Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Pat Buckna

2008-06-08 | SSW
■Pat Buckna / Roll Me A Dream…■

  音楽の世界を離れ、ビジネスの分野で成功するミュージシャンは数多くいますが、今日ご紹介する Pat Buckna もその一人。 カナダ出身の彼は 1982 年にこのファーストアルバムを発表し、その後数枚のアルバムをリリースしたのですが、1990 年に Mayhill Consulting という会社をバンクーバーに設立し、現在はもっぱらコンサルティング業を営んでいるようです。 会社の公式ページをみましたが、それなりの実績を上げているようでした。 
  Pat Buckna はもともと脱サラのミュージシャン。 このアルバムを制作する 8 年前の 1975 年に勤めていた化学肥料プラントでの仕事を辞め、家も売り払って家族と共にアルバータ州に移り住んでいます。 そこで出会った多くの友人やミュージシャンと作り上げたのがこのアルバム。 そこには人生をいったんリセットし、自らの夢を追った男のロマンのようなものが感じられるのです。

   Pat Buckna のサウンドをひと言で言うならば、枯れた男の哀愁という感じです。 その味わいは Richard Thompson のソロアルバムに通じるものがありますが、それは声質だけでなく楽器の編成や曲調からも感じ取れます。 とくに「That Long Distance Feeling」、「Shakin’ The Hand (Of The Energy Man)」や「Liberty (Slippin’ Away)」などのバンド色の強い曲は、アメリカというよりはイギリスのトラッド系フォークロックの匂いがします。  いっぽう、「Pale Lights」や「The Dancing Lesson」といった弾き語り系の曲は渋みがさらに増しており、アルバムの聴き所となっています。 
   アルバムタイトル曲の「Roll Me A Dream (Old Cowboy Song)」はタイトル曲にして唯一の他人の楽曲。 Paul Hepher というカルガリ出身の SSW による曲ですが、彼がレコードをリリースしているかどうかは不明です。  その他の曲はすべて Pat Buckna 自身によるものなのですが、アルバム全体を聴き通してみると、全体のなかのアクセントになる曲が欠けているように思います。  シングルカットできそうなキャッチーさが無いうえに、地味で重々しい曲調「Bugaboos」がオープニングとなっているせいもあって、なかなか積極的に評価されにくい内容となっているかもしれません。 しかし、このアルバムは何度も聴くにしたがって、より味わいが深まっていくタイプなのでしょう。 カナディアン・ロッキーの大自然に育まれた懐深いアルバムと言えるかもしれません。

  さて、冒頭にも触れたように、Pat Buckna は音楽活動から身を引き、バンクーバーで起業することになるのですが、その二度目の転機を決断した理由は定かではありません。 もちろん、音楽では成功しなかったということが背景にあるとは思いますが、このアルバムからは、Pat Buckna が数年後に起業してビジネス界で成功するという奇異な運命をたどっていく前兆は全く感じられません。



■Pat Buckna / Roll Me A Dream…■

Side-1
Bugaboos
That Long Distance Feeling
Back Home In Alberta
Pale Lights
B.C. Jaded

Side-2
Shakin’ The Hand (Of The Energy Man)
Along For The Ride
The Dancing Lesson
Roll Me A Dream (Old Cowboy Song)
Liberty (Slippin’ Away)

All Selections by Pat Buckna except ‘Roll Me A Dream’ by Paul Hephier

Pat Buckna : vocals , acoustic guitar
John Alexander : bass
Gary Bird : telecaster , harmony vocals
Ron Casat : keyboards
Sue Clayton : harmony vocals
Richard Harrow : harmony vocals
Ken Hamm : national slide guitar , washburn acoustic guitar
Jack Hiles : drums
Dave Liske : harmonica, banjo
Zeke Mazurek : violin
Gene Seymour : congas
Dwight Thompson : bass
Nathan Tinkham : telecaster , harmony vocals , acoustic & lead guitar

Jamadam Records DWM-3332