
「今夜は奇跡が起こるかもしれない」
クリスマスの夜には、そんなことを思わせる雰囲気がある。
わたしを含め日本人の多くはキリスト教徒でもないくせに、ちゃっかりとそういうところだけは、日常生活の中に取り込んでいる。
だから、不本意な人生を終わった主人公の女性2人が、10年も時を遡って蘇るというかなり無理のある設定でも違和感がない。
この物語は、一種のタイムトラベラーものなのだ。ただし、「バタフライ・エフェクト」のように、主人公が超能力で過去に時間跳躍するのではなく、主人公が死ぬと、その時の記憶を保持したまま10年前の自分に戻っているという設定になっている。主人公の死によって、元の世界は、一旦、清算してあるから、タイムパラドックスが起こる心配もない。
映像のバックには、当時の懐かしい曲が流れている。
「Last Christmas」「ノックは夜中に」「そして僕は途方に暮れる」「異邦人」など・・・・・・。
わたしは80年代の楽曲が気に入っているので、もうこれだけでこの作品に夢中になってしまった。
出演者も感涙ものなのだ。
主演の清水美砂、工藤静香


懐かしい。お2人とも若い!
そのほかにも、鈴木京香、唐沢寿明、和泉元彌、デビィット伊東


とかなり豪華な俳優陣が脇を固めている。
もっと凄いのは、錚々たる漫画家たちの出演だ。
赤塚不二夫、石ノ森章太郎、つのだじろう、さいとうたかを、藤子不二雄A、永井豪。

みなさん、パーティシーンでのほんの一瞬の出演だが、今はもう拝見できないお顔もあって、懐かしさがこみ上げてきた。

これほどの著名漫画家が一堂に会したのは、原作者が藤子・F・不二雄であったからかもしれない。
藤子・F・不二雄と言えば、真っ先にドラえもんが思い浮かぶ。
ドラちゃんのポケットから出てくるいろいろな道具には、本当に夢があった。ストーリーに不思議な温かみがあって、いつまでも心に残る奥行きの深さがあった。
藤子不二雄は、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Aの2人組なのだが、2人の天才が、終生、仲良く協力してやってきたからこその奥行きの深さなのだろう。
原作の「未来の想い出」では、主人公は男性の漫画家「納戸理人」だったが、映画化にあたって、女性の漫画家「納戸遊子」に変更し、遊子の生涯の友として「金江銀子」を登場させている。これは、藤子不二雄が2人組の漫画家であったという事実に無関係ではない。不幸な人生を歩んできた2人が巡り合い、お互い励ましあいながら、成長していく様は、恐らく、2人の藤子不二雄の姿を投影したものだと推測できるからだ。
平成8年に藤子・F・不二雄は永眠されたが、この作品は、その少し前の平成4年に映画化されたため、藤子・F・不二雄もセリフ付きの占い師の役で出演を果たしている。

今、考えると、まことに貴重な映像となっている。
監督が森田芳光であるというのも、感慨深い。
わたしは監督の名前はあまり覚えないのだけれど、「黒い家」を観た時に、彼の名前が妙に印象に残ったのを記憶している。その後、「海猫」「模倣犯」などを観て、彼の撮った作品に独特の雰囲気があり、そこに魅かれるのだと思った。
小説家を尊敬を込めてストーリーテラーと呼ぶことがあるが、彼は映画界のストーリーテラーなのだと思う。物語の語り口が実に巧みで、ついつい引き込まれてしまうのだ。
すっかり前置きが長くなってしまった。
☆「未来の想い出」とは・・・・・・
飛行機の影が、行ったり来たりする象徴的なオープニング。

最後の最後にその意味が判る。実に細かい伏線が張ってあるのだ。
クリスマスの夜の街のテロップに流れる「ルナ航空797便墜落」のニュースにも意味がある。

これも伏線のひとつなのだ。
主人公の「納戸遊子/清水美砂」は、一流の漫画家になることを目指している。専任の担当者がついているところをみると、

出版社に投稿して、佳作か入選か、一定以上の評価を得ているのだろう。しかし、連載は勝ち取れていない。あともう少し、何かが足りない状態なのだ。新人にとって、一皮剥ける前が一番苦しい。足りないのは、ほんのちょっとのことなのに、それが何なのかがどうしても判らないからだ。そうやって、若い作家が挫折していく。
遊子もそのうちの1人だったというわけだ。
ライバルの「シマヤマヒカル/鈴木京香」

・・・一方的に遊子がそう思っているだけのことで、彼女は既に出版社に評価されていて、連載も単行本発行もある、売れっ子作家なのだ・・・は、どうしてだか、遊子と同じような作品を描く。だから、遊子は日の当たる場所に出られない。
今回の持ち込み作品は、遊子の自信作だったし、心の底から描きたいと思っていたものだった。それなのに、シマヤマが似たような作品を出版社に先に持ち込んだために、遊子の作品は連載してもらえなかったのだ。これが遊子の最初の人生での分岐点だった。
「もしも、あの時、電車が止まらずに、わたしが先に出版社に持ち込んでいたら・・・」
それから10年が経過し、ひとり映画館で涙を流す遊子には、

「誰かが何かを得れば、誰かが何かを失う、幸せの総量は一定なのだ」という悲しい諦観が漂う。わたしは、遊子の心境にひどく共鳴するところがあり、胸が締め付けられるように痛んだ。
失意の遊子が、年末の喧騒の中をふらふらと歩いていると、突然、呼び止める声がする。
それが、生涯の友となる「金江銀子/工藤静香」との運命的な出会いだった。

「結婚していても、クリスマスの夜だと言うのに、こんなところで占いをやっているのよ」
悲しそうにそう言う銀子も、遊子と同様に人生を諦めかけていた1人だった。
銀子は、憧れていたデザイナーの「倉美タキオ/デヴィット伊東」と親密になるチャンスを、たった1枚のタクシーチケットの有無の差で失い、

証券マンの「杉田行男/宮川一朗太」に口説かれるまま結婚し、不本意な人生を送っていた。

お互いの境遇を語り合った2人は意気投合し、電話番号を交換する。
神は、そんな2人に、もう一度、やり直すチャンスを与えた。
翌日、出版社主宰の忘年ゴルフコンペで、ホールインワンをした遊子は、その場に倒れ、絶命してしまう。同様に、銀子もその葬儀からの帰途上、不慮の事故で死亡する。
そして、奇跡は起こった。
気が付くと、彼女たちは10年前の世界に戻っていたのだ。
情報化社会と言われて久しいが、他人が知らない10年間分もの知識を持っているということが、どれほどのアドバンテージとなるかは、今更、論ずるまでもないだろう。
遊子は、ライバルのシマヤマよりも先に出版社に原稿を届けることに成功する。
「もしも、あの時・・・」を実践したのだ。
編集長は、前世の時とは違って、連載を約束してくれた。

当惑する遊子。
その気持ちはよく判る。つまり、遊子に実力はあったということなのだ。シマヤマの存在が遊子の成功の障害になっていたから、遊子の作品は陽の目を見ることができなかっただけなのだ。それは、「幸福絶対一定量の法則」の証明でもあった。
追い討ちをかけるように、編集長の言葉。
「さっきの話は、なかったことにしてくれ。シラヤマさんが、同じような作品を・・・」
「後先ではなく、わたしよりもシマヤマさんの漫画の方がいいンですね。それじゃ今度は、ヒットした作品を描いてこようかな」
こうして遊子は、ヒットすることが判っている作品を描き、出版社に認められる。
それは、前世では別の人間が描いた作品だった。遊子がその作品を描いたことで、「幸福絶対一定量の法則」により、本来の作者は、世に出るチャンスを失ってしまった。
彼女は彼女なりに罪悪感を持つが、一緒に過去に蘇った銀子から、
「あなただって、同じような経験をしたでしょう? 誰かが何かを得ると誰かが犠牲にならなければならない。早いもの勝ちなのよ」
と慰められる。
だが、彼女にはもっと大きな問題があった。
「これは、わたしが本当に描きたかった作品ではない」
苦悩する遊子。
成功しても、満たされない日々。
刻々と迫る、10年後のあのゴルフコンペの運命の日。
一方、銀子も「もしもあの時、わたしがタクシーチケットを持っていたら・・・」を実践し、倉美と親密になっていた。

さらに、経済や競馬などの賭け事の記憶を持ったまま過去に蘇った銀子は、その知識を駆使して、投資コンサルタントとしての名声と巨額のお金を手に入れていた。
欲しいものは全て手に入れたように思えた銀子であったが、彼女にも手抜かりがあった。倉美はデザイナーだったが、銀子はファッション動向の知識を持っていなかったのだ。彼が成功するために、いつ、どんなファションが流行るのか、彼に教えてあげたいのに、
それができない。銀子に焦燥感が募る。
そうこうするうちに、彼女の2度目の人生も、あっという間に10年が過ぎる。
3度目ともなると、要領も判ろうというもの。
彼女たちは、実に見事に人生をやり直した。まさに悔いのない人生とはこういう人生をいうのだろう。
何事に対しても積極的に取り組むようになっていた遊子は、2度目の人生で知り合い、心魅かれた能楽師「夏木寿也/和泉元彌」に

自分から愛していると告白し、交際を始めていた。そして、その彼の励ましもあって、遊子は、自分の意思で自分の描きたい作品を渾身の力で描き上げたのだ。

そして、それが認められた。
遊子に足りなかったもの。それは、「作者としての強い気持ちと気合」だったのだ。この作品は必ずヒットする、読者に受け入れて貰えるという自分を信じる気持ち、それが欠けていたのだ。
遊子は、見事に自分を改革した。そして、自分の力で成功を手繰り寄せたのだ。
それを教えてくれたのが、夏木だった。

もはや、遊子にとって、夏木はなくてはならない存在になっていた。
一方、ファッションの知識を十分に持って蘇った銀子は、大好きな倉美のために、あらゆる援助を惜しまなかった。倉美もそれに応え、仕事に打ち込んだ。
問題なのは、前世での結婚の失敗の原因である。仕事がうまくいっているのは、前世の夫の杉田も同じであった。杉田は、銀子を顧みなかったのだ。倉美はどうなんだろうか。
仕事で遅く帰った倉美は、「おかえりくらい言ってくれよ」と不満を漏らす。
うたた寝をしていた銀子は、「遅く帰ったのはあなたの方よ。男の人って、どうして・・・」と言い募る。この時の銀子には、前世での失敗が、頭の中を過ぎっていたことだろう。
「そうか。この頃、お互いに忙しくて、2人だけの時間が取れていなかったね。これじゃあ、何のために銀子が俺のために尽くしてくれたのか判らなくなってしまう。思い切って、時間をつくろう。2人だけで過ごそう」

ああ、何て素敵な言葉だろう。これで、銀子は救われた。
「やはりあなたは違う。よく気付いてくれたわ」
銀子に、もはや悔いはなかった。
未来の想い出とは、挫折と後悔のことだった。
1度目のやり直しの時は、「もしも、あの時、こうしていたら・・・」を実践し、その結果、ある程度、成功を収めるものの、本当の心の満足は、そんなことでは得られなかった。
2度目のやり直しの時に、初めて新しいことに取り組んだのだ。新境地を開拓した2人は、それによって大きな満足を得た。もはや2人とも、人生をやり直したいなんて思っていなかった。
☆妊娠とルナ航空797便
それでも、近づく運命の日。
やり直したいと思っていないのに、いやでもその日はやってくる。
あろうことか、夏木がフランスから帰国する便に、ルナ航空797便を選んでしまったのだ。ルナ航空797便は墜落することになっている。
どうしたら、わたしの大切なあの人を助けることができるのか。
半狂乱の遊子。
それを必死で支える銀子。
実は、銀子も絶体絶命の危機に陥っていた。
愛する倉美の子供を妊娠していたのだ。でも、運命の日はもうすぐそこに来ていた。
子供は産めない・・・。
苦悩する銀子。生きたい。そして、愛する男の子供を産みたい。この世界で生き続けていたい。どうすれば・・・。

「そうよ。わたしたちは、大事なことを見落としていたわ。わたしたちは、自分たちの力で、いろんなことを変えてきたわ。運命は、自分の力で変えることができる。そう信じるのよ。決っして、飛行機が落ちるなんて思っちゃ駄目。未来を変えるのよっ」
そう叫ぶ銀子。そして、それに頷き、懸命に祈る遊子。

果たして、ルナ航空797便は無事に到着するのか。
2人は運命を変えることができるのか。
最後は、ハラハラドキドキだった。
結末?
それは、わたしの大好きなハッピーエンド。
久しぶりに感動した作品でした。おもしろかった。
凍り付いていたわたしの筆をも溶かすほどの熱い作品だった。
ハートは最高の3つ。


観ていない方は、一度、観る価値あり?
1992年作品
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クリスマスの夜には、そんなことを思わせる雰囲気がある。
わたしを含め日本人の多くはキリスト教徒でもないくせに、ちゃっかりとそういうところだけは、日常生活の中に取り込んでいる。
だから、不本意な人生を終わった主人公の女性2人が、10年も時を遡って蘇るというかなり無理のある設定でも違和感がない。
この物語は、一種のタイムトラベラーものなのだ。ただし、「バタフライ・エフェクト」のように、主人公が超能力で過去に時間跳躍するのではなく、主人公が死ぬと、その時の記憶を保持したまま10年前の自分に戻っているという設定になっている。主人公の死によって、元の世界は、一旦、清算してあるから、タイムパラドックスが起こる心配もない。
映像のバックには、当時の懐かしい曲が流れている。
「Last Christmas」「ノックは夜中に」「そして僕は途方に暮れる」「異邦人」など・・・・・・。
わたしは80年代の楽曲が気に入っているので、もうこれだけでこの作品に夢中になってしまった。
出演者も感涙ものなのだ。
主演の清水美砂、工藤静香


懐かしい。お2人とも若い!
そのほかにも、鈴木京香、唐沢寿明、和泉元彌、デビィット伊東


とかなり豪華な俳優陣が脇を固めている。
もっと凄いのは、錚々たる漫画家たちの出演だ。
赤塚不二夫、石ノ森章太郎、つのだじろう、さいとうたかを、藤子不二雄A、永井豪。

みなさん、パーティシーンでのほんの一瞬の出演だが、今はもう拝見できないお顔もあって、懐かしさがこみ上げてきた。

これほどの著名漫画家が一堂に会したのは、原作者が藤子・F・不二雄であったからかもしれない。
藤子・F・不二雄と言えば、真っ先にドラえもんが思い浮かぶ。
ドラちゃんのポケットから出てくるいろいろな道具には、本当に夢があった。ストーリーに不思議な温かみがあって、いつまでも心に残る奥行きの深さがあった。
藤子不二雄は、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Aの2人組なのだが、2人の天才が、終生、仲良く協力してやってきたからこその奥行きの深さなのだろう。
原作の「未来の想い出」では、主人公は男性の漫画家「納戸理人」だったが、映画化にあたって、女性の漫画家「納戸遊子」に変更し、遊子の生涯の友として「金江銀子」を登場させている。これは、藤子不二雄が2人組の漫画家であったという事実に無関係ではない。不幸な人生を歩んできた2人が巡り合い、お互い励ましあいながら、成長していく様は、恐らく、2人の藤子不二雄の姿を投影したものだと推測できるからだ。
平成8年に藤子・F・不二雄は永眠されたが、この作品は、その少し前の平成4年に映画化されたため、藤子・F・不二雄もセリフ付きの占い師の役で出演を果たしている。

今、考えると、まことに貴重な映像となっている。
監督が森田芳光であるというのも、感慨深い。
わたしは監督の名前はあまり覚えないのだけれど、「黒い家」を観た時に、彼の名前が妙に印象に残ったのを記憶している。その後、「海猫」「模倣犯」などを観て、彼の撮った作品に独特の雰囲気があり、そこに魅かれるのだと思った。
小説家を尊敬を込めてストーリーテラーと呼ぶことがあるが、彼は映画界のストーリーテラーなのだと思う。物語の語り口が実に巧みで、ついつい引き込まれてしまうのだ。
すっかり前置きが長くなってしまった。
☆「未来の想い出」とは・・・・・・
飛行機の影が、行ったり来たりする象徴的なオープニング。

最後の最後にその意味が判る。実に細かい伏線が張ってあるのだ。
クリスマスの夜の街のテロップに流れる「ルナ航空797便墜落」のニュースにも意味がある。

これも伏線のひとつなのだ。
主人公の「納戸遊子/清水美砂」は、一流の漫画家になることを目指している。専任の担当者がついているところをみると、

出版社に投稿して、佳作か入選か、一定以上の評価を得ているのだろう。しかし、連載は勝ち取れていない。あともう少し、何かが足りない状態なのだ。新人にとって、一皮剥ける前が一番苦しい。足りないのは、ほんのちょっとのことなのに、それが何なのかがどうしても判らないからだ。そうやって、若い作家が挫折していく。
遊子もそのうちの1人だったというわけだ。
ライバルの「シマヤマヒカル/鈴木京香」

・・・一方的に遊子がそう思っているだけのことで、彼女は既に出版社に評価されていて、連載も単行本発行もある、売れっ子作家なのだ・・・は、どうしてだか、遊子と同じような作品を描く。だから、遊子は日の当たる場所に出られない。
今回の持ち込み作品は、遊子の自信作だったし、心の底から描きたいと思っていたものだった。それなのに、シマヤマが似たような作品を出版社に先に持ち込んだために、遊子の作品は連載してもらえなかったのだ。これが遊子の最初の人生での分岐点だった。
「もしも、あの時、電車が止まらずに、わたしが先に出版社に持ち込んでいたら・・・」
それから10年が経過し、ひとり映画館で涙を流す遊子には、

「誰かが何かを得れば、誰かが何かを失う、幸せの総量は一定なのだ」という悲しい諦観が漂う。わたしは、遊子の心境にひどく共鳴するところがあり、胸が締め付けられるように痛んだ。
失意の遊子が、年末の喧騒の中をふらふらと歩いていると、突然、呼び止める声がする。
それが、生涯の友となる「金江銀子/工藤静香」との運命的な出会いだった。

「結婚していても、クリスマスの夜だと言うのに、こんなところで占いをやっているのよ」
悲しそうにそう言う銀子も、遊子と同様に人生を諦めかけていた1人だった。
銀子は、憧れていたデザイナーの「倉美タキオ/デヴィット伊東」と親密になるチャンスを、たった1枚のタクシーチケットの有無の差で失い、

証券マンの「杉田行男/宮川一朗太」に口説かれるまま結婚し、不本意な人生を送っていた。

お互いの境遇を語り合った2人は意気投合し、電話番号を交換する。
神は、そんな2人に、もう一度、やり直すチャンスを与えた。
翌日、出版社主宰の忘年ゴルフコンペで、ホールインワンをした遊子は、その場に倒れ、絶命してしまう。同様に、銀子もその葬儀からの帰途上、不慮の事故で死亡する。
そして、奇跡は起こった。
気が付くと、彼女たちは10年前の世界に戻っていたのだ。
情報化社会と言われて久しいが、他人が知らない10年間分もの知識を持っているということが、どれほどのアドバンテージとなるかは、今更、論ずるまでもないだろう。
遊子は、ライバルのシマヤマよりも先に出版社に原稿を届けることに成功する。
「もしも、あの時・・・」を実践したのだ。
編集長は、前世の時とは違って、連載を約束してくれた。

当惑する遊子。
その気持ちはよく判る。つまり、遊子に実力はあったということなのだ。シマヤマの存在が遊子の成功の障害になっていたから、遊子の作品は陽の目を見ることができなかっただけなのだ。それは、「幸福絶対一定量の法則」の証明でもあった。
追い討ちをかけるように、編集長の言葉。
「さっきの話は、なかったことにしてくれ。シラヤマさんが、同じような作品を・・・」
「後先ではなく、わたしよりもシマヤマさんの漫画の方がいいンですね。それじゃ今度は、ヒットした作品を描いてこようかな」
こうして遊子は、ヒットすることが判っている作品を描き、出版社に認められる。
それは、前世では別の人間が描いた作品だった。遊子がその作品を描いたことで、「幸福絶対一定量の法則」により、本来の作者は、世に出るチャンスを失ってしまった。
彼女は彼女なりに罪悪感を持つが、一緒に過去に蘇った銀子から、
「あなただって、同じような経験をしたでしょう? 誰かが何かを得ると誰かが犠牲にならなければならない。早いもの勝ちなのよ」
と慰められる。
だが、彼女にはもっと大きな問題があった。
「これは、わたしが本当に描きたかった作品ではない」
苦悩する遊子。
成功しても、満たされない日々。
刻々と迫る、10年後のあのゴルフコンペの運命の日。
一方、銀子も「もしもあの時、わたしがタクシーチケットを持っていたら・・・」を実践し、倉美と親密になっていた。

さらに、経済や競馬などの賭け事の記憶を持ったまま過去に蘇った銀子は、その知識を駆使して、投資コンサルタントとしての名声と巨額のお金を手に入れていた。
欲しいものは全て手に入れたように思えた銀子であったが、彼女にも手抜かりがあった。倉美はデザイナーだったが、銀子はファッション動向の知識を持っていなかったのだ。彼が成功するために、いつ、どんなファションが流行るのか、彼に教えてあげたいのに、
それができない。銀子に焦燥感が募る。
そうこうするうちに、彼女の2度目の人生も、あっという間に10年が過ぎる。
3度目ともなると、要領も判ろうというもの。
彼女たちは、実に見事に人生をやり直した。まさに悔いのない人生とはこういう人生をいうのだろう。
何事に対しても積極的に取り組むようになっていた遊子は、2度目の人生で知り合い、心魅かれた能楽師「夏木寿也/和泉元彌」に

自分から愛していると告白し、交際を始めていた。そして、その彼の励ましもあって、遊子は、自分の意思で自分の描きたい作品を渾身の力で描き上げたのだ。

そして、それが認められた。
遊子に足りなかったもの。それは、「作者としての強い気持ちと気合」だったのだ。この作品は必ずヒットする、読者に受け入れて貰えるという自分を信じる気持ち、それが欠けていたのだ。
遊子は、見事に自分を改革した。そして、自分の力で成功を手繰り寄せたのだ。
それを教えてくれたのが、夏木だった。

もはや、遊子にとって、夏木はなくてはならない存在になっていた。
一方、ファッションの知識を十分に持って蘇った銀子は、大好きな倉美のために、あらゆる援助を惜しまなかった。倉美もそれに応え、仕事に打ち込んだ。
問題なのは、前世での結婚の失敗の原因である。仕事がうまくいっているのは、前世の夫の杉田も同じであった。杉田は、銀子を顧みなかったのだ。倉美はどうなんだろうか。
仕事で遅く帰った倉美は、「おかえりくらい言ってくれよ」と不満を漏らす。
うたた寝をしていた銀子は、「遅く帰ったのはあなたの方よ。男の人って、どうして・・・」と言い募る。この時の銀子には、前世での失敗が、頭の中を過ぎっていたことだろう。
「そうか。この頃、お互いに忙しくて、2人だけの時間が取れていなかったね。これじゃあ、何のために銀子が俺のために尽くしてくれたのか判らなくなってしまう。思い切って、時間をつくろう。2人だけで過ごそう」

ああ、何て素敵な言葉だろう。これで、銀子は救われた。
「やはりあなたは違う。よく気付いてくれたわ」
銀子に、もはや悔いはなかった。
未来の想い出とは、挫折と後悔のことだった。
1度目のやり直しの時は、「もしも、あの時、こうしていたら・・・」を実践し、その結果、ある程度、成功を収めるものの、本当の心の満足は、そんなことでは得られなかった。
2度目のやり直しの時に、初めて新しいことに取り組んだのだ。新境地を開拓した2人は、それによって大きな満足を得た。もはや2人とも、人生をやり直したいなんて思っていなかった。
☆妊娠とルナ航空797便
それでも、近づく運命の日。
やり直したいと思っていないのに、いやでもその日はやってくる。
あろうことか、夏木がフランスから帰国する便に、ルナ航空797便を選んでしまったのだ。ルナ航空797便は墜落することになっている。
どうしたら、わたしの大切なあの人を助けることができるのか。
半狂乱の遊子。
それを必死で支える銀子。
実は、銀子も絶体絶命の危機に陥っていた。
愛する倉美の子供を妊娠していたのだ。でも、運命の日はもうすぐそこに来ていた。
子供は産めない・・・。
苦悩する銀子。生きたい。そして、愛する男の子供を産みたい。この世界で生き続けていたい。どうすれば・・・。

「そうよ。わたしたちは、大事なことを見落としていたわ。わたしたちは、自分たちの力で、いろんなことを変えてきたわ。運命は、自分の力で変えることができる。そう信じるのよ。決っして、飛行機が落ちるなんて思っちゃ駄目。未来を変えるのよっ」
そう叫ぶ銀子。そして、それに頷き、懸命に祈る遊子。

果たして、ルナ航空797便は無事に到着するのか。
2人は運命を変えることができるのか。
最後は、ハラハラドキドキだった。
結末?
それは、わたしの大好きなハッピーエンド。
久しぶりに感動した作品でした。おもしろかった。
凍り付いていたわたしの筆をも溶かすほどの熱い作品だった。
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![]() | 未来の想い出 Last Christmasバンダイビジュアルこのアイテムの詳細を見る |
日本では、最も偉大な漫画家の
1人でしょう。
これに出てるなんて知りませんでした。
先生は、非常に複雑なタイムトラベルもの
や、SFを、とても天才的・上手に
読者に伝える作風があった。
どの作品も、娯楽性があって、おもしろ
かった。
すごいことだと思います。
赤塚先生も元気で台詞を言っているし・・・。
さて、もう寝なくっちゃ。
早朝のブラジル戦を見ないとねっ
まあ、王者ブラジルなので、仕方ない
日本は、サッカーの伝統がないわりには
がんばっているよ
これからも、サッカーで、世界を舞台に
活躍するひとを出して欲しいねー
ああ、日本にも彼みたいな選手がいたらなぁ
と思ったのは、わたしだけではないでしょう。
あのフリーキックは凄かった。
あるビデオレンタル屋さんでこれを見つけて
面白くて期間をあけて3回ほどかりました
ビデオはででいないかなと思ってたら
近々発売というニュースをネットで見て神様 に感謝(映画から結構年数がたってたか ら)早速買いました
今日で10回くらい見ましたが ふとクリス
マスにルナ航空のテロップが流れてたので
これって事実だったかな~と検索してたら
こちらにきました
小説書いてらっしゃるとのこと
頑張ってください
僕の彼女はサイボーグ 映画を見てすぐに
ビデオがほしくなり買いました
これもすごくいいですよ
一度見てください
長い間、このブログもお休みしていますが、
体調もよくなってきたので、そろそろ再開しようかなと考えています。
なかなか決心がつかないので、困っています。
「僕の彼女はサイボーグ」は、本当におもしろかったですね。封切直後に映画館で観ました。DVDでも何度か見なおしました。
感想を書きたい作品は、たくさんできたのですが、、、、、