する人や、気づいて情報に近づいてゆく人が、次々と消される映画です。この映画が
3・11以降までDVD化されなかったのも、裏から圧力がかかっていたのでは?

原子力戦争 Lost Love [DVD]
キングレコード

原子力戦争 (ちくま文庫)
筑摩書房


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