歳を重ねると楽しいとか賢くなるとか・・・・みんな戯言なんだよ。

感じるままに、赴くままに、流れて雲のごとし

疲れたら旅に出る。そんなことを昔、書いたような・・・・

2019-08-12 | 旅行

真夏の軍楽隊。

そんな暑さだ。

おまけに、相方の体調は悪い方向へと限りなく近づいていて、

最悪のケースが真近い。

だから、と言う訳ではないが、車を北に向けた。

行先は、5年前に行ったことのある宿。

真夏にも関わらず、食堂には暖炉があって夕食時には薪をくべる。

あの時もそうだった。明々と暖炉で燃え盛る炎は行動するには歳を摂り過ぎていて

周りの人間の邪魔をするだけだ。

“大切なことは・・・やれるけれど、敢えてやらないこと”そんな言葉が宙に舞っていた。

もはや、誰かに勝とうなどと思わないが、負けるのは悔しい。

男らしさとか女らしさとか、この「らしさ」に惑わされてはならない。

現実は老いている。ただただそんな惨めな姿を認めたくないだけなのだ。

諦めではなく、認めるのだ。

自分の弱さに立ち向かうのではなく、弱い自分も自分自身なのだ・・・

そんな簡単な理屈を、身体に浸み込ませる。

苦しいだとか、悲しいだとか、寂しいだとか、

感情は豊富であった方がよいのだ。ただ、その感情の入れ物を大きくするだけなのだ。

誰もかれもが幸せになれる訳ではないが、

眠りに落ちる前に、

「眠りは、なんて心地がよいのだろう・・・」と。

そう、思えばいいだけなんだ。

 

 


置き去りにした人へ今更なにをすれば良いのだろう。

2019-03-14 | 旅行

そう言えばと思い出す事ばかりが頭の中でグルグル廻り始めていた。

別れを切り出すことはほとんどなかった。

付き合いの長さに関係なく、自然消滅が成り行き任せと言う言葉に変換され、それが彼女たちにとっても最良の事だと考えていた。

連絡をしなくなれば、連絡を取らなければ忘れてしまい、次のステージへ向かうとかんがえていた。間違いだと気付いていながらもそんな行動をあからさまにしていた。

結果的にそれでも良かった。今となっては…。決着をつけてしまえば思い出にもならない。

そんな風にしか彼女たちとの関係を、風に舞う木の葉のように思い浮かべて一人で寂しさに耐えようと決めていたようだ。

ようだった。

なんてふざけた生き方をしていたんだろう。

 

柔らか過ぎるベッドに横たわりなが思いを巡らしていた。

突然。部屋の電話機が鳴った。

「もしもし」

「小枝です。もう、おやすみになりましたか?」

「いや、ベッドの中でグズっています。で、どうかしましたか」

「いえ、とくになんでもないのです。なんだか私の所為で気分を悪くされたのではないかと…気になってしまって。」

確かに会話を途切れさせたままにして部屋に入ってしまった。

「悪かったです。ちょと気になる仕事を抱えていて、頭がそっちへ行ってしまったようで。申し訳なかった。すみません。」

「それならいいんです。私、気になる事を抱えたままだと寝つきが悪くなるんですの。それでは、おやすみなさい。」

「あの…その…あやすみなさい。」

電話は僕の言葉が終わらないうちに切れた。

こんな電話をさせてしまった事を悔やんだ。

そして、片方でほっとしている自分を見つけ出していた。

    

こころの底に何が潜んでいるのか?誰にもわからない。

2019-02-18 | 旅行

会話の相手が何を考えているのか大凡の検討がつく。そんなときがあるものだ。

考えている何かの確信を掴むためにカマをかけた質問をしたりする。

下卑た考えだ。

率直であるがゆえに、相手を傷つけてしまう。

それを恐れ、何も聞かずに妄想のなかに浸る。

そしてその妄想の中身としてはほとんどがネガティブなことだらけなのだ。

ネガティブな妄想は不安となり、疑問符と言うよりは断定的な言葉で相手を追い詰めていく。

「あなたは僕を利用しているだけなんだ・・・」とか

「幸せなことはあちらで過ごし、僕とは辛い事柄の話ばかり・・・」

まあ、そんな具合に会話は弾むこともなく、相手は「そうです!それがどうかして・・・」

そんな言葉のやり取りが際限もなく続く。

 

想像以上の辛い途切れっぱなしの会話。

沈黙に意味が見いだせたりするのは、相手との息がピタリ!と会っている時にしか得られない。

食違った気持ちを立て直すにはそれなりの時間が必要なんだ。

 


旅する気持ちは遠い昔へ向かっているようなものなんだ。

2019-01-30 | 旅行

彼女のうなじからから柑橘系の香水の香りしてきて思わずむせ返りそうになった。

明日は秋の香りを一杯に胸にため込みながら国道を走り切ろうと決めていたのにこのむせ返るような香りが僕の下半身を刺激し始めた。

身体が意のままにならない。後ろを振り返れば般若面がニャリ!

前を見つめれば腰をかがめた白髪の老婆が僕の右手を握りしめ、信じられない強さで僕を手繰り寄せようとしている。

 

急に喉が渇き始めて我に返った。

小枝さんは気づく素振りもなく僕に微笑みかけながら

「この雑木林には小動物が隠れているようですね。私はさっき、狸のつがいを見ましたのよ。」

16歳の少女のように話しかけてきた。

「そう、僕も見ました。仲がよさそうだった。」

僕の声は少し上ずっていたのかもしれない。

テーブルにデザートのココナッツアイスクリームが運ばれてきて

まるでそれは僕たちのこれからしでかすであろう事柄を則すかのように

そっけなくテーブルに放り出されていた。

「そんなに慌てることはない。まだ、死ぬには早すぎる時間だ。」

雑木林の奥で狸の雄が囁くのが聞こえてきた。

「今更、女など欲しくはないのだ。」

「彼女はそんなことはないようだ」

「バカなことを言うな。そんな気分じゃないだろう。彼女の素振りを見ればわかる。」

「随分と意気地がないんだ。今夜は・・・」

「そう、俺も歳なのだ・・・・」

 

あたふたと時は過ぎるものなのだ。数十年前も、一秒前もほぼ同じように過ぎていく。

まるで僕ひとりを置き去りにしたままに。

 

 


そして月の光はオレンジ色に変わっていった。

2019-01-09 | 旅行
少し緊張して僕は彼女に言った。
「もしよければこちらのテーブルでご一緒しませんか?」
「…。」
「迷惑だったかな?」
無言で彼女は立ち上がっり、僕を見もせずに僕の席へ歩き席についた。
彼女の手にはナプキンがしっかり握りしめられていた。その振る舞いがなぜか微笑ましかった。
そして僕を上目遣いで睨み付けながら言った。
「皆上小枝です。あなたは…?」
「沢木勉です。」
やけに大きな声だった。周りの客が揃ってこちらを向いた。僕は少しだけど動揺してしまった。
彼女な左に顔を向け窓の外の雑木林を見ていた。
「お一人様ですか?」
「そうです。」
「部屋は隣でしたよね」
「そうです。」
とりつく暇がなかった。
「どちらから?」
「神戸から来ました。」
関西弁ではなかった。
「そう、随分遠くからですね…。」
「そうでもないです。クルマの運転が好きなんです。」
給仕が慌てた素ぶりもなく彼女の食器を移動させ、ワインを彼女のグラスに注いだ。
血の色のワインは彼女の手に良く似合っているように思えた。
「明日はどちらへ行くのですか?」
「とくに…決めてはいません。」
「まだ、紅葉には早いみたいですね」
なんだか、誘ったことを少し後悔し始めていた。
そんな僕の心を見透かすように彼女は
「あまり無理しなくてもいいんですけど…」
キッパリと言ってのけた。
「そんなことはない。少し動揺してるだけです。迷惑だったかな?と。」
「いえ。嬉しいです。とても。」
「それなら良かった。こういった誘い方に慣れていないもので。」
また、嘘をついたと心の中で囁いた。
「嘘でしょ」
「嘘じゃないです。」
「そうかしら、あなたの部屋に文句を、言いに伺った時、誘っていらっしゃいましたよ。」
「そう見えたら済まない。」
「謝られると、困ります。なんだか立場がなくなってしまいます。」
「おっと、それは失礼。そんな気持ちじゃなくて、ご一緒できて僕も嬉しいです。」
「それじゃ。乾杯しましょう。」
「乾杯!」
雑木林の暗闇であの狸が笑っているのを感じた。
遠い記憶の彼方からこんなシーンが蘇ってきた。